私が何で積極的に戦闘に噛もうとしているのか。
何気に抱えていたストレスの発散?
もちろんそうだ。
結局頭を下げさせたとは言え、それでそれまでのモヤモヤが全て吹き払えるほど、私も単純ではなかったらしい。
だが、それよりも、だ。
もっと根源的な苛立ちが、双子魔女に出会う以前から、私の中に確かに存在していた。
この世界に降り立ったその瞬間から、私の中に有った筈のモノ。
私がこの世界に存在する、その原因となったモノども。
赤反応は当然のように隠蔽が機能していたのでスルーしたが、それを追って現れた黄反応たち。
彼ら彼女らのステータスは、隠蔽など貫通して丸見えだ。
だから、それが聖教国の例の執行官とやら、と言う事には早い段階で気付いていたのだ。
足を止めた私は、やはり動きを止めた5名に対し、腕組みで立ちはだかる。
……いやまあ、向こうも止まっているしなんなら伏せて身を隠している
「……気付かれていないと思っているのですか? 素直に立ちなさい。それとも、全員の名前を呼んだほうが出て来やすいですか? どうですかコウジさん」
私の言葉に、膝丈の草原の一部が揺れる。
そもそも見えているのだが、せめて自分から出て来る程度のチャンスは与えても良いだろう。
「素直に立ちなさい、マリさん。縮こまってやり過ごせるとは思わないで下さい、カツヤさん」
端から順番に、私はステータス情報から知った彼らの本名を読み上げていく。
世界が違えば個人情報の不正取得とそれを使用した恫喝と言う、それはそれは立派な犯罪行為だが、生憎ここは世界が違う。
「全員の名前を呼んでも出てこないなら、問答無用で攻撃しますよ? コヨミさん、それでも良いのですか?」
4人目の名を呼んだ所で、観念したのか5つの影が私の前に立つ。
観念したのは、逃げられないと思ったのではなく、多分……私を殺さねばならない、そう思ったと言う事だろう。
まあ、レベル的に一般人など相手にならない5名だし、それも可能だと思ってしまうのも無理はあるまい。
そんな妄想に、私が付き合う理由など無いのだが。
「お前、何者だ。俺達は、互いに本名を知らないんだ。それを、何でお前が――」
自分が優位だと思っているから、口も軽くなるし余裕も生まれる。
月明かりの下、私はその滑稽さに笑みが浮くのを抑えるのに苦労する。
苦労してしまうので、仕方無く、
「悠長なことを言っていて良いのですか? ほら、可哀想に」
誰も反応出来なかった。
私が動いたことにも、その事が産んだ結果にも、誰も、すぐには。
「のんびりしているから、コヨミさんが死んでしまいましたよ?」
真正面に居たはずの声が、自分たちの列から聞こえる。
その事を認識する前に、私はそれを、彼らの前に投げ出した。
手製の、無骨なコンバットナイフで斬り落とした、少女の首を。
首を見て立ちすくむ者、悲鳴を上げる準備に息を吸い込む者、私が居るであろう方向に
それぞれがそれぞれの反応をしている間に、私は悠々と反対側に回り込む。
今更メイスを取り出すのも面倒なので、今回の相棒はこの手に収まるナイフだ。
職業が
仲間の視界からも外れて、彼は同じく断首され、頭と
「残念、コウジくんも死んでしまいました。さあ、必死に抗いなさい。聖教国の犬に成り下がった己の不見識を恥じながら」
昏い復讐の念に突き動かされて、私は月の光の中、芝居がかって両腕を広げる。
境遇としては、実は彼らと私の間に差は無い。
彼らもまた巻き込まれただけで、私の行為は八つ当たりでしか無い。
だが、そんな事はどうでも良い。
愉しいと感じる自分を少々疎ましく思うものの、この手を止めようとは露ほども思えないのだった。
結果、彼らとの会話は驚くほど少なかった。
「何なんだ、何なんだよ! お前は!」
そんな事を問われても、困ってしまう。
「私は私です。そんな事を知って、どうしようと言うのです?」
もうじき死んでしまうのに。
その悠長さは、私のそれと何処か似ている。
違うとすれば、自分以上の化物と対峙したことが有るか否か、そういう事だろうか。
いや、きっと違う。
多分、私は酷く運が良かった、或いは悪かっただけで。
彼らは、そこそこ運が悪かった。
その程度の差でしか無い。
「聖教国に属して、自分は強いと思い込んだ。その振る舞いを恥じなさい」
人形の
だからこそ、罵声として機能する。
もっとも、彼らはそんなことすら知らず、知る機会もなく死んでいくのだが。
死体から手足を切り落とす、そんな私を遠巻きにするのは、野犬か狼か。
胴体はどうせ不要なのだから、彼らの餌として提供しても問題は有るまい。
私は斬り落とした手足と首を
野盗が動き始めるまでにはまだ時間も有るだろう。
エマは仕事をしくじる事はない。
個人的な用事を果たし、この後の大仕事はどうするか、適当なことを考える私は。
殺してしまった5人の名前を、もう思い出せなかった。
「やあやあ、遅かったね。こっちは片付いたよ」
私に気付いたメアリが、エマの傷の手当をしながら顔を此方に向ける。
アリスやカーラの服や
「おかえりぃ、マリアちゃん! でもゴメンねぇ、逃しちゃった」
肝心のクロエを探す私に、エマの屈託ない声が降ってくる。
私はその言葉の意味を考えながら、クロエを探す視線を彷徨わせた。
「……は? エマが、逃したのですか?」
鬱憤晴らしとエマを信頼していた気持ちとが合わさって、私はこちらの様子の確認を怠っていた。
まさか、エマが取り逃がすとは思っていなかった。
「うん。右手は取ったんだけどねぇ。足が上手く斬れなかったんだよぉ」
言いながら、細い腕を無造作につかみ、その手をひらひらと振って見せる。
おちゃめな遊びをするんじゃない。
「まあ、エマちゃんの遊び過ぎだね。腕を落とされて脚も斬り付けられて、状況が悪くなったなら、そりゃ逃げるよ」
エマの手当を終えたメアリが、立ちながら私の方を向き、両手を広げて肩を竦めて見せる。
出来ることは全てした、そんな顔で。
「……
私は半眼になるのを抑えられず、そんな表情で口を開く。
「私は平和主義で人道主義の、事なかれ主義者なのさ。火の粉もかかって無いのに、動く意味も無いだろう?」
メアリは悪びれもせず、しゃあしゃあと言ってのける。
私は嘆息して、視線をスライドさせた。
「私じゃあの変な術か魔法を使われたら、探すのも無理だよ」
「下手に手出ししたら、私がエマに破壊されるだろう?」
頼もしい仲間達は、堂々としたものだ。
「向かってくるなら反応出来るけどぉ、逃げられちゃったらワカンナイよねぇ。あれはズルいよぉ」
まあ、信頼して任せたエマがそう言うのであれば、もうどうしようもない。
確かに、亜空間に潜伏する彼女の能力を逃走に使われてしまっては、追いかけようも無かったのだろう。
さっさと両足を斬り落とせば良かったろうに、そうも思うが、流石にそう上手くは行かなかったと言う事だ。
エマに出来なかったのなら、私ではもっと無理だったのだろうし。
「やれやれ、そうなると、クロエ向けの手土産も、無駄になりましたね」
溜息ばかりが重なる。
私はわざわざ回収した5つの首を、野原の草むらに無造作に捨てた。
使いどころのないモノなど、いつまでも持っていても仕方がないのだ。
「……悪趣味な真似するなよ……」
「エグいな……」
アリスとカーラが、まるで常識派で有るかのような台詞で、私を非難する。
薄情な仲間たちだ。
「さて、威力偵察の
メアリの声に、全員の視線が集まる。
そしてその視線が、何故か私に向けられた。
「どうしよっか?」
何故私に訊くのか。
見渡す私の視線の中で、メアリのみならず、頼れる私の仲間達が、どうやら私の言葉を待っているようだ。
知るかそんなもの。
そう言えればどんなに楽か、だが、すでに半端に首を突っ込んでしまっている。
その状況を踏まえ、私は――取り敢えず月を見上げるのだった。
やはり、あまり深く考えての行動ではありませんでした。