探査を掛けても反応が無い。
見た目に目立つ何かが有る訳でもない。
だと言うのに。
「此処だな」
「ココだよね」
「問題は、開け方かあ」
探索技能持ちの冒険者3人が、そんな何の変哲もない壁を拳で軽く叩いたり腕組みしたりして、なにやら断定している。
正直滑稽な絵に見えて仕方ないのだが、それなりに真剣な様子なので茶化したら怒られそうだ。
私や他のメンバーはそんな3人を囲むように様子を見ている。
「普通に考えたら、鍵は管理者が持っているモノだが……」
笑っても良いのか迷う私に、全員の視線が集まる。
あれ? さっきまで、みんなあっち見てたのに?
「鍵……と申されましても、思い当たるモノが無いのですが……というか」
私は表情の選択に困りながら、とりあず視線をタイラーに固定させる。
「本気で、その……何の変哲もない壁に、何か仕掛けが有るとお思いなのですか?」
何度見ても確認しても、それはただの壁でしか無い。
探知はするりと流れるし探査に引っ掛かりも無い。
「……どう見ても、ただの壁なんですが」
周囲の視線を一身に浴びながら、私は探索得意組の脇を抜け、壁の前に立つ。
正直ただの壁でしか無いのだが、考えてみれば、私がここに立ったのは初めてのことだ。
なにせ、この広い玄関ホールの大扉の真正面。
入り口からは遠い上に、私たちが生活の拠点としているブロックはこの壁の、正面向かって右の通路の先だ。
仮に何かの用事があって左の通路側に行くにしても、普段なら玄関ホールを経由したりしないし、外から戻って左に行くにしても、わざわざこんな半端な位置に立ち寄ることもない。
経路から、ことごとく外れているのだ。
そんな何の変哲もない壁に、そっと手を触れてみる。
それは、特に意図した行動ではなかった。
強いて言うなら、何も無いことを確認するための、それだけの行動。
だと言うのに、壁は
思いもよらぬ事が目の前で起こると、人は言葉をなくす。
私は呆気なさと馬鹿馬鹿しさと、何処に向けたら良いのか
気まずい。
「――つまり、この『霊廟』の管理者であるマリア自身が鍵だった訳か」
非常に気まずい。
「そうみたいだけどさ。それは良いけどさ。そんな重要なこと、本人が知らないとか有る?」
壁が消失し、暗い通路には即座に照明が灯った。
この結果を見れば、見てしまえば、それはつまり。
先代がこの通路を封鎖、ないし封印していた事は明白だ。
「この空間で怪しいところは大体調べたとか言って無かったか? こんな目立つトコ、気付かないことの方がどうかと思うけどな、俺ぁ」
しかし、こんな事は聞いていない、と言うのは置いておくとしても。
私は、確かに直接触れたのは初めてだが、しかし、探査を掛けたことは有ったし、ついさっきだって何の反応も無かった。
それほど高度な隠蔽が掛けられていた、と言う事なのだろうか。
「先代さんが、この子を信用してなかったのかしら? それとも……別の意図でも有ったとか?」
リリスの言葉が、私の鼓膜に刺さる。
おそらく、それは両方だろう。
私は予め、簡単な予想については全員に話していたが、先代に関する不審点に関しては適当にぼかしていた。
「いや、コイツがその先代の話を聞いてなかった線も有るだろ」
イリスが呆れ気味に言うが、そう勘違いされるように話したのは私だ。
少なくとも、私は、先代がマスターから受けた本当の命令に関しての予想を口にしては居ない。
私はほぼ無意識に、足を進めていた。
開いたばかりの、埃ひとつ無いその通路に、私は足を踏み入れようとしている。
「それにしても、良くこんなトコに有るなんて気付いたな、タイラーくんよ」
「なに、ウチの屋敷を思い起こしただけだ。こういうご立派な屋敷なら、階段は玄関ホールに有るものだろう?」
「なんだそれ。当てずっぽうにしても、もうちょっとこう、なんか有るだろ」
背後の会話が、遠く聞こえる気がする。
通路へと足を踏み入れた私は、気が付くと暗闇に呑まれ、そして意識を失った。
目を覚ましたのは、メディカルルームだった。
私はメディカルポッドの中で意識を取り戻し、私を見下ろす視線を感じながら
ポッドに放り込むのにあたって私の衣服は全て剥ぎ取られていた。
「おい、聞こえるか? どうなんだ、大丈夫か?」
アリスの声が聞こえる。
薄暗い視界が、明瞭になって行く。
「はい、聞こえます。ご心配お掛けしました」
ポッドの縁に手を掛け、私は立ち上がりながら周囲を見回す。
私を見る顔ぶれの中に、何故かタイラーとイリスが居ない。
アリスが心配そうな顔なのは理解出来るが、エマとカーラも揃って心配げな顔なのは意外だった。
「急に目を開けたまま倒れるんだもの、壊れたかと思ったわ。でも、問題は無さそう……かしら?」
逆に予想通りというか、こちらは全く心配している風もなく、リリスが口を開く。
「そうですね、問題は……服を着たい程度です」
リリスへと顔を向けて答えてから、私は周囲を見渡す。
ご丁寧にヘッドドレスまで外されているし、全裸で複数の視線に晒される状況というのはどうにも居心地が悪い。
本当はもっと大事な、伝えねばならない事が有るのだが、全裸で真面目な話はどうにもし難い。
「はい、マリアちゃん、お洋服だよぉ」
エマが手渡してくれた、綺麗にたたまれた衣服を受け取り、私は手早く
「……エマ? なんだか……スカートが短いのですが?」
キッチリと着込んでから、私は異変に気がつく。
いや、正確にはスカートを手に取った時点で気が付いては居たのだが、下半身パンイチよりはマシだろうと、取り敢えず履いてみたのだ。
「あのね! 頑張ったんだよぉ!」
膝丈、と言うには嫌に膝上の露出が多い気がするし、履いてみるまで気付かないのもどうかと思うが、両サイドに深いスリットが有る。
どこかで見た覚えのあるその意匠は、「裸より恥ずかしい」よりはマシ、程度のものでしか無い。
制作者で、かつ、同じデザインのスカートを履いているエマが、とびきりの笑顔を見せている。
上半身が真っ当な服で、本当に良かった。
「……後でお時間を頂いて、着替えとエマにお説教です」
展開的には、これから私は全員に、この空間と私に起こったことを説明しなければならない。
それはシリアスな場面である筈なのだ。
エマに礼の言葉を向けた
エマにはその調子で、本題を忘れさせる程度の混乱を撒き散らして頂きたいです。