ウサ晴らしは出来たものの、クロエの捕獲には失敗した。
私がクロエを捕獲したかったのは、単純に顔を拝みたかったのも有る。
まあ、ある意味でそれは叶っているが、野盗連合(仮)がどのような布陣で街を襲う予定なのか確認したかったのもあった。
とは言え、それがクロエ――ザガン人形であったと知った今、彼女がそんなモノに興味を持っているとは思っていない。
クロエに対しては
脅して従えたか餌で釣ったか知らないが、数を揃えさせて包囲しろ、程度のものだろう。
それが成功しようが失敗しようが、どちらでも良かったのだ。
なにせ、目的はどうせ騒ぎを起こして、あの双子魔女の目なり気なりを引ければそれで良い。
失敗したなら同じような事をまた繰り返し、成功したら別の街で似たような騒ぎを起こす。
国内が荒れれば、あの双子を釘付けに出来る、とでも考えたのだろう。
浅はかな事である。
速攻でクロエが見つかって、あっという間に破壊される画が見えるようだ。
そしてまた腹が立つことに、この事態さえ、あの双子は予め知っていた恐れもある。
私が此方方面に来たのは、もしかしたら上手いこと誘導されたのだろうか。
聖教国の関係者が、何やらコソコソやっている事を知っていたから。
使えそうな駒を、盤面に放り込んだ、その程度の感覚で。
考え過ぎている気もするが、それくらいあの双子は信用出来ない。
「どうするの? ボチボチ、野盗のみなさんも動き始める頃合いだと思うけど?」
メアリの声が、逃避する私のこめかみを叩く。
そちらに向く私の目は、自分で判るほどに不機嫌だ。
「……え。私、悪いこと言ったかな?」
「いえ、少しだけ気分の良くない思い出を振り返っていただけです。お気になさらず」
少し気圧されたようなメアリには申し訳ないが、完全な流れ弾である。
「しかし、どうするも何も、私には関わりの無いことですからね……」
「えっ」
考え込む私の呟きに、驚きの声が重なる。
私はそんな息ぴったりの仲間達プラスアルファに驚いて顔を向ける。
「じゃあなんで、キミは真っ先に飛び出したりしたの?」
目を向けた先に並ぶ驚き顔の群れの中から、メアリが先陣を切って口を開く。
随分と判りきったことを尋ねるものだ。
「暇つぶしと八つ当たりと憂さ晴らしです」
堂々と答えると、メアリはぽかんと口を開いて固まっている。
どうせ聖教国が絡んでいるだろうと決めて掛かっていたし、そうでなかったとしてもあのタイミングで怪しい動きを見せてくれたのだ。
何が有っても、相手の自己責任というものだろう。
「……野盗の群れがあの街を狙ってるのは、無視するってのか?」
2番手で、アリスが呆れ声を上げてきた。
ここまでそれなりの時間を共に過ごしたというのに、まだ私のことを理解出来ていないらしい。
「街が無くなった所で、私に何か影響があるとでも?」
縁もゆかりも無い街に、私が肩入れする理由など無い。
これがアルバレインだったら遠くから様子を眺めることも出来ただろうし、ベルネだったらそれなりに守ろうと思ったことだろう。
しかしこの街には、そのどちらもする理由が無い。
「幾ら何でも、それは冷た過ぎはしないか……?」
追っかけで、カーラが私の退路を塞ごうと試みる。
しかし、私は何の痛痒も感じない。
「それはそうでしょう。なにせ私は、世間では嫌われ者のザガン人形ですから」
「都合よく立場を使い分けるんじゃないよ……」
事も無げに言う私に、アリスが即座に噛み付いてくる。
おかしなことを言うものだ、私はどんな場面でも、人間の味方をするとか、弱いものを守るとか、そんな事を言った覚えはないのだが。
流石にせせら笑うような真似はしないが、可哀想なものを見るような眼差しを止めることの出来ない私に、最後の刺客がついに動いた。
「マリアちゃん。私、暴れたいよぉ?」
あざとく上目遣いなどしているが、発言内容は物騒極まりない。
状況を説いてみたり、情に訴えたりする言い分には、真正面から叩き伏せる事も出来る。
しかし、純粋な欲求を抱えた怪物が相手では、どうしたって分が悪い。
「……相手が随分多いようですよ? 流石に面倒では無いですか?」
「ぜんぜん?」
少し退いて妥協案を模索しようと提示するが、エマは気にする様子もなく即答である。
私を見上げる視線は、揺らぐ事がない。
これは、何を言っても無駄だ。
他のメンバーにそう思わせようとしていたのに、先に私が圧し折られてしまった。
「……布陣が分かりませんから、どう動くかも決め兼ねるでしょう。全員で一箇所を守っても、他が破られたら街は終わりますよ?」
とは言え、気乗りのしない私は、まだ逃げ道を模索する。
アリスの目が冷ややかに、カーラは憐れむように私を見ている。
「それなら知ってるよ」
そして、メアリがにこやかに私の退路に回り込んだ。
「やだなあ、さっき酒場で話したでしょ、向こうからの逃亡者を保護したんだって。だからこそ、野盗の襲撃も知ったんだし」
私は余程間抜けな顔をしていたのだろう。
メアリはけらけらと笑いながら、ひらひらと手を振って見せる。
そう言えば、そんな事を言っていたような気がしてきた。
「大まかな布陣は知ってるよ。どうせ野盗なんて、余程のヤツでもないとマトモに作戦なんて運用出来ないんだから、力押し一辺倒さ」
笑顔のメアリはなかなか酷い事を言っているが、残念なことに私もその意見には同意である。
「実際は、包囲って言うほどでもないかな? 北側から東を回って南まで、半包囲と言うにも少し足りないくらいの範囲だね。それも、野盗同士で人員を回すなんて事する筈も無いから、東に――この先に陣取ってるのが最大勢力ので、ざっと150人ってトコかな」
150人規模の野盗というのもなかなかだと思うが、確か総数で500名に迫る程度だったか。
「南側は、30人くらいのと20人くらいの、2つが攻めてくる事になってるけど、まあ、連携なんか取ってこないだろうね。で、北は120人と60人だったかな?」
切りよく言っているが、それなりに数字はブレるだろう。
だが、どうやら500人を超えることはない様子だ。
「数だけ見れば、北が最も多いでは無いですか。それに、南だって仕掛けるタイミング次第では、侮れませんよ」
私は、もう既に迎撃に協力する前提で話が進んでいる事を気にしつつ、言葉を押し出す。
「そんな事出来る頭が有れば、だねえ。まあ、侮りすぎるのも良くないけどさ」
肩を竦めるメアリは、恐らく、その保護した人物からある程度詳しい話を聞いているのだろう。
だからこそ、ある程度断定して話を進めているのだと信じたい。
そうでなければ、ただの危険な思い込みでしか無い。
「何でも良いよぉ。マリアちゃん、私、暴れたいよぉ」
尚も渋る私に、エマが焦れたように同じ台詞を繰り返し、圧力を掛けてくる。
正直、野盗よりもエマのほうが恐ろしい。
私は派手に溜息を零した。
「……英雄ごっこに興味は有りません。野盗が攻撃を開始したら、その背後から襲いかかりましょう」
私以外が乗り気な様で、実に結構な事である。
どうせなら、私抜きでやってくれても良いのだが。
「数は北が最も多いですが、それだけのようですね。となれば、やはり東がそれなりに纏まっている分厄介そうです」
言いながら見回せば、カーラが若干引き気味の表情である。
嫌なら、私の側に立って逃げるように皆を説得すれば良かったのだ。
「……東は、エマとアリスに任せますか。北は私とメアリで当たります。南は、カーラと
エマは顔を輝かせ、アリスは黙って頷く。
メアリも素直に聞いているし、カーラも若干及び腰ながら、泣き言は言わない。
「恐らく、東が最初に片付くでしょう。そうなったら、2人はそれぞれ北と南の手助けをして下さい」
街に取り付く野盗の群れに背後から襲い掛かり、中央を分断し、その後単騎で横撃を行えと、なかなかに無茶な注文である。
「わかったぁ! じゃあ、私は多い方に行くね!」
「じゃあ、私は南に向かえば良いんだな」
「そういう事なら、私でもなんとかなるかも知れん」
だと言うのに、誰も文句のひとつもない。
何処かおかしいのでは無いだろうか。
「まあ、私も少しは頑張ろうかな? この期に及んで、私は参加しない、なんて言えないからね」
残るひとり、メアリも楽しそうに笑う。
コイツはコイツで、自分で言った事を忘れているのでは無いだろうか。
「大した平和な人道主義者ですね」
思わず嫌味が口を衝いて出るが、そんな言葉に動じる様子など微塵も見せない。
「だろう? 困った人を見過ごせないのが、私の困った所なのさ」
屈託のない笑顔で、メアリは言い切る。
恐らく、物言いが多少耳障りが良いだけで、その中身はエマと大差無いのではないか。
そう思ってエマと組ませることを避けた私だったが、だからといって自分が組む必要も無かった。
今更撤回も出来ない私は、無表情を繕うのがやっとだった。
何も考えずに動くから、そういう目に会うのです。