迷子のマリア   作:naow

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やけに行動的な、様子のおかしなマリアです。


142 対峙

 私が何で積極的に戦闘に噛もうとしているのか。

 

 何気に抱えていたストレスの発散?

 もちろんそうだ。

 結局頭を下げさせたとは言え、それでそれまでのモヤモヤが全て吹き払えるほど、私も単純ではなかったらしい。

 

 だが、それよりも、だ。

 

 もっと根源的な苛立ちが、双子魔女に出会う以前から、私の中に確かに存在していた。

 

 この世界に降り立ったその瞬間から、私の中に有った筈のモノ。

 私がこの世界に存在する、その原因となったモノども。

 

 赤反応は当然のように隠蔽が機能していたのでスルーしたが、それを追って現れた黄反応たち。

 彼ら彼女らのステータスは、隠蔽など貫通して丸見えだ。

 だから、それが聖教国の例の執行官とやら、と言う事には早い段階で気付いていたのだ。

 

 

 

 足を止めた私は、やはり動きを止めた5名に対し、腕組みで立ちはだかる。

 ……いやまあ、向こうも止まっているしなんなら伏せて身を隠している心算(つもり)の様子だし、立ちはだかっていると言えるかは疑問では有る。

 

「……気付かれていないと思っているのですか? 素直に立ちなさい。それとも、全員の名前を呼んだほうが出て来やすいですか? どうですかコウジさん」

 

 私の言葉に、膝丈の草原の一部が揺れる。

 そもそも見えているのだが、せめて自分から出て来る程度のチャンスは与えても良いだろう。

「素直に立ちなさい、マリさん。縮こまってやり過ごせるとは思わないで下さい、カツヤさん」

 端から順番に、私はステータス情報から知った彼らの本名を読み上げていく。

 世界が違えば個人情報の不正取得とそれを使用した恫喝と言う、それはそれは立派な犯罪行為だが、生憎ここは世界が違う。

「全員の名前を呼んでも出てこないなら、問答無用で攻撃しますよ? コヨミさん、それでも良いのですか?」

 4人目の名を呼んだ所で、観念したのか5つの影が私の前に立つ。

 観念したのは、逃げられないと思ったのではなく、多分……私を殺さねばならない、そう思ったと言う事だろう。

 まあ、レベル的に一般人など相手にならない5名だし、それも可能だと思ってしまうのも無理はあるまい。

 

 そんな妄想に、私が付き合う理由など無いのだが。

 

「お前、何者だ。俺達は、互いに本名を知らないんだ。それを、何でお前が――」

 

 自分が優位だと思っているから、口も軽くなるし余裕も生まれる。

 月明かりの下、私はその滑稽さに笑みが浮くのを抑えるのに苦労する。

 

 苦労してしまうので、仕方無く、身体(からだ)を動かすことで誤魔化す。

 

「悠長なことを言っていて良いのですか? ほら、可哀想に」

 

 誰も反応出来なかった。

 私が動いたことにも、その事が産んだ結果にも、誰も、すぐには。

 

「のんびりしているから、コヨミさんが死んでしまいましたよ?」

 

 真正面に居たはずの声が、自分たちの列から聞こえる。

 その事を認識する前に、私はそれを、彼らの前に投げ出した。

 

 手製の、無骨なコンバットナイフで斬り落とした、少女の首を。

 

 首を見て立ちすくむ者、悲鳴を上げる準備に息を吸い込む者、私が居るであろう方向に身体(からだ)ごと向き直る者。

 それぞれがそれぞれの反応をしている間に、私は悠々と反対側に回り込む。

 今更メイスを取り出すのも面倒なので、今回の相棒はこの手に収まるナイフだ。

 

 職業が治癒師(ヒーラー)だった彼は、斬り落とされた仲間の首を見て何を思っただろうか。

 

 仲間の視界からも外れて、彼は同じく断首され、頭と身体(からだ)が別々の方向に、重力のままに崩れ落ちる。

 

「残念、コウジくんも死んでしまいました。さあ、必死に抗いなさい。聖教国の犬に成り下がった己の不見識を恥じながら」

 

 昏い復讐の念に突き動かされて、私は月の光の中、芝居がかって両腕を広げる。

 境遇としては、実は彼らと私の間に差は無い。

 

 彼らもまた巻き込まれただけで、私の行為は八つ当たりでしか無い。

 だが、そんな事はどうでも良い。

 

 愉しいと感じる自分を少々疎ましく思うものの、この手を止めようとは露ほども思えないのだった。

 

 

 

 結果、彼らとの会話は驚くほど少なかった。

 

「何なんだ、何なんだよ! お前は!」

 

 そんな事を問われても、困ってしまう。

「私は私です。そんな事を知って、どうしようと言うのです?」

 もうじき死んでしまうのに。

 

 その悠長さは、私のそれと何処か似ている。

 違うとすれば、自分以上の化物と対峙したことが有るか否か、そういう事だろうか。

 いや、きっと違う。

 

 多分、私は酷く運が良かった、或いは悪かっただけで。

 彼らは、そこそこ運が悪かった。

 その程度の差でしか無い。

 

「聖教国に属して、自分は強いと思い込んだ。その振る舞いを恥じなさい」

 

 人形の身体(からだ)を手にしてその強さに酔っていた、私に言われたくは無いだろう。

 だからこそ、罵声として機能する。

 

 もっとも、彼らはそんなことすら知らず、知る機会もなく死んでいくのだが。

 

 死体から手足を切り落とす、そんな私を遠巻きにするのは、野犬か狼か。

 胴体はどうせ不要なのだから、彼らの餌として提供しても問題は有るまい。

 私は斬り落とした手足と首を魔法鞄(マジックバッグ)に放り込むと、のんびりと歩き始めた。

 

 野盗が動き始めるまでにはまだ時間も有るだろう。

 エマは仕事をしくじる事はない。

 個人的な用事を果たし、この後の大仕事はどうするか、適当なことを考える私は。

 

 殺してしまった5人の名前を、もう思い出せなかった。

 

 

 

「やあやあ、遅かったね。こっちは片付いたよ」

 

 私に気付いたメアリが、エマの傷の手当をしながら顔を此方に向ける。

 アリスやカーラの服や身体(からだ)に傷が無いと言う事は、やはり彼女たちの出番は無かったのだろう。

 

「おかえりぃ、マリアちゃん! でもゴメンねぇ、逃しちゃった」

 

 肝心のクロエを探す私に、エマの屈託ない声が降ってくる。

 私はその言葉の意味を考えながら、クロエを探す視線を彷徨わせた。

 

「……は? エマが、逃したのですか?」

 

 鬱憤晴らしとエマを信頼していた気持ちとが合わさって、私はこちらの様子の確認を怠っていた。

 まさか、エマが取り逃がすとは思っていなかった。

「うん。右手は取ったんだけどねぇ。足が上手く斬れなかったんだよぉ」

 言いながら、細い腕を無造作につかみ、その手をひらひらと振って見せる。

 おちゃめな遊びをするんじゃない。

 

「まあ、エマちゃんの遊び過ぎだね。腕を落とされて脚も斬り付けられて、状況が悪くなったなら、そりゃ逃げるよ」

 

 エマの手当を終えたメアリが、立ちながら私の方を向き、両手を広げて肩を竦めて見せる。

 出来ることは全てした、そんな顔で。

「……貴女(あなた)は、見ていただけですか?」

 私は半眼になるのを抑えられず、そんな表情で口を開く。

「私は平和主義で人道主義の、事なかれ主義者なのさ。火の粉もかかって無いのに、動く意味も無いだろう?」

 メアリは悪びれもせず、しゃあしゃあと言ってのける。

 私は嘆息して、視線をスライドさせた。

 

「私じゃあの変な術か魔法を使われたら、探すのも無理だよ」

「下手に手出ししたら、私がエマに破壊されるだろう?」

 

 頼もしい仲間達は、堂々としたものだ。

 

「向かってくるなら反応出来るけどぉ、逃げられちゃったらワカンナイよねぇ。あれはズルいよぉ」

 

 まあ、信頼して任せたエマがそう言うのであれば、もうどうしようもない。

 確かに、亜空間に潜伏する彼女の能力を逃走に使われてしまっては、追いかけようも無かったのだろう。

 さっさと両足を斬り落とせば良かったろうに、そうも思うが、流石にそう上手くは行かなかったと言う事だ。

 

 エマに出来なかったのなら、私ではもっと無理だったのだろうし。

 

「やれやれ、そうなると、クロエ向けの手土産も、無駄になりましたね」

 

 溜息ばかりが重なる。

 私はわざわざ回収した5つの首を、野原の草むらに無造作に捨てた。

 

 使いどころのないモノなど、いつまでも持っていても仕方がないのだ。

 

「……悪趣味な真似するなよ……」

「エグいな……」

 

 アリスとカーラが、まるで常識派で有るかのような台詞で、私を非難する。

 薄情な仲間たちだ。

 

「さて、威力偵察の心算(つもり)だったのか、それとも街の中で暴れて指揮系統をズタズタにしたかったのか判んないけど、それは阻止できた訳だね。後は野盗の皆さんだけど」

 

 メアリの声に、全員の視線が集まる。

 そしてその視線が、何故か私に向けられた。

 

「どうしよっか?」

 

 何故私に訊くのか。

 見渡す私の視線の中で、メアリのみならず、頼れる私の仲間達が、どうやら私の言葉を待っているようだ。

 

 知るかそんなもの。

 

 そう言えればどんなに楽か、だが、すでに半端に首を突っ込んでしまっている。

 その状況を踏まえ、私は――取り敢えず月を見上げるのだった。




やはり、あまり深く考えての行動ではありませんでした。
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