迷子のマリア   作:naow

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野盗程度でしたら、確かに慌てる理由には当たりませんね。


140 厄介事のサラダボウル

 立ち寄った街は、どうやら野盗の襲撃予定地らしい。

 突然現れたサラサラ黒長髪のオリエンタルな美少女によれば、特に繋がりもなく活動地域も離れていたはずの5つの野盗団が、突如として手を組んで、しかも連名で襲撃予告まで送ってきたのだという。

 

 割りと頭が弱いんじゃないだろうか。

 

 そう思った私だったが、訳知り顔で説明を続けてくれる少女曰く、野盗の規模は500人に迫る勢いだとか。

 対して、この街の衛兵隊の戦力は200名。

 

 ちらりと店の奥に視線を送る。

 ……あれは衛兵なのだろうか?

 見た所10名程度が、鎧ではなく礼服に身を包んでしょぼくれた顔を並べている。

「あれは、モンテリアの領主様に書状を届ける予定の、この領の軍の人達。完全にタイミング悪く巻き込まれたカンジね」

 少女は私の視線を追うと、ああ、と呟いてから説明してくれた。

 ふむ。

 私は自分の顎先に指を添える。

「彼らが引き返して、領軍を呼ぶことは出来ないのですか?」

 野盗が集団で掛かってこようとも、きちんと訓練を行っている正規の軍には敵うまい。

 無論、それなりに時間は掛かるであろうが、多少なら防御を固めて、衛兵と冒険者達が連携すれば耐えられない事も無いだろう。

 

「無理だと思うよ?」

 

 しかし、私の非常に常識的な案は、あっさりと否定された。

 ……まさか、ここの領主はこの街を見捨てるとでも?

 

「だって、襲撃予定は今夜だし」

 

 頭を抱えそうな予感は無事に外れたが、別の意味で私は頭を抱える羽目に陥ってしまった。

 これは、呑気に傍観とは言っていられない状況かもしれない。

 私は天井を見上げる。

 

 あの双子は何をしているんだ。

 幾ら領が違うとは言え、自分の所属する国で、何か大問題が起きようとしているのに、何故気付かなかったんだ。

 

 そんな文句が絶叫の形で喉元まで迫り上がるが、非常な努力を持って私は耐える。

 ……どうせ強大だがズボラなあの姉妹のことだ。

 聖教国方面には警戒網を張り巡らせていたのかも知れないが、裏とも言うべき此方側は完全にスルーしていたのだろう。

 野盗が手を組むなんて事、そもそも想定していなかっただろうし。

 

「野盗の手際が良いのか、単純に私の運が悪すぎるのか、どちらだと思います?」

 

 仲間達の顔ぶれを見れば、どう考えても私の運の悪さが原因としか思えない。

 しかし、少女は気を使った訳でも無いだろうが、優しく首を振った。

「野盗の後ろで糸を引いてるのが居るからね」

 笑顔に少し困り気味の色が混ざる。

 私の背筋がぞわりと粟立った。

 

 アリスは変わらずジョッキを傾け、エマは何が楽しいのかにこにこと話を聞き、カーラは我関せずの様子でサラダを突付いている。

 

「……それは流石に、考え過ぎでは?」

 

 言ってはみたものの、私は彼女の語り口とは別の理由から、その内容が真実だろうと直感した。

 私の探査範囲に、敵性反応が入り込んできたのだ。

 それも、たったひとつ――ひとり。

 

「んーん、違うんだよ、残念ながらね。なにせ、密告者が……盗賊さんたちにしてみれば、裏切り者かな? が、居るんだよ」

 

 少女の言葉に、私の視線は吸い寄せられる。

 敵性反応は、ごくゆっくりと近づいてくる。

「信じられるのですか? そもそも、襲撃の話も、その方の妄言と言う可能性は?」

 両方の反応を視ながら、言葉を紡ぐ。

 アリスの手が止まり、瞳が少女を捉えていた。

「うーん、追われてる所に通り掛かって、私が保護してこの街に一緒に来たんだけどね? あれが演技だったら、お姉ちゃん、あの子褒めちゃうなあ」

 見た目は10代半ばにしか見えない少女が、年上風を吹かせる相手。

 それはどんな子供なのかと想像するが、当然上手くいく筈もない。

 

「でもね、びっくりしちゃうよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。片方は完全に敵対しちゃったカンジだし、いやあ、お姉ちゃん、悲しむべきか喜ぶべきか、フックザツだよね」

 

 ケラケラと笑って見せる少女に対して、私たちは警戒度を一気に引き上げた。

 ――いや、そもそも無警戒では無かったが、なんというべきか。

 

「そうそう、ちゃんと自己紹介してなかったね? 私は――」

 

 そもそもで言えば、人形の小声会話に割り込んで来て、しかも自身も小声で話すことが出来ている時点で。

 

「Za213、『鉄姫(てっき)』メアリだよ」

 

 名乗った少女は、変わらない笑顔をこちらに向けて。

 人形だろうとは思っていたが、敵意が無い事、割りと堅牢な隠蔽を施している事、自然体で何処にでもいそうな立ち姿なのに、隙が見当たらない等。

 それなりの実力を持った人形だろうとは思ったが、まさか、同じザガン人形の、よりにもよって2シリーズ最終型だとは思わなかった。

 

「ご、ご丁寧に痛み入ります。……ここではなんですから、場所を変えて話しましょう」

 

 私はちらりとアリスに目を向けて、食事の中断を告げる。

 素直にジョッキをテーブルに戻すアリスの隣で、エマが慌てて料理を口に押し込んでいた。

「うーん。出来ればそうしたいんだけど、ね?」

 少女……メアリは申し訳無さそうに言う。

 何事かと思った私は、ハッとして、少しばかり注意を逸してしまったことに気が付いた。

 

 探査で拾った反応が、こちらに向けて急速に移動を開始している。

 更には、遅れていたのであろうか、追うように5つの反応が遠くに増えている。

 

 先行する反応が赤い反応だが、後方に増えたものはいずれも黃反応。

 後方は速度も併せて特に注意する必要も無さそうだが、先を走る方は放っておけば、すぐにこの街に到達するだろう。

 

「……エマ。あちらの方向、400メートル程先。真っ直ぐに来ている者が居ます。遊んであげて下さい」

 

 とっさに襲撃者と思しき存在の方向へ顔を向けると、出来るだけ手短に告げる。

 話を聞きながら食事に夢中だったエマは、私の言葉に反応してすぐに席を立った。

「この街の人間は、誰も傷付けないように。向こうに応援が居た場合は、好きにして結構です。私たちも、お会計を済ませたらすぐに向かいますので」

 言いながら、私も立ち上がる。

「わかったよぉ! まっかせて、マリアちゃん!」

 とびきりの笑顔を私に向けると、エマはひょいひょいと人の群れの間を抜け、あっという間に外に出てしまった。

 アリスもまた颯爽と立ち上がり、カーラは酷く億劫な様子で同じく席を立つ。

「あっれえ? あれ、止めてくれるんだ? すっごく助かるけど、良いの?」

 のんびりとエールを飲み干して、メアリも私を見上げて立つ。

 身長的には、エマとどっこい程度か。

「あの速さ、あれも人形でしょう。そして、貴女(あなた)の話しぶりから見て」

 手近なウェイトレスを手招きして勘定を告げ、飲み代を渡して釣りを断る。

 こう見えて意外と小金は持っているので、5人前程度なら支払いも容易だ。

 

「アレもまた、ザガン人形なのでしょう?」

 

 メアリは答えないが、笑顔も崩れない。

 その笑顔こそが、雄弁な答えなのだろう。

 

 ほとほと、姉妹と縁があると言うべきか。

 トラブルとの縁が深すぎると嘆くべきか。

 

 エマを追って酒場を出た私は頭を振って、深く考えることを一時的に放棄した。




常に深く考える事をしていないと思いますが。
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