迷子のマリア   作:naow

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主人公の入浴シーンがサービスカットにならない、珍しい作品です。


126 勇み足オーバーブースト

 思わぬ事態により、私のスカートが膝どころか腿まで露出するほど短くなってしまった。

 今すぐ着替えたいし、何より私の身に起こったことを説明したいのだが、生憎と時間が無い……らしい。

 

「せっかく次のフロアへの通路が見つかったんだぞ! 着替えなど後に回せ!」

「単純に恥ずかしいのですが?」

「大丈夫だ問題無い! それに、エマに聞いたぞ! お前は蹴りも得意だそうじゃないか! ならその格好は丁度良いな!」

「問題以外が見当たりませんが? こんなスカートで蹴りなど放ったら、私の羞恥心が大ピンチなのですが?」

「多少は皆目を瞑るさ! さあ急ぐぞ、お前が居なくては先に進めない!」

 

 カーラがかつて無いほどのやる気に満ちている。

 満ちすぎて溢れている。

 それでも私の回復を待ったのは、きっと彼女自身の根底に有る底しれぬ性格の良さ。

 

 ――等では無い。

 

 先程からやたらと急かして私を先頭に立たせようとするカーラは、恐れているのだ。

 踏み込んだ途端に意識を失った私を見て、何らかの攻撃を受けたのかと。

 だから、都合よく私を盾に使おうと思っているのだろう。

 

 その証拠に、いちいち私を鼓舞するような言葉を並べてみたり急かしてみたりと懸命なカーラだが、少しも目を合わせようとしない。

 理解(わか)かり易いにも程があろう。

 

「心配せずとも、罠の類はもう有りませんよ」

「いいや信じないぞ! お前程の人形が倒れたんだ! 精神攻撃か? 見えざる攻撃か!? 油断など出来るものか!」

 私の背を押しながら、カーラは勇ましく震えている。

 その高身長を縮めた所で、私の背に隠れるには少しばかり無理があると言うのに。

 

 カーラだけでなく、この場の大半は罠、無いし防衛装置的な何かを想定し警戒しているようだ。

 ただ、私とエマ、リリスとイリスの4名が、他5名と緊張感を共有出来ていない。

 私以外の3名は共通して、私よりもレベルが高い。

 だから、何らかの攻撃の痕跡が無いことに気が付いたのだろう。

 アリスも私より若干レベルが高いが、彼女は気付けなかっただけで何らかの攻撃は有ったと認識しているようだ。

 

 私が倒れたのは、攻撃を受けたわけではなくて、単に私自身のアップデートが行われただけなのだが……カーラの勇み足による強行軍の最中、説明のタイミングを完全に失ってしまっている。

 

「精神攻撃と言えば……まあ、そうなのかも知れませんが」

 

 予告無し、事前情報無し、そもそも自身の能力に封印が施されていたなど、気付く訳もない。

 今まで違和感は無かったのかと問われれば、そんなもの。

 

 急に死んで生き返ったと思えば人形の身体で、生活環境までまるで違う世界に目覚めたのだ。

 違和感しかないに決まっている。

 

 木を隠すなら森、違和感を隠すなら違和感の渦中、と言ったところか。

 全く、先代には色々としてやられたらしい。

 

「やはりそうか! どうなんだ、次は防げるのか?」

 

 背中に張り付くカーラが、声に緊張を滲ませる。

 私は疲れ気味で投げ遣りな視線を、双子魔導師の方へと巡らせる。

 イリスは口元をニヤつかせて目を逸らし、リリスはにっこりと笑顔で私の視線を受け止める。

 

 頼むから、どっちか何か言え。

 

「まあ、次は無いですよ、アレが最初で最後です。もし有るとしたら、更に先のフロアに進む時、ですかね」

 

 仕方がないので、私は自分の口を開く。

 人の報告を後回しにするようなせっかちさんを説得してやるのも業腹だが、いい加減背中を押されて歩くのも鬱陶しい。

「断定する根拠はなんだ? 私にとって、お前が手も無く倒されるような攻撃、恐ろしくて仕方がないんだぞ!?」

 私に魔法の手解きをした人形が、私の背に隠れて自信満々に情けない事を言っている。

 私は溜息を噛み潰し、代わりに再度口を開く。

 

「そもそも、攻撃ではないのですよ、あれは。不意打ちと言う点に於いて、私にとっては攻撃と変わりが無いと言うだけです」

 

 私の背を押す力が緩み、私はようやく自分のペースで歩けるようになった。

 足の長さが違うのだから、せめて私の方に合わせる位の度量は見せて欲しかったのだが。

 ともあれ、疑問を感じたことで私の話を聞く姿勢には入ったらしい。

 周囲も私を見ているようだが、引っ掻き回すような事を言い出す者は居ない。

「アレは、先代の置き土産です。封印されていた機能の解放と、一部能力の向上を行うために、一瞬で私の意識を奪ったのです」

 PCのアップデート後の再起動に似ているかも知れない。

 

「一瞬で? ……じゃあ、()()()()()()、お前さんが『メディカルルームへ』って言ったのは、最後の力を振り絞ったんじゃ無いのか?」

 

 来ると思っていたカーラとは違う声音に首を巡らせると、アリスが歩調を緩めずに私に顔を向けていた。

「そんな事を言ったのですか? 私が? 私は速やかに意識を失いましたので、何も言っていないと思いますが」

 答えながら、しかし考えるまでも無いだろうな、と思っていた。

 私の身体(からだ)に何がしかの細工を施せる者となれば、先代かマスターくらいだ。

 おおかた私の意識を奪い、アップデートファイルや新規アプリを勝手に放り込んで、それらが私の中で安定するまでは安静に、出来ればメディカルポッドにでも放り込んでおきたかったのだろう。

 霊廟(ここ)でなら、それも可能なのだし。

 

 こうして考えてみると、似たようなモノと言うか、完全に再起動だった。

 

「システム音声みたいなものかしらね? 同じ声だから、私達には気付けなかったけれど」

 

 リリスの声に、納得顔が幾つかと、それ以上に意味不明顔が幾つか並ぶ。

 この小生意気な魔導師は、何処まで見抜いて把握しているのやら。

 

 とは言え、システム音声、か。

 言い得て妙、素直にそう思えた。

「よ、良く理解(わか)らないが、本当にもう大丈夫なのか? 本当なのか?」

 カーラは尚も心配げに、私への質問を重ねる。

 気の小さいことだ、そうは思うが実際に私が目の前で倒れている以上、仕方が無い事かもしれない。

「ええ、あれは私にしか作用しないモノですし、それも一度で済むようなものです。先程も言った通り、今回は大丈夫ですよ」

 背中のカーラに言葉を投げ、私は小さく肩を竦める。

 

 今回は大丈夫だが、次回以降は判らない。

 

 色々と恩も有る先代だが、この「霊廟」に関する情報の秘匿と今回の私のアップデートで、信頼は著しく失われた。

 最悪、マスター候補を見つけた瞬間自爆するような何かを仕掛けられた可能性すら有る。

 

 ……冗談に近い思いつきだったが、案外笑えない気がしてきた。

 

「な、なら、先に進むぞ! そこに工房が有るなら、目的はそこで果たされるのだから!」

 空元気とはっきり判る声を張り上げ、再びカーラが私をグイグイと押してくる。

「押さなくとも進みます、もっと周りと歩調を合わせなさい。お友達を置き去りにする気ですか」

「大丈夫です! 私も楽しみなので!」

 今まで会話に参加してこなかった錬金術娘が、小走りで私の横に並び、好奇心に彩られた笑顔を向けてきた。

 

 私はただ、押されて歩く鬱陶しさから解放されたかった、それだけなのだが。

 

 こんな時は何も言わない双子魔導師やその配下らしき眼鏡に文句のひとつもぶつけてやりたいが、余計なことに気を回したら転びそうなので、私はうんざり顔で前を見る。

 これで次のフロアも客間迷宮だったらこの2名はどんな顔をするのか。

 

 むしろそっちの方が楽しそうだと、私は乾いた笑いを頬に貼り付けるのだった。




性格の悪さでは、私のことをどうこう言えないと思うのですが。
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