迷子のマリア   作:naow

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……。


133 分岐点、或いは転換点を越えて

 人形制作は簡単な事ではなく、カーラは勿論、レイニー嬢も自分の技術を試したいとあれこれ話し合い、本日は構想を練る所で止まってしまったらしい。

 人工筋肉の培養が始まっていたのは、あれはカーラの勇み足なのだろうか。

 

 そんな事より私は、とても見過ごしたり流したりする訳には行かない事案に直面し、双子の姉の方に直談判を行った。

 

 その結果。

 

「……信じらんない。アンタ何考えてるワケ?」

 

 お姉さんは大変にご立腹だ。

 

「不法侵入用の経路を勝手に作った、か。衛兵を呼ぶか?」

 

 冷静眼鏡もまた、いつもの無表情に見下すような気配を滲ませて常識的なことを口にする。

 そんな2人に詰められたクランマスター様はオールドファッションな正座スタイルで縮こまり、反論も出来ない。

 

 自分のしたことを理解出来ているのは結構なことだ。

 

「……本当にごめんなさいね。この馬鹿が刻んだポータライズは、ちょっと古い時代のものなの。だからその……消せないのよ」

 

 私の方に顔を向けたリリスは狐面を外すと、いつもは勝ち気な表情を情けなくも申し訳無さそうなものに変えた。

 お説教に当たってわざわざ付け替えて居たのだが、表情を隠す場面と出すべき場面を弁えている、と言うことだろうか。

 

 どうでも良い事だが。

 

「消せない、では困ります。正直、今回の件は私の中で、このクランに対する信用度がゼロを突き抜けてマイナスになるには充分でした。実力で貴女(あなた)たちに敵わないとは言え」

 

 私は言葉を重ねるに連れて、意識的に魔力を解放していく。

 意外に思われるかも知れないが、こう見えて、普段は抑え込んでいるのだ。

 

「全力で抵抗させて頂くことも辞しませんよ?」

 

 リリスへの告げ口に当たって、私はまず仲間達に召集を掛けた。

 私の後ろでは、相変わらずオロオロとあちこち見回すカーラと、冷ややかなアリス、そして物騒な意味で楽しそうなエマの、それぞれの気配が感じられる。

 

「まあねえ……ホントに、この馬鹿!」

 

 リリスの雷と拳骨が、予め説教に際して仮面を外されていたイリスの脳天に直撃する。

 いつぞやの、私とカーラの図式そのままである。

 

「マスターの評価はクランそのものの評価だ。お前はこのクランの解散を望んでいるのか?」

「アンタ、領主様のお気に入りだからって調子に乗り過ぎたんじゃないの? アンタ自身には地位も権力も無いんだって、知ってる筈でしょうが」

 

 私が魔力を解放させたとして、多分あまり効果は無いだろうと思っていたが、それにしても思った以上に威圧効果が見られない。

 だが、少なくとも私が本気で憤っていることは伝わったらしい。

 

「主犯に対する尋問や説教は、そちらにお任せします。私としては、今回の件について、どう責任を取る心算(つもり)なのか、是非お聞かせ願いたいだけです」

 

 私の言葉に顔を見合わせる気まずそうなリリスと無表情なタイラーを見て、終了の合図に溜息を落とす。

「具体的な対策も無しに、今後そちらのクランメンバーを『霊廟』に招く訳には行きません。こちらも具体的な補償案を練りますので、今日はこの辺りで失礼致します。明日にでも、またお話させて下さい」

 説教序盤でなにか言おうとするたびに拳骨で発言を封じられていたイリスは勿論、彼女のクランメンバーたちも何も言えず、踵を返して執務室を出る私達を見送った。

 

 とにかく、ポータルの除去ないし無効化がこちらとしては譲れない、最低限のラインだ。

 あんな不意打ちの盗聴紛いの、下手すると魔法的な贋作である可能性すら含んでいる記録が証拠になる訳がない。

 

 存在しない(はらわた)が煮え立つ感覚を久々に感じながら、私は苦労して無表情を保つのだった。

 

 

 

「あの、な? マリア、その、もしかして、ここを出ていくとか、そんな事を考えているか?」

 宛てがわれた部屋に戻ると、何故か仲間たち――いつしか普通に仲間と思っていた、都合の良い道具だった筈の者たち――が、一緒に入ってきた。

 そして、重苦しい雰囲気の中、言いにくそうにカーラが沈黙を破る。

 

「当然ですが、その前にポータルをどうにかしないと、安心出来ません。いっそ少し戻って、賢者様にお願いする事になるかも知れません」

 

 私の倍のレベルの魔導師が施した魔法式でも、レベル5000超えの賢者様ならばどうにか出来るかも知れない。

 だがそれにしても、まずは何らかの形でイリスの行動を封じなければ話にならない。

 

 反省しているように見えたイリスだが、信用に値する訳がないのだし、説教していたリリスにさえ用心を怠れない。

 仮に真正面から、きちんと話をされていたら、私自身興味本位でポータライズを許可したかも知れない。

 私にはその理由が有る。

 その理由の悲しげな、遣り切れない表情に目を向けて、有ったはずの別の未来を想う。

 

 だが、勝手に置かれたに等しい状況を許して飲み込めるほど、私は平和な環境に居ない。

 

「……レイニーと、約束したんだ。一緒に、作ろうって」

 

 カーラは懸命に私と目を合わせて、しかし言葉は(つたな)い。

 様々な感情が入り乱れて居るのだろう。

 

 私とて、初めて友人を得たであろうカーラを、好んで悲しみに突き落とそうとは思わない。

 

「カーラ。気持ちは判るけど、マリアの気持ちも――と言うか、聞いただけでもそりゃ無いって話だったろ」

 

 アリスが、重い溜息と共に言葉を吐き出す。

 言動を封じられたイリスだったが、その直前、一応の弁明として彼女の言い分も訊いては居た。

 

 ――曰く、私たちが旅に戻ったとしても、レイニー嬢がカーラに会えるようにしたかった、と。

 

 その気持だけなら、理解しようと思わなくもない。

 本心だったと仮定して、だからこそ。

 だったら何故、その気持を正直に打ち明けて私に相談しようとしなかったのか?

 私の怒りのポイントはそこだった。

 揚げ足をとるような真似が許せないとか、『霊廟』に勝手にポータルを作ったとか、そんな細々した事ではない。

 

 舐められている、これに尽きる。

 

 確かに私たちは彼女に比べて弱く、纏めて破壊するのも容易な事なのだろう。

 だったら何をしても良いと思っているなら、それは全力で否定させて貰う。

 

 彼女が態度を改めないなら、後悔させる方法は幾らでも転がっているのだ。

 

 アリスへと顔を向け、それを私に戻したカーラは、言いたい事が感情で詰まり何も言えない。

 ハッキリと見下していた筈のカーラのその表情を見て、私は信じ難い事に、怒りを抑えるのに苦労した。

 当然それはカーラに向けられたものではない。

 

「アリスとカーラは、最悪私たちとは決別して下さい。その際には、カーラ。貴女(あなた)に『霊廟』を託します」

 

 私が苦労して笑顔を作ると、向けられた方は息を呑んで何も言わない。

 

「エマ。最悪の場合、あの双子に後悔と言うものを教える必要が有ります」

 

 対して、エマは禍々しく笑う。

 

 エマとて、理解(わか)っている。

 私やエマが歯向かったところで、あの双子と不死姫には敵わない。

 

 だが、だからどうしたと言うのか。

 直接攻撃するばかりが、反抗の手段ではないのだ。

 

 

「私の納得する回答が得られない場合、この街を壊滅させます」

 

 

 私の宣言に、誰も、何も言わなかった。




結果的に『霊廟』が護られるなら、私は何も言いません。
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