迷子のマリア   作:naow

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旅路が日常。私には、俄に想像もつかない世界ですね。


138 旅の止まり木

 旅空はいつも晴れ、とは限らない。

 

 空模様が悪いとなれば、旅の足にも影響する。

 とは言え私たちは退避できる拠点が有るので、再度出てきた時に水没しているだとか、足元が無くなっているだとか、そういった危険がない場所を選ぶ必要は有るものの、他に比べて快適で安全な休息を取ることが出来る。

 

「雨の日は、ヒマだねぇ」

 

 約1名、その事の有り難さを理解(わか)っていなさそうなのが、談話室の窓の外を眺めながら言う。

 ……そこからは、外の様子は何も伺えない、ただぼんやり明るいだけの窓なのだが。

 

「そうだな。あの屋敷にも繋がらなくなってしまったから、レイニーにも会えなくなってしまった」

 

 同じ様に窓に顔を向け、カーラが溜息を浮かべる。

 ……彼女たちには、何か見えているのだろうか。

 

 カーラにしてみれば惜しい思いも有るだろうが、私としてはポータルが直通で外に繋がっている状態というのは落ち着かないし、それを設置したのがアレだと思えば苛立ちしか無い。

 

 思い返すにつけ、段階を踏んで話をする、と言う事の出来ない双子だった。

 結果だけ押し付けられても、反発以外のリアクションの取りようが無いではないか。

 

 その様な理由から、私は必要な手段を講じ、キッチリとポータルを使用不能にした。

 現在、玄関ホールのど真ん中には、金属製サイコロのオブジェ、と言う様相の巨大な正6面体が鎮座している。

 

 物理的に封じた、と言う訳ではない。

 

 中は空洞になっているため、万が一にも破壊して入り込まないように、私は仲間に言い含めてある。

 結局、空間を除去する等という方法が思いつかなかった私は、リリスからもぎ取った空間魔法と時間魔法の魔導書を読み漁り、酷く簡易的な罠を設置したのだ。

 ポータル自体が空間魔法でも有るのだから、最初は術式に干渉して無効化しようとしたが、あんな有様でも格上の魔導師。

 そもそも術式を読むことさえ出来ないのではどうしようもない。

 

 なので、私はポータルを含む周囲の空間そのものを、まずは玄関ホールと切り離した。

 

 とは言っても、結局は目の前にある空間である。

 出入りは出来てしまうのだが、要は魔法を掛けるための空間を指定したのだと思って貰えば良い。

 

 本当の意味で空間を切り離し、そこを無にしてしまうことも出来るのだが……リリスも言っていた通り、魔法空間内に空隙(ヴォイド)を発生させてしまうと何が起こるか判らない。

 些細な切っ掛けで全体が崩壊してしまっては堪らないので、この様な安全策を取っているのだ。

 

 私の腕が悪い訳では無い。そういう事にしておいて欲しい。

 

 そして、私はその指定空間内の時間経過を、可能な限り加速させた。

 永続発動させるための魔法陣も開発し、それを幾つも敷設する。

 気乗りしなさそうなカーラにも手伝わせ、空間内にみっちりと敷設、と言うか満たされていく魔法陣たちは互いに干渉しあい、驚きの時間加速効果を生み出していく。

 具体的に言えば、健康な若者を放り込んだら数秒で老衰で死ぬ、その程度には加速されている。

 

 実際には空腹で餓死の方が早いだろうし、それこそ入った瞬間に死んだように見えるだろう。

 

 加速の度合いが過ぎて、私たちですらうっかり入り込んでしまえば数十秒で、経年変化により各所が劣化してしまうだろう。

 嫌がらせとしては、まあまあの出来だと思う。

 このままでは私たちがうっかり踏み込みかねないので、その空間の外側を金属板で覆い、入り込めないようにした訳だ。

 うっかり入り込んだのがただの人間だったなら、1日もあれば塵になっているだろう。

 この処置は当然双子サイドにも伝えてある。

 

 伝えた時の心底嫌なものを見た、そんな顔は、是非記録に残しておきたかったものだ。

 

 まあ、真偽は不明だが向こうは行き先リストから「霊廟」を除外したと言っていたし、そんな事が出来るなら最初にやれとは思ったが、そもそも言われても信用出来ないのだから、結局似たようなことにはなったと思う。

 

 そんな訳で気軽な行き来が出来なくなり、私は胸を撫で下ろしたがカーラは悲しみを背負った、と言う訳だ。

 

 残ればよかったのに。

 

 カーラの傍らには、1体の操り人形(マリオネット)がひっそりと立っている。

 何処から出したのかメイド服を着ているが、その意匠に何やら見覚えが有る。

 私はエマには目を向けないようにしつつ、内心で嘆息した。

 

「そう言えば、工房って言っても色々あるし、実際あれ、何が出来るんだ? 私は見ても良く判んないけど、なんか武器工房も無かったか?」

 

 不意に掛けられた声に顔を向ければ、アリスが真っ直ぐに此方を見ていた。

 良かった、これでアリスまで窓の外を見ていたら、私だけがおかしい可能性も浮上してしまうところだった。

「そうですね、武器工房も有りましたね。私たちでも、見様見真似で何か作れそうでは有りますが……まあ、苦労に見合うかどうかは」

「だよなぁ……」

 私が答えると、アリスは溜息と共に、椅子に立て掛けてある彼女の「人形斬り」へと目を向けた。

 特に不満がある、という訳では無いだろうが、場面に応じて使い分けの出来る武器がもう一振りくらいは欲しい、そんな所だろう。

 

「言っておきますが、普通の人間をここに招き入れるのは、余程見極めねばなりませんよ?」

 

 若干悪い印象を引きずり過ぎていて、自分でももはやトラウマなのではないかと疑うレベルの慎重さに、苦笑も出ない。

 レイニー嬢だけなら問題がないしむしろこちらで引き取っても何も問題が無いのだが、その背後に居る人物がアレ過ぎる。

 

「そもそもそんな職人に馴染みも居ないよ。今までは適当に出来合いを買って誤魔化してたから」

 

 淡く笑うアリスに、彼女のトアズでの大立ち回りを思い出す。

 その出来合いの剣をへし折り砕きながら、出来損ないとは言え外骨格式の人形を斬り伏せていたアリス。

 今は私が持っていた剣を愛用し、事によっては私でさえ斬り伏せられる実力をも持ち合わせてしまった。

 

 身内の戦力が整うのは良いのだが、うーん。

 

「武器作りに特化した人形などが居れば、引き込むのも有りかも知れんな。人形作りの私のような」

 職人と言う単語に興味を惹かれたのか、カーラが参加してくる。

 

 カーラもまた彼女の「手足」を手に入れ、それを着々と増やしつつ有る。

 単体ならどうにかなるとは言え、その「手足」を持ち出されては、流石に危うい。

 

「えー? じゃあさぁ、お料理出来る人形も探そうよぉ! アリスちゃんたちの料理も美味しいけど、もっと色んなの食べてみたいしぃ!」

 

 意味もなく私に飛び付きながら、エマがディスって来た。

 私の料理は美味しくないと申すか。

 最初に餌付けしたのは私の筈なのだが、いつの間にかアリスのついで扱いになっている。

 

 こんな愉快な私の姉人形だが、出会った当初から一貫して危険で凶悪な人形でもある。

 

 私はゆるゆると首を振り、仲間たちを微笑みながら見る。

 

 気が付けば、これ、私が1番弱くなってないか……?

 別に強く有りたいとは思わないが、そこそこ頑張って鍛えて、弱いままではいけないと努力を惜しんだことも無かった……と思う。

 それなのに、いつの間にか周囲がなんだか強くなっている。

 

 計画どおりで楽になったと喜ぶべき場面だと思うのだが、どうにも何かが引っ掛かる。

 考え込む私をがくんがくんと揺すりながら、エマはアリスにハンバーグを要求している。

 

 突っ込むべきポイントが周囲に渦巻いていると知った私はそっと目を閉じ、深く考える事を止めたのだった。




そもそも深く考えない生活というのも、私には想像が及びません。
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