エマに纏わり付かれ、狩りに誘われた。
しかし私は大変に気乗りしない。
結果、エマその他の子守はアリスに押し付け、私は
私はかつて、ベルネと言う街の
その際に私が自律人形で有ることをごく少数に打ち明け、人形技術が何かしらの魔法技術に応用出来ない物かと議論していた。
まあ、結局は手足の欠損を補う為の義肢くらいしか思いつかない私だったが、興味先行で悪ノリが大好物な魔法技師たちは何やら画策していたようだが、それが何なのか、実を結んだのかさえ知らない。
私は私に迷惑なり実害なりが押し寄せて来ない限り、とても寛大なのだ。
途中までは飾りけのない狐面を付けた軍服姉妹と一緒だったのだが、2人は冒険者ギルド――の酒場――へと向かってしまい、今の私はとても気楽である。
始まりは身を護るために仲間と言う名の盾を欲したのだが、もしかしたら私は、団体行動が苦手なのかも知れない。
あくまで疑惑である。
「おう、ベルネで大活躍だったザガン人形か? いつの間にかベルネから消えたって聞いたが、何処行ってたんだ?」
基本、興味の赴くままに研究なんぞに没頭する種類の人間は、往々にして寡黙か妙にハイテンションか、そのどちらかしか居ないのではないか。
そんな偏見を持ってしまったのだが、それは私ばかりが悪い訳でもないと思う。
眼の前の男は非常に陽気に、私の正体を知りながら実にフレンドリーに……悪く言えば初対面なのに随分な気安さで私に声を掛けてきた。
ここ、アルバレインの
と言うか、ベルネの悪友たちは随分と口が軽いようで、困ったものだ。
「ザガン人形はよして下さい。所で、暇つぶしに来たのですが、何か面白いモノは御座いますか?」
私が小さな抗議を行ってから来訪目的を告げると、男は剃り上げた頭をつるりと撫で、笑って見せる。
顔立ちは若いのだが、何が彼を剃髪に駆り立てたのだろうか。
「面白いって程のモンは無いなあ。この街じゃ、面白いモンはノスタルジアってクランが絡んでる事が多い。そっち冷やかした方が面白いんじゃないか?」
男の屈託のない笑顔に考え込む。
これも偏見だと思うのだが、どうにもこの街でクランと聞くと、狐面を付けたり付けなかったりの双子を思い起こしてしまう。
「クランマスターは狂犬とか番犬って呼ばれてるな。領主様の孫なんだが、なかなか豪快で面白い女だ。会いたかったら冒険者ギルドの酒場に行けば、大体そこで呑んでるぞ」
一瞬で、どうやら偏見では無かった事を知ってしまった。
イリスが狂犬だの呼ばれているのは素直に笑えるが、気晴らしに来た先でまで名前を聞くことになるとは思わなかった。
げんなりした気分が、そのまま顔に出てしまったのだろう。
男は頭を眩しく輝かせ、表情は怪訝である。
「今、そのクランの屋敷にお邪魔しているのです。そのクランマスターとも顔を合わせますが、どうにも……楽しい方ですので、振り回されっぱなしでして。息抜きでまで、顔を合わせたくないのです」
私は言葉をぞんざいに選び、アレと一緒に居たくないのだと言う気持ちを丁寧にオブラートに包む。
多少、破れてしまった感は有るが。
「はっはっはっ、まさかザガン人形にそんな顔させるとはな。あの魔導師も、大したモンじゃないか」
楽しそうなのは結構だが、私は笑える気分ではない。
「ですから、ザガン人形はよして下さい。ベルネからは、何か面白い話は来ていないのですか?」
強引に、話題の矛先を変更する。
流石に、ベルネ方面にあの魔女の影がチラつく事はあるまい。
「ベルネなあ……南の方の衛兵隊がやたら強くて住民が住みやすくなったとか、そう言う話は聞くが……」
荒んだ心で聞いた懐かしい話は、期せずして私に束の間の癒しを齎した。
イリーナは頑張っているようだ。
「向こうの
一旦言葉を切った男は、楽しそうな顔で言葉を続ける。
懐かしい景色の中に、悪友たちの顔が浮かび上がる。
正直言って、イリーナの思い出に原色のペンキを塗りたくられた気分だ。
「……まあ、彼らなら秘密にしているとかではなく……きっと、没頭しているのでしょう。私としては、没頭しすぎて食事を忘れて餓死していないか、それが心配です」
私に存在した、この世界での美しい思い出と、久しく忘れていた悪友と呼べる者たちとの馬鹿騒ぎの回想に苦い笑いを刹那浮かべ、私はさり気なく表情を引き締める。
「はあ? 夢中になりすぎてメシ食うの忘れて死んでる? 有り得そうで笑うしか無いんだが」
私の僅かな表情の変化に気付かなかったか見ぬふりをしてくれたのか、禿頭を撫でながら豪快に笑う。
この街はどうにも豪快気味な者が多いが、風土柄なのだろうか。
「貴方も人の事を笑えませんよ。体格が良くて、見る限り骨格もしっかりなさっているのに、肉付きが悪すぎます。きちんと食事なさい。それこそ、あの冒険者ギルドの酒場は、良い食事が出ますよ?」
だからこそ気になった事が、思わず口から出てくる。
細く引き締まっていると言えれば聞こえも良いだろうが、いかんせん細すぎて、その禿頭が悪目立ちしている。
よくよく見れば、顔色も悪い。
こんな見た目で陽気な語り口で、挙げ句大笑いなどされては、次の瞬間には目の前で倒れているのではないかと心配になってしまう。
「おお、お前さんも行ったのか。俺も仕事が終わったら毎日顔だしてるぜ。サラダが美味いんだ」
しかし、この男は既に常連の様子であった。
冒険者ギルドに特に関係していない人間が入り浸る酒場というのもどうかと思うが、あの食事を思い出せば納得するしか無い。
……いや聞き流しかけたし野菜を摂るのは大事だが、お前の場合はもっと肉を食え。
「ま、良いや。暇つぶしに来たってんなら、ウチの部屋でも覗いてくか? 連中も煮詰まってるだろうし、こっちも良い気分転換になるだろうしな」
柄にもなく他人の心配等してしまった私に、変わらぬ笑顔を向けて言う。
連中と言っているのは所属している研究員たちだろうし、間違いは無いだろう。
私としては興味も有るし願ったりなのだが、そんな所に、部外者を招き入れるのは問題無いのだろうか?
既にベルネで似たような経緯を辿った事は有るが、それでもやはり気にはなる。
「……では、折角ですし、楽しいお友達でもご紹介頂きましょうか……」
気にはなったが、私は素直に提案を受け入れ、禿頭男は笑顔と頭頂を輝かせるのだった。
それから私は、彼と仲間達の就業時間が終わるまで、様々馬鹿話を繰り広げた。
魔法職で技術職、そんな彼らが魔法技術と錬金術その他諸々、様々な技術の塊である私に興味が沸かない訳が無かったのだ。
流石に解体して良いか聞かれた際には、即座に拒否したが。
代わりに私に関する技術を、口頭で簡単にでは有るが、訊かれるがままに回答した。
この程度はベルネでもやっていた事なので、特に抵抗もない。
そうして時間を潰し、時間になったとのそのそ動き出した彼ら彼女らは、各々帰宅の準備を始めた。
残業する程の業務は、現在は抱えていないらしい。
禿頭含む数人に誘われ、嫌な予感を抱えつつも訪れた件の酒場で、私は予想通りイリスに絡まれ連れ去られた。
笑ってないで助けて下さいハゲ。
遠く山盛りのサラダが運ばれていく様子を眺めながら、それから幾ばくかの時間を、酔ってテンションが上がって激しく鬱陶しい冒険者たち――特に双子――に辟易しながら、今後について思いを馳せた。
差し当たり、私はこの後、酔い潰れた双子のどちらかを背負って帰ることになるのだろう。
溜息しか出ないのは、私が悪い訳では無いと思う。
大体は本人の判断ミスだと思いますよ?