他人様の作業風景というものは、特に興味が無ければ眺めていても暇なだけだ。
外骨格式の人形の稼働に関してはどうなっているのか、その辺りに興味が無くもないが、どうしても知りたいと言うほどの知識欲も無い。
カーラとレイニー嬢が楽しそうなので、まあ、問題無いのだが。
私は工房の片隅で適当な椅子に腰掛け、ぼうっと2名を眺めている。
私はまったくの素人なのだが、人形工房とはこの様なものなのだろうか。
少し離れた所には、数本の巨大で透明なシリンダー状の設備が、人工筋肉の培養を始めているらしい。
下手に観察を続けると肉類を食す意欲が失われそうなので、私はそっと視線を逸した。
私が工房に足を踏み入れたのは、責任者――つまり、マスターの後継がカーラになったらしい、と判断したからだ。
何かの拍子にレイニー嬢が後継者として認められた場合、先代の罠により私が暴走、レイニー嬢に危害を加える恐れが有った。
そのトリガーが何か判らない状態では工房に踏み込めないと考えていたのだが、その後継者がカーラだったのなら、特に気にする必要も無いだろう。
最悪、罠が発動したとして、カーラが私の手で破壊されるだけだ。
問題も無ければ痛痒もない。
そうであるなら、遠慮する必要も無い。
無事に開き直った私は、こうして堂々と工房に踏み込み、怠惰な時間を貪っている。
「よう、暇そうだな? 保護者っ
私は内心の驚きと動揺をむっつりと不機嫌な表情に押し隠し、掛けられた声へと顔を向ける。
「……これはこれは。今日は来ないかと思って、扉を閉じていた筈ですが」
私は『霊廟』に入るに当たって、レイニー嬢の安全は私とカーラが全力で守ることと、誤って他の誰かが足を踏み入れ、内部で迷ってしまう危険性を伝え、入場と同時に扉を閉ざしていた。
こうしてしまえば扉は消えるし、そうなれば誰も入ってこれない。
私は束の間、双子から解放された筈だったのだが。
「あん? ああ、ポータル作っといた。魔法空間で作動するか不安だったけど、上手くいったな」
事も無げに言う魔女に、私は一瞬、言葉を見失う。
とは言え、呆けても居られない。
「はあ? 何を勝手なことを、いえ、そんなもの、いつ作ったのですか?」
不法侵入用の経路を作りましたと言われて、黙っていられる訳が無いのだ。
当然の抗議だと思うのだが、しかし、規格外の魔女の口からは、とんでもない事が告げられてしまう。
「いや、暇そうにボーッとしてるお前に聞いたら『ええ』とか言ってたじゃないか」
言われても記憶に無い。
タイミング的には此処を発見した時の事だろうが、そんな会話の記憶など有る筈が無い。
確かにイリスがふらりと何処かへ消え、すぐに戻ってきたのは覚えているが、その前後で会話など……。
魔女による捏造を疑う私の前に、イリスは掌に収まる、黒い箱状の何かを差し出してきた。
訝しむ私の前で親指を折りたたみ、箱を撫でるように操作らしき動作をすると、その小箱は音声を紡ぎ出した。
「おう、暇なら相談良いか? 此処、レイニーちゃんもちょくちょく来たいだろうし、ポータル繋げたいんだけど」
「…………ええ、どうぞ」
適当に音声をでっちあげた、そう断じてしまいたい所だが、衝撃を受けた私はすぐには反応出来無い。
何しろ、内容は覚えていなかったが、そう言えばイリスは何処かへ消える前に、私に声を掛けていた様な記憶が、微かに朧に無い事もなかったのだ。
魔女が今この瞬間、私の記憶に干渉していないのであれば、私は恐らく、イリスに声を掛けられて無視も出来ず、しかし会話したい心持ちでも無く、同時に工房の様子に注意を向けている最中でもあった。
私の性格からして、イリスの言葉の内容が耳に入る事もなく、適当に会話っぽい返答を行っただけなのだろう。
「ほい。一応録音しといて良かったぜ」
私はどう答えるべきか。
注意力散漫な私を罠に嵌めたと怒るべきか。
会話記録を抑えている事に引き気味の非難を行うべきか。
魔女の行動を阻止する機会をみすみす逃した自分を責めるべきか。
混乱する頭は、上手く質問を纏められない。
「……私は会話の記録について、同意した覚えは有りませんが」
差し当たり、言い掛かりとしては真っ当な物を選択し、言葉に変える。
「そりゃ勝手に
しかし、イリスはブレも動じもしない。
悪びれもせずしゃあしゃあと言ってのけ、私の「ここが嫌いリスト」に書き込む項目が増えた。
今作った訳だが。
「……事の是非を説くのは無駄でしょうね。せめて質問を幾つか」
宜しいですか? の文言は敢えて省く。
伺いを立てる気など、全くしないのだから仕方がない。
「おう、なんだ?」
魔女様は、鷹揚に私の態度を受け入れてくれた。
腹が立つが、まずは抑える。
ポータルを作ったと言うが、それは此処に入るだけではないだろう。
何処と繋げたか確認すべきか。
盗聴に類する行為について、素直な嫌悪を伝えるべきか。
私が口約束の無効を申し立てたとして、それを受け入れてポータルを廃棄する
自分のクランのメンバーが危険に晒されるかも知れない状況で、何を呑気に遊んでいたのか。
もう1人の魔女はこの件に関係しているのか。
そもそも本心では、どういう
聞きたいことと投げ付けて擦り付けたい文句とがぐるぐる頭の中を回る。
「……
「ん? 無いなあ」
迷った挙げ句に滑り出した言葉に、魔女は平然と答える。
私の魔法解除で、この魔女の仕掛けを取り除ける自信は無い。
当然、本人に解除の意志は無いだろう。
逃げたらもう関わらないで済む、そう思っていた私のロードマップには、早くも修正が加えられそうだった。
そもそも、この街に来たのが誤りだったのでは。