野盗たちは奇襲の
ただし、傍若無人な盗賊500人に対して、戦える冒険者と衛兵隊、合わせても200程度と言うなかなかの戦力差は、防衛側に悲壮感を漂わすには充分だったようだ。
冒険者が少ないのは近隣に「あの」アルバレインという大きな街が有るから、殆どはそちらに行っているのだ。
この件に関しては全くの無関係だが、アルバレインの名を聞くと紐付けされたあの双子の顔を思い出して少々機嫌がアレしてしまうが、幸いストレス発散の機会はすぐそこに転がっているのでしばし我慢しよう。
衛兵隊が少ないのは、そもそも平和な街だから、と言う良く判らない理由だそうで……そんな理由があるか?
現在進行系で平和が蹂躙されているのだが、言い出したのは私ではない。
「さてさて。それじゃあ、私たちは北だっけ? ちょいと暴れようじゃないの」
大扉から並んで出た私たちの中で、メアリは大きく伸びをしながら私を見上げる。
エマやキャロル、そしてメアリを見るに、マスター・ザガンは背の低い、身体的に起伏の乏しい女性が好みだったのだろうか?
しかし私は割りと身長は高めで、胸もしっかりと息づいている。
ちらりと見ただけだが、クロエも胸はあったように見えた。
「そうですね。それでは、南は任せましたよ、カーラ。エマとアリスは、正面のアレを片付けたら、それぞれ北と南に手を貸して下さい」
すこぶるどうでも良い考えを一旦忘れ、私はメアリに頷いてから、他の仲間にも声を掛ける。
出撃前の最終チェックというやつだ。
「任せよ。我が
不敵に言って笑い、返す刃でアリスに懇願する。
良く判らないムーヴだが、とてもカーラらしいとも思う。
そのカーラ自慢の
いつ作ったんだ、あんなモノ。
「はいはい。まあ、エマちゃんが居るし、私だってマリア程じゃないが、それなりに戦えるからね。ちゃっちゃと片付けて、そっちに行くよ」
溜息を混ぜた苦笑を零し、アリスが安請け合いする。
アリスは何か勘違いしているようだが、もう既に彼女の実力は私を上回っている。
ひよこの刷り込みでもあるまいに、いつまで初遭遇時の事を引き摺っているのやら。
「それじゃ、私はマリアちゃんの方に行けば良いんだよねぇ? マリアちゃん、私の分、残しといてねぇ?」
屈託なく笑うエマだが、その注文に従うと街が危険なのだが。
「早く来なければ、私とメアリが全て片付けますよ? 出来るだけ急ぎなさい」
何となく頭を撫でながら、しかし言葉では突き放す。
「マリアちゃんのケチ!」
ぶんぶんと腕を振って抗議の意を示すエマだが、可愛いと言うにはその両手にそれぞれ収まる短刀が危険極まる。
クロエ戦の後で落日を仕舞い込んだ彼女は、次は短刀で暴れる予定のようだ。
そんな物で150人から成る野盗の群れに襲い掛かろうというのだから、狂気の沙汰とはエマの為に用意されていた単語だろう。
それでなんとかなりそうだから、もはやただの狂気である。
「もしもエマが助けに来て下さったら、私は感激してエマの好物を用意してしまうでしょうね。ハンバーグが良いですか?」
食事前に幾つか挽き肉を作ることになると気付いて私の気分は多少滅入るが、当然表情には出さない。
「ホントぉ!? じゃあ、頑張っちゃおうかな!」
適当に子供扱いして誂ってやろうと思っての発言だったのだが、エマは思いの外喜んでいる。
……私の料理でも良いのか?
アリスは苦笑しているが、ハンバーグを作るのはともかく、果たして食べる気になれるかどうか。
その点に気が回っていないようなのだが、面白いので私はその事には触れず、知らん顔である。
街の方からは、俄に賑やかな気配が伝わってくる。
「それでは、そろそろ仕掛けましょう。各自、健闘を祈ります。終わったら、この辺で適当に落ち合いましょう」
「なんだよその締まりの無い指示は。まあ、良いけどさ」
私のやる気のないスピーチにツッコんだアリスのセリフが合図になり、それぞれが担当エリアへと走る。
なにかこう、コレジャナイ感が胸の裡にモヤモヤと渦を巻くが、走り出してしまってはもう、アリスへのツッコミ返しは不可能だった。
少し迂回するような形で街の北側に出た私とメアリの目に飛び込んできたのは、破壊された北の門と、その周辺で繰り広げられる乱戦。
そして、少し離れた所では、梯子を使って街の防壁をよじ登ろうとしている集団が有った。
「マリアちゃん、どっち先に行く?」
走りながら、楽しそうにメアリは笑う。
「どちらも抑えます。二手に別れますよ」
「あははっ、良いね! と言うか、そりゃそうだよね! それじゃ、門番の手伝いは私が行くから、マリアちゃんは梯子外し宜しくね!」
私が答えると、メアリは一層楽しそうに笑う。
その言い方では、私が彼らの裏切り者のようだが、行動としてはその様になる……言葉というものは難しい。
「畏まりました」
考えても纏まらないしそもそもそんな場面でも無い。
私は短く答えると進路を変え、そこからは単身で走る。
両手には、それぞれメイスをぶら下げて。
衛兵や冒険者の目が届かない位置で梯子に足を掛けている男は、振り返って私を見た。
恐らく、ただの偶然だったのだろう。
驚いたような顔でなにか言っているが、周りの反応は鈍い。
彼の苛立つ表情がハッキリと見える距離まで私が詰めるのは、容易い事だった。
走った勢いのままに軽く飛び上がり、身を捻って……というか反時計回りに一回転させて振るわれた最初の一撃は、予備武器予定の、左手のメイスだった。
2人ばかりの頭が消えて、代わりに血やら脳漿やら骨片やらが混ざり合って吹き飛ぶ。
眼球らしきも見えた気がするが、まあ、どうでも良い。
勢いのまま右手のメイスを叩きつけ、生命と肉片を吹き飛ばしながら、私は停止する。
「今晩は、死ぬには良い夜ですね」
血の色の夜は、悪夢足り得るのか?
いずれにせよ、それを見れるのは生き残った者だけだ。
一瞬の事で思考が追いついていない、そんな様子の野盗たちに、私は猶予を与える事無く、手近な犠牲予定者は瞬く間に犠牲者に変わるのだった。
随分と手荒な挽き肉作りですね。