迷子のマリア   作:naow

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考えすぎて身動きが取れなくなる。自縄自縛と言う状態ですね。


128 稼働する意志

 カーラとレイニーはキラキラの顔で、しかし工房には踏み込まず律儀に私達を待っていた。

 私の許可を待つ程度の理性はギリギリ持ち合わせていたらしい。

 

 人形作りを許可しなければ、どういう顔をするだろうか。

 

 

 

 私が双子魔女に頼んだのは、レイニーに魔法、或いは呪術的な干渉が認められたら即座に対処して欲しい、と言う事だ。

 この2人なら、解呪程度なら出来るだろうと思ったし、2人も特に難色を示すことは無かった。

 

 その上で、私は工房には踏み込まない事に決めた。

 

 レイニーに対する攻撃だけでなく、私自身も何らかの精神操作を受ける、いや、すでに受けている可能性が有るのだ。

 その危険が有る以上、引き金を引くような真似は避けたい。

 

 そんな事になったら、私が確実に破壊されてしまうのだから。

 

 ちなみに、解呪方法に関しては双子に丸投げだ。

 残念ながら、私は解呪や精神操作解除は使えないから仕方ない。

 双子は揃って異様にレベルが高いし、万が一私が暴れた時に拘束出来るよう、いつぞやカーラを縛り上げたミスリルロープも渡してある。

 

 ここまでしておけば、もはや私の出る幕も無かろう。

 

 待ちきれない様子の2人に工房の使用許可を出し、監督は双子に任せ、私は広場らしきスペースでぼんやりと一同の気が済むのを待つ。

 エマは着替えた私に露骨にがっかり顔だったが、服飾工房が有ると知るや物凄い勢いで走って行ってしまった。

 

 ……まあ、静かになるから良いだろう。

 

 期せずしてひとりになった私は、先代がこの空間を封印した意味を考える――事もなく、ただただぼんやりと過ごすのだった。

 

 

 

 途中でなぜかひとり抜け出してきたイリスがのほほんと散歩するように何処かへ消える背中を見送ったり、工房から何やら騒がしい声が聞こえて居眠りを邪魔されたり、それなりに充実したサボり時間を満喫した私の前に、長身の影が立った。

「工房の使い方は大体把握できたぞ」

 どこか自慢気に、カーラが胸を張っている。

 少し前から不思議だったのだが、カーラは外骨格式の筈だ。

 何ならその全裸姿も見ている。

 

 なのに何故、その胸は揺れるのか。

 

 わざわざ別パーツ化しているのだろうか?

 ドクター・フリードマンは、なかなか芸の細かいお方だったらしい。

「そうですか。私は錬金術も人形造形も全く判りませんから、お任せしますよ」

 考えている事を表情に欠片も浮かべず、私は無機質に応じる。

 そんな私に対して、カーラは押し黙って、何か探るような視線を向けていた。

 

 まさか、表情に出ていたのだろうか?

 いや、ガン見していたらそれはバレるか。

 

「それで……なんだが。その」

 

 私はカーラの胸を見ていた視線を上げる。

魔法銀(ミスリル)の使用許可を貰いたいのだが」

 カーラの口から出た言葉で、どうでも良いことを考えていたことが看破されていないと知り、安堵しつつも表情は無をキープする。

「ああ、そう言えばそんな事を言っていましたね。どれくらい必要ですか?」

 カーラは自分の手足となる人形を作りたいと言っていた。

 人工精霊は不要だと言っていたから、出来上がるのはトアズで見た廃棄人形(できそこない)に似たものになるのだろうか。

 

「その……200キロくらい……欲しいなあ、なんて」

 

 素で、私は浮かべるべき表情を失った。

 要求数量が増えている。

 

 私は見下されている形なのだが、威圧感を放っているのは私の方になっているだろう。

 脳内では、返答以前にミスリル200キロで幾らになるか、軽く計算を行っていた。

 

「駄目……だろうか?」

 

 見下ろしながら懇願するという良く判らない状態のカーラが、覇気のない声を上げる。

 駄目も何も、そもそもそんなに渡した所で私に利が無い。

「そっ、それだけ有れば、私は役に立てるぞ! 後悔はさせない!」

 私の内心を汲み取ったのだろうか。

 必死な様相で私の説得を試みるカーラに対して、私の表情は冷めきっているだろう。

 

 役に立つと言っても、どんな場面でどう役に立てる心算(つもり)なのだろうか。

 

 カーラと同レベル程度の人形が複数居た所で、大森林の賢者どころか、あの双子や不死姫様の前で壁役をこなせるとも思えない。

 纏めて蹂躙されて終いだろう。

 それに。

 

「……必要なのは、ミスリルだけではないでしょう? 他の金属は勿論、有機素材も大量に使いますよね? それも私持ちになる訳ですが、それらの対価はなんです?」

 

 出資は構わないが、見合う対価は齎されるのか。

 私は慈善家ではない。

 仲間だからと無制限に甘やかす気質の持ち合わせも無い。

 

「私の忠誠を」

「……はぁ?」

 

 カーラの提示した対価に、全く心が動かない。

 魔法知識が深く、魔法関連の相談は確かに役立つが……その対価に金貨にして総額2000枚に及ぶ価値が有るものか、大変に疑わしい。

 

「……100キロにも難色を示した私が、その倍も出す対価にしては――弱いですね」

 

 自分でも判る私の冷たい声にカーラは気圧されるが、どうにか踏み止まる。

 その根性は見上げたものだが、それに免じて……等となる訳が無い。

 

「頼む! このフロアの管理責任者として、きちんと仕事をこなすから!」

 

 何処で覚えたのか、カーラは私の前でがばと土下座スタイルを見せる。

 ゴシックドレスの高身長女の土下座姿などなかなか見れる物ではないが、その前に。

 

 今、コイツは何と言った?

 

「……フロアの、管理責任者……? 何の事です?」

 

 私の声に、猛烈な嫌な予感が混ざる。

「いや、工房を使用するに当たって、工房の制御パネルにな?」

 一転して、私の顔は呆けていただろう。

 

 制御パネル?

 

 そんな物が有ったのか?

 私は工房に踏み込んでいないから見ていないし知らないが、普通工房にそんな物が有るのだろうか?

「工房設備の使用に当たって、管理者登録が必要だと言うから、手順に従ってスキャンを受けて」

 カーラの言っていることの、半分程度が理解出来ない。

「後継として、フロアの管理責任者として認めると出たのでな。了承したのだ」

 了承前に私に確認を取るとか、そういった考えは無かったのだろうか?

 私はたっぷり数秒、言葉も無く、土下座の姿勢で顔を上げるカーラを見ていた。

 

「だから、しっかりと働くから! どうか、魔法銀(ミスリル)の使用許可をくれ!」

 

 決死の表情のカーラに対して、私は。

 

「……少し、待っていて下さい。あ、土下座は解いて頂いて結構ですが、私が戻るまで正座して待っているように」

 

 指示を出してふらりと立ち上がると、どうしたものかと考えながら1階ホールを目指して足を動かす。

 双子の魔導師は、何をしていたのだろうか、そう考えて私は自身の間抜けさに溜息が幾つも溢れる。

 想定していたのはレイニー嬢が後継者に認められてしまう危険性だった。

 カーラがその席に収まることは、彼女たちも想定していなかったし、極論すればレイニー嬢に危険が及ばないのであれば、他はどうでも良かったのだろう。

 

 予想外過ぎる出来事に、取り敢えず私は大きく深呼吸して。

 

 どこにどう、この遣り切れない感情をぶつけるか、思案するのだった。




傍観しているのが、なんだか面白くなってきました。
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