迷子のマリア   作:naow

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平穏に戻った人形達は、何処に向かうのでしょうか。


137 のどかな旅路

 比較的平和な国、と言うのは、あくまでもこの世界基準の話であって。

 

「うえぇ。思わず胴薙ぎしちゃったよ。きっつう」

 顔を顰めて、アリスが剣を振って血を払う。

 手足だけなら、洗浄・浄化を使えばまあまあ、使えなくもないだろうが……断面から色々漏れている死体には、近付きたくないのだろう。

「ダメだよぉ、アリスちゃん。首狙ったほうが良いよぉ?」

 途中で血飛沫を避けるのが面倒になったのか、いつの間にか血みどろになったエマが、無邪気に笑っている。

 

 ……鮮血に(まみ)れて斬り落とした誰かの左腕をぶら下げている存在を無邪気と言ってしまうのは、もはやただの嘘だし無理がある。

 

「うぅむ、特に問題有る相手では無かったが……やはりこういう荒事は苦手だ」

 見た限り汚れのないカーラが、顎先に指を添えて考え込んでいる。

 その両脇には白いドレスの……白かったドレスを纏った人形が1体づつ。

 仮面じみたその顔は両者同じで、まるで違うのにあの双子を思い出して若干不愉快になってしまう。

 

 野盗が湧いて出た途端、誰より先に人形の動作試験が出来ると張り切っていたクセに、荒事は苦手とは。

 なかなか高貴な冗談では無いか。

 

「……結局、何体作ったんでしたっけ? 36体?」

「幾ら何でもそんなに造れるか。4体完成、2体が調整中で、他には設計しか無い」

 私の本領を発揮した適当な質問に、カーラは呆れつつも律儀に答える。

 

 彼女の手による人形は、人工精霊を搭載していない。

 完全にカーラの制御に依って動く、逆に言えばカーラの制御が無ければ指一本動くことのない、カーラ専用の戦闘道具。

 いつぞやの、トアズでカーラが使い損ねた廃棄人形(できそこない)とは訳が違う、カーラと友人の努力の結晶だ。

 

 ……カーラはともかく、その友情の証が血塗られたドレスに身を包んでいるのは如何なものか。

 この場合返り血を浴びすぎている事に文句を言うべきなのか、純白のドレスというチョイスの方に苦言を呈すべきなのか、判断に迷う。

 

 何より恐ろしいのは、その性能だ。

 人形自体のレベルはカーラより低い300なのだが、カーラが「操作」することにより、そのレベルが600程度にまで跳ね上がる。

 それも、操作している人形全てが。

 

 魔法の使用も併せて、カーラ曰く「40体程度なら、単身で操作出来る」との事で、疑いたくはないが本当であって欲しくないと言う、実に複雑な感想を抱えてしまった。

 

 色々と新機軸を盛り込んだらしいのだが、特に興味もない私は聞き流してしまったので、その詳細は不明である。

 そんな扱いのカーラだが、今日は思う存分性能実験が出来て満足している様だ。

 

「すっごいねぇ、今度私とも遊んでよぉ」

 

 思いの外高性能だったが為に、まさかの身内に狙われる羽目に陥っているが、まあ、頑張れとしか言いようがない。

 下手に仲裁に入って巻き込まれるのは御免である。

 

 困り顔のカーラが焦り気味の言い訳を並べているが、多分カーラの性格では逃げられまい。

 適当に2体程度で文字通り遊んでおけば、損失はそれで済むと思うのだが……まあ、作る手間を考えれば、易々と破壊されたくは無いだろう。

 

 アリスは見えないふりで、私は聞こえない(てい)で散らばった肉片の中から比較的マシなものを集め、魔法鞄(マジックバッグ)に放り込んでいく。

 

 夏が近付く青い空は、カーラの悲嘆を飲み込んで晴れ渡っていた。

 

 

 

 アルバレインから始まったアーマイク王国の旅も1月(ひとつき)過ぎ、麗らかだった陽光が少し温度を上昇させている。

 とは言え、それほど極端な上がり幅ではなく、この地方はそれほど気温が高くならないのかも知れない。

 足元を隠す程にも届かない、草原の名も知れぬ草を眺め、視線を遠く飛ばせば、そこには麦畑が広がっていた。

 

 ……麦畑だと思う。

 

「結局、このまま進んだら、なんだっけ? なんか結構大きな街が有るんだろ? そこに行くのか?」

 いつの間にか隣に並んで歩いていたアリスが、空を見上げながら問いかけてくる。

 

 歩きながらそんな事をしていたら、転んでしまえば良いのに。

 

「いえ、その……何でしたっけ? 街には行かずに、少し南の、要塞廃墟を見てみようかと」

「ええええええ。ヤだよぉ、何にも無い廃墟なんてぇ。味を占めたのかもしれないけどぉ、お宝なんて、そうそう無いんだよぉ?」

 反発するだろうと予想していた存在は、私が言い終わるより早く、予想以上の反応で反発してきた。

 高反発人形め、お宝を手にしたのはお前だけで、私は何も手にしていない。

「ただの観光ですよ。たまにはエマも、景色の変化を楽しみなさい」

 諭すような私の言葉を、エマはふくれっ面で受け止める。

 幼女のような振る舞いだが、これで私の姉である。

 現実とは、世界が変わろうとも世知辛いものだ。

「ヤダヤダ! 私、海が見たい!」

 駄々を捏ねる、サバを読んでも推定200歳。

 海を見たことが無い訳でもないだろうに、何がそこまでエマを駆り立てるのだろうか。

 

 大体、アルバレインで少年少女冒険者と遊びながら、あの巨大な川の近くまで行っていた筈である。

 あれでは我慢出来なかったのか。

 

「ここから海へ……ですか」

 

 鼻で笑って暴言を投げ付ける選択肢も有ったかも知れないが、流石に生命は惜しい。

 仕方なくエマの提案を受け入れるとするなら、どうすべきか。

 脳内に地図を展開しながら考えてみる。

 

 距離的な意味で言えば南西、或いはこのまま西に向かえば、私たちの足でなら、途中で遊んでも3ヶ月程度で海が見れるかも知れない。

 そのまま、この大陸を出ると言うのも悪くない選択肢かも知れない。

 

 いつの間にかガクガクと揺すられながら、私はぼんやりとそんな事を考える。

 海を隔ててしまえば、聖教国も双子魔女も、わざわざ絡んで来ることも無いだろう。

 

 言語的な問題や海の向こうの情勢など、予め調べておかなければならないことは幾つも有るが、選択肢の一つとしては間違いなくアリだろう。

 本格的な船旅など、生前もしたことが無い。

 

「海ですか……良いかもしれませんね」

 

 揺らされすぎてヘッドバンギングしているような有様の私に、アリスやカーラの生暖かい視線が向けられているのを感じる。

 見てないで止めろ、と、真っ当な事を思いつくまでに、私はそれから5分程度の時間が必要だった。




マスターの故国を離れすぎるのは、ちょっと……。
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