迷子のマリア   作:naow

153 / 265
鉄姫(てっき)」メアリ、その実力とやる気は如何ほどでしょうか。


146 鉄壁と群体、それぞれの到達点

「あっはっはっ、あの子は派手だねえ。じゃあ私もそろそろ始めようかな、っと」

 

 夜の帳の中、浮かぶ松明(たいまつ)の火を遠目に、人形は笑う。

 夜襲を掛ける立場であるにも関わらず、照明などを掲げて来た間抜けな野盗たちに向けたものでは無い。

 

 盗賊の群れに易々と飛び込み、両手それぞれに持ったメイスを軽々と振るって次々と血の花を咲かせる仲間への、それは賛辞だった。

 

「はいはいはーい、前ばかり見てたら、危ないよーっとぉ!」

 

 街の北門周辺では既に戦闘が始まっている。

 門扉は打ち壊され、衛兵隊を中心とした防衛班も必死に抵抗しているが旗色は悪い。

 現状だけ見れば善戦しているように見えるが、それは狭い門での戦闘だからこそ地の利を活かせているだけであって、それも防御柵まで突破されてしまえば数の暴力で覆されてしまう程度の優位性だ。

 

 未だ保っている今だからこそ、メアリは朗々と声を張り上げ、後方で野次を飛ばす盗賊達の注意を引く。

 掛かる圧力が和らげば、防衛班が生き残る確率も上がるだろう。

 

 振り返った盗賊は、メアリを懐に迎え入れる形になる。

 その鳩尾に、手甲を纏った拳が深々と突き刺さった。

 

 北側の盗賊たちの混乱は、ここから始まり、広がっていく。

 

 

 

 メアリもまたサイモン・ネイト・ザガン作の人形である以上、先に世に放たれた姉たちと同様の命令を受けている。

 世界を旅し、人間を殺せ、と。

 

 だが、それに従う心算(つもり)は皆無だ。

 

 別に博愛主義とか不殺とかを気取る訳では無い。

 生み出してくれたことに感謝はするが、だからといって意味不明な命令に従う義理は無い。

 

 メアリはそう考える。

 

 旅をするのは構わない、むしろ何処かに定住するなど不可能だろうと思う。

 だが、人間を殺せ、と言う部分は頂けない。

 気に食わない人間を、と言う事なら判る。

 

 ただ漠然と人間を殺せと言われても、何を無茶な、としか返せない。

 幾ら人間が脆弱だとは言っても、数が集まれば普通に脅威足り得るだろう。

 人間の中にも、生物の壁と言われるレベル100を超えるものだって居るかも知れない。

 せっかく生み出されたのに、わざわざ破壊されるような危険を冒す心算(つもり)は無いのだ。

 

 何となく髪を掻き上げようとして、両腕の手甲が血でベッタリと汚れている様を見て苦笑する。

 

 造物主に反抗する彼女の生き方は、姉妹人形には受け入れられまい。

 かと言って人間の方に歩み寄ろうにも、出自が悪すぎる。

 

 どちらからも身を守る為に、自身を鍛える必要が有った。

 

 造物主に「到達点」と言わしめた完成度を誇る彼女だが、慢心出来るほど世界を甘く見ては居ない。

 彼女が持つ「鉄姫(てっき)」と言う名は、鉄壁の人形と言う意味で、彼女の誇りでも有る。

 守勢に回れば、どんな攻撃だろうと耐えてみせる。

 

 とは言え何事も、限度というものは有る。

 

 手近な盗賊に飛び付きながら、メアリは考える。

 人間どころか生物の壁を遥か超越した彼女ですら、読み取れなかった者たち。

 

 姉であるエマ、どうやら他マスター作の人形らしい、アリスとカーラ。

 そして、恐らくは――ゼダと同じく妹であろう、マリア。

 ゼダもそうだったが、どうやら――カーラという人形以外は――皆、メアリよりもレベルが上らしい。

 

 ほら見ろ、調子に乗れば私が破壊される要因など、何処にでも転がっているではないか。

 

 ある盗賊の顎ごと頭部を吹き飛ばし、別の盗賊の胸板を拳で打ち抜きながら、メアリは考える。

 人間を殺し尽くす、そんな調子に乗ったことを考えてしまえば、自分が何者かに破壊される危険が高まるし、勢い付けばそれに気付けない可能性も出てくる。

 

「私ってば、平和主義者だからなあ」

 

 野盗の怒号や悲鳴が鼓膜を撫でるが、メアリは一切耳を貸さない。

 

 殺すかどうかなんて、相手を見て、それから決めれば良いのだ。

 見渡す限り自分より強い者の居ない、今この状況を選び取ったように。

 選択的平和主義者は自身を安全に成長させる為に、立ち位置を見定める。

 今回の選択もまた、上手く行きそうだ。

 

 状況確認の為に時折走らせる探知は、北門付近の盗賊達が着実に数を減らす様子と、衛兵隊も徐々に命を散らしている様子を映し出していた。

 

 

 

「行くぞ、私の戦乙女(ヴァルキリー)達! 行き当たったのも何かの縁、街を守るのだ!」

 

 カーラの呼び掛けに、操り人形(マリオネット)の目に次々と光が灯る。

 白く灯った光は、すぐに赤く、禍々しい輝きへと変わる。

 

 ゴーグルを通し6体の人形と視覚その他の情報を共有し、探知だけでなく、遠隔視(リモートビューイング)を応用した俯瞰視による戦場把握をも駆使し、カーラを含めた7体は群体とも呼べる程の連携が可能だ。

 

 単体戦闘能力の圧倒的な差を体感してしまった彼女は、マリアにはどうあっても勝てないと思いこんでいる。

 だが、実際はトアズで出会った時点で、ヘクストールが人形を浪費していなければ。

 全ての廃棄人形(できそこない)を彼女自身が運用出来ていたなら。

 あの時点で、カーラはマリアを圧倒出来た筈なのだ。

 彼女がその事に気付けないのは、ただただ悪運が重なった結果だ。

 

 だが、現状を受け入れた上にそれを気に入ってしまっている彼女は、たとえその事実に気が付いても……多少調子に乗ることはあっても、マリアに復讐したいとは考えないだろう。

 

 自分の意識を7つに切り分け、カーラは戦乙女(ヴァルキリー)達を走らせ、そして自分も駆け出す。

 この戦場は、他に比べて野盗の数が少なく、そのレベルも低い。

 彼女自身が前線に出ても問題無い、そんな戦場だ。

 

「くふふ……くふふはははは! いつまでもマリアに役立たず扱いされる訳にもいかんのだ! 私もやれば出来る子だと言う実績作り! その宣伝! そして日頃のストレスの捌け口になって貰うぞ!」

 

 黒き喪服を着た長身の女性人形が、白き鎧を纏った人形を率い、野盗の群れに襲い掛かる。

 野盗に身を窶し、人を殺し奪う事で図らずもレベルを上げてきた彼らだったが、それでも一般人に比べて、と言う程度でしか無い。

 

 曲がりなりにも生物の限界レベルを越えたモノ達の群れに対してはあまりに無力で、次々に頭をもぎ取られ、胴に風穴が空き、四肢を失う。

 人数(かず)を頼りに街をひとつ蹂躙しようと目論んだ野盗団に、より良質で控えめな数の暴力が、常識の枷を外して襲い掛かる。

 それに立ちはだかる勇者も、軍勢の先頭に立つ英雄も居ない。

 聖教国の助っ人とやらはここには居ない、別の門を陥落(おと)しに行っているのだろうか、肝心な時に使えない。

 

 ハズレくじを引かされたと気付いた野盗達だが、生き残る為にどうすべきか、正確に把握出来たものは少数だった。

 立ち向かってはいけない、すぐに、できる限り遠くへ逃げる。

 気付いた少数の中でも、実行出来たものは更に少数。

 

 更に、カーラの戦場俯瞰の監視網を出し抜き、戦場からの脱出に成功した者に至っては……皆無だった。




カーラが思ったよりもストレスを溜めていたようです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。