虚ろな目で一旦玄関ホールに戻った私は、貯蔵庫から
ついでに分厚い鉄製の箱を取り出す。
縦横が60センチ×30センチ、高さは10センチ程度の、箱というよりはバットのような……勿論、野球に使う方のバットではない、料理等に使うアレの、異様にゴツいものだと思って貰えば良いと思う。
無闇に頑丈なので、金属のインゴットを100キロ程度なら乗せても問題無いだろう。
私はそれを5枚程と、何故有るのか
思った以上に準備が整った私は、死んだ目で2階へと向かうのだった。
十露盤板が判らない人は、「石抱」で検索してみれば良いと思う。
洗濯板を知っている人ならば、それが攻撃的で大雑把なデザインになったと想像してくれればいいと思う。
「動かないで下さいね? 落としたインゴットは没収ですよ?」
まあ、拷問器具なので、人によっては閲覧注意かも知れない。
「ま、まってくれ! 痛みは無いが、
十露盤板の上に正座させたカーラの腿の上に乗せたバットに、インゴットを綺麗に並べていく。
当然積み重なって行けば重量は増していく。
ぼちぼち、100キロに届くだろうか。
「大袈裟ですね。ドクター・フリードマンの設計が、そんなにヤワな訳ないでしょう。それでは、もう一段行きますよ」
私は新たなバットを積み重ねたインゴットの上に乗せ、新たにインゴットを積んで行く。
「たっ、確かにドクターは偉大だ! だが、それはそれとして! 膝と足首の関節が変な音を立ててる!
本来は両腕を後ろ手に縛って行うのだが、今回はフリーにしている。
カーラは元気に喚きながら、貴重な
観客と化している他のメンバーは、双子でさえ、私の座った目を前に、何かを言ったりカーラを助けようとしたりはしない、出来無い。
レイニーは青い顔でオロオロとカーラを見ている。
何故私がこんな陰湿なことをしているかと言うと、端的に言えば怒っているからである。
「どうして、そんな重要な決定をする前に、一言相談が無かったのですか? この『霊廟』は誰の持ち物か、忘れてしまいましたか?」
結果的に3段、300キロの重さに耐えつつ
まさか私がここまで怒るとは思っていなかったのだろう。
言わせて貰えば、
レイニー嬢を管理責任者にしなかった点については、褒めても良いとさえ思っている。
下手にそんなモノにしてしまえば、自動的に私はこの街に、イリスの屋敷に縛り付けられることになっていただろう。
そういう事態を未然に防いだという意味では、私はカーラに感謝している。
それを形にして示したのが、要求よりも100キロ増量したミスリルインゴットの山だ。
だが、それはそれとして、だ。
報告・連絡・相談は基本にして、とても重要だと思うのだ。
人だろうが人形だろうが、そこに変わりはない。
「本当にごめんなさい」
涙目のカーラは、もう余計な言い訳を並べずに素直に頭を下げる。
一応は、私の怒りは伝わってくれたようで何よりだ。
「で? 現場の監督を任せた方々は、なにか言い分は有りますか?」
カーラへの折檻は終了とし、私は矛先を変える。
そこでは、私がわざわざ事前に説明を行った筈の馬鹿が4名、私の目を見ないように立っている。
「わ、悪かったよ。いや、俺らはほら、レイニーちゃんに危険が無いように見てたから、な?」
言い訳を並べながら、イリスは視線をウロウロと彷徨わせる。
「それ以外はどうでも良かったと? とんだ責任感ですね、感心致します」
カーラがはしゃいで私への報告を忘れていたとしても、見ていた者達、特に私が相談した4名は何かしら行動が出来た筈である。
例えば、誰かが一旦カーラに待ったをかけ、他の誰かが私に経緯説明を行うとか。
それをしなかったばかりか、約1名は呑気に散歩などに出掛けていた有様である。
私がピシャリと切るとイリスはそれ以上何も言えず、バツが悪そうに大きく視線をそらして頬を掻いた。
「わ、私は何かの罠がないか、ちゃんと見てたわよ? そこに集中してたから、誰が何をしてるのか、それは見てなかったと言うか……」
リリスが妹と同じように視線を逸しながら言い訳を並べようとするが、語尾は弱々しい。
言い訳しているものの、やらかした自覚は有るという事だろう。
大変結構なことである。
「その辺りの話は、そちらで済んでいると思っていたからな。報告の必要を感じなかった」
眼鏡は堂々と言い切るが、その視線は微妙に私の目からは外れている。
自信満々に言うのなら、態度もそれに準拠した方が良いと思うのだが?
「ごめんなさいねえ、こんな秘密めいた場所の工房だから、そんなものかなって思っちゃって」
ジェシカは、謝罪するとなればきちんと目を合わせてきた。
しかし、その言い分は……いや、うん。
そう納得しかけたが、良く考えると私に報告なり確認なりを行わない時点で駄目だろう。
索敵や様々な状況の伝達をしない
「……私の『霊廟』の1フロア全体の管理を、こんな情けない有様の人形に持たせてしまった責任については、追々問わせて頂きます。カーラについては、錬金術師レイニー様と共に人形制作を許可します」
言いたい事が有りすぎて、喉元で渋滞してしまっている。
ついつい私の墓地であるかのような発言をしてしまったが、それは些細な事だ。
当事者たちは私が思いの外怒っていることにそれぞれ思うところがあるのか、それぞれの表情で黙っている。
まあ、タイラー以外は反発している感は無いし、そのタイラーにしても反発していると言うよりも、単にポーカーフェイスなだけだ。
先程の微妙な視線逸しから、彼なりにやらかした自覚が有るのだろうし、それならそれで良い。
結果的に彼らは、レイニー嬢をここの管理者にするという最悪の事態を防いでくれたのだし、責任を追求するとは言ったものの、これ以上責める必要は無いかも知れない。
「イリスさん、私はなんだか疲れました。今晩は美味しい肉料理を頂きたい気分です。それと、この街には良いお酒が有ると聞いていますよ?」
溜息を落としてから、端的に言えば「良い肉と酒を寄越せ」と告げ、視線をゆるりと向ける。
言われた方はびくりと肩を跳ねさせてから、眉尻を下げた困り顔のままで笑顔をひくつかせ、短く「お、おう」と答える。
カーラは無邪気に喜び、それに引き摺られてレイニーの顔にもぎこちないながら笑顔が戻る。
そんな2人の放つ空気が、どんよりとした雰囲気を払っていく。
ハッキリと要求されたイリスやリリスもなんだか赦された様な顔色で、そんなカーラたちに視線を向けている。
……あれで許される等と考えているなら、普段の態度の割りに随分と甘いお考えだ。
私は双子魔女に突きつける要求と、この街を離れるタイミングについて、真剣に考えを巡らせるのだった。
反撃をするなら、しっかりと行いましょう。