迷子のマリア   作:naow

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マリアが調子に乗って居る所に思わぬ強敵が。現れたりするのでしょうか。


147 防衛戦、中段飛ばし

 気が付けば血塗(ちまみ)れ、そんな私が周囲を見回す様子を、月が見下ろしている。

 その周囲では、大幅に数を減らした野盗の群れの生き残りが、地獄を覗き込んだような顔を私に向け、身動きもままならずに居る。

 向かってくる者は勿論だが、逃げようと背を向けた者を積極的に襲った結果、彼らは下手に背を向ける事も出来なくなってしまったのだ。

 別の誰かが襲われている隙に逃げようとしても、何故か気付かれてすぐに追いつかれ殺される。

 ならばと多人数で一気に掛かっても、まとめて薙ぎ払われる。

 彼らにしてみれば理不尽極まりない状況なのだろうが、賊の類に身を落としたモノに掛ける同情の持ち合わせは、私の手元には無い。

 

 そんな私ですら、ここまで生き残った運の良い彼らの今後を案じてしまう、そんな凶悪な気配が、私の探知範囲を爆走して近付いてくる。

 

「間に合ったぁ! 私も遊ぶよぉ!」

 

 災厄はけたたましくやってくる。

 いつしか要壁を背に立って周囲に睨みを効かせていた私の右手側の一角が、爆散するように血肉のシャワーを周囲に撒き、その余波は私にも襲い掛かってきた。

 

 まるで中級あたりの魔法を打ち込んだかのような有様だが、実際には単純に短刀をすごく速く振り回した、と言う、パワープレイにも程が有る蛮行である。

 

 良く考えたら、どちらでも同じことなのだが。

 

「……エマ。私も汚れてしまったのですが。もっと静かに遊びなさい」

 

 私という化物に注意を向けていたら、怪物による横撃を受けた。

 野盗たちはそれまで以上に恐慌をきたし、本能のままに走り出そうとする者が連鎖爆発的に増える。

 

 それを優先的に狙い、追い掛け叩き潰しながら、私はエマに短く苦情を告げる。

 

「どうせとっくに血塗(ちまみ)れだったでしょお? それくらいへーきへーき!」

 

 理解(わか)っては居たが、エマは全く気にする様子も謝罪する意志も見せず、ケラケラ笑いながら、目に付く獲物に飛び掛かっては、手頃な大きさの骨その他付きのブロック肉を量産して行く。

 

「な、何なんだよ! お前らは一体、何だってんだよ!」

 

 逃げようとする者をあらかた潰した私は、もはや数える程度しか残っていない野盗のひとりが放った言葉に反応して、そちらに顔を向けた。

 似たような怒号や悲鳴はこれまで全て聞き流していたのだが、もうこの周辺の残敵は少ない上にエマまで来たので、心に無駄に余裕が出来てしまったのだ。

 

「ザガン人形ですよ。人を殺して喜ぶ人形です。知っているでしょう?」

 

 まあ、中身は違うのだが、そんな事をいちいち説明するのも面倒だ。

 簡素を心掛けて答えると、声を放った者と、その隣の仲間が信じられない物を見た、そんな表情を浮かべた。

「ざ、ザガンの人形!? そんなモノ、おとぎばなしゅ」

 話していた相手の目を見ていた私だったが、ふいに宙を舞うその首を追って、私の視線も上を向く。

 

「……エマ。会話中に斬るのは、流石に可哀想ですよ」

 

 信じ難いものを全力で否定しようとした野盗たちは、私との問答を楽しむ暇を与えられなかった。

 気が付けば、さっきまで少しは残っていた野盗の群れが、もはやひとりも残っていない。

 

「ごめんねぇ、ちょっとだけ待ったんだよ? ちょっとだけ」

 

 べっとりと血で汚れたエマは、笑いながら謝罪の言葉を……いや、これ謝ってるフリだな?

 ツッコミどころなのかも知れないが、変に疲れそうだし、何よりまだ終わっていない。

「まあ、お説教は後にしましょう。メアリがまだ遊んでいます。行きますよ」

 広域の探知で周囲の様子を見れば、野盗の残りはメアリと遊んでいる残り僅かな集団だけだ。

 南からは、東回りでこちらに向かってくるアリスとカーラ、そして操り人形(マリオネット)たちの反応がある。

 

「わぁ! まだ遊べるんだねぇ! マリアちゃん、先に行ってるよぉ!」

 

 言葉が終わった時には、既にエマの姿はなかった。

 あの野盗たちにエマ程の逃げ足が有れば、生き延びることも出来ただろうに。

 

 我ながら無茶な要求だと気付いて、乾いた笑いを失敗させ、私もエマが向かったであろう方向へと、のんびり走る。

 

 急いだところで、どうせ獲物は残らないだろうから。

 

 

 

「エマちゃんはアレだけどさ! マリアも強いし、カーラもなんか強くなってるし! 私、立場無いんだけど!?」

 

 東門付近の戦闘を終えて南門方向へと走ったアリスは、カーラ達と共に残敵を一掃し、来た道を戻るように走る。

 

「抜かせ! 私は戦乙女(ヴァルキリー)が無ければ、お前たちの足元にも及ばん! 何かの嫌味か、貴様!」

「だから、その人形が厄介だって言ってるんだよ! 面倒臭いなお前は!」

 

 互いに怒鳴り合うその姿は血で汚れきっているが、疲労の色は双方ともに見えない。

 

「お前らが、素直に戦乙女(ヴァルキリー)の展開を許すものかよ! どうせ速攻で私を潰しに来て終わりだろうが! いい加減にしろ!」

「エマちゃんじゃ有るまいし、それが簡単に出来たら苦労は無いって話だろ! 頭が良いのか馬鹿なのか、お前はどっちなんだよ!」

 

 互いに罵り合う様子だが、良く聞けば互いに互いを立てている……らしい。

 奇妙な口喧嘩だが、当然、当人達にはそれぞれの言い分は有る。

 

 要するに、2体とも自分が強いとは思っておらす、互いに相手の方が強いと認識しているのだ。

 

 それは、一面において正しい。

 互いに同じ条件で、ある程度の距離で向かい合う想定であれば、勝敗はどちらに転ぶか判らない。

 

 しかし、状況というものは容易(たやす)く変わる。

 

 距離一つ取ってみても、近ければカーラの言う通り、アリスが即座に肉薄し、戦乙女(ヴァルキリー)を出させる余裕など与え無いだろう。

 遠ければ、戦乙女(ヴァルキリー)と同時に襲ってくるカーラが、アリス相手でも優位に状況を進めるだろう。

 

 2体とも、それを弁えていない筈は無い。

 それを踏まえて尚、互いに相手を軽視する気にはならない、という事なのだろう。

 

 些か過大に評価しあっているきらいは有るが、それでも、見下して増長した挙げ句に足元を掬われるより余程良い、互いにそう考えているのだ。

 

「言うに事欠いて馬鹿扱いとはッ……! まあ良い、どうせ今から向かっても全て終わっているだろうし、集合場所に向かうか」

 

 言い合いに疲れたのか、不毛さに気付いたのか。

 カーラは咳払いで気を取り直す。

 

「……そだな。取り敢えず『洗浄(クリーン)』で誤魔化しとこう、返り血を浴び過ぎた。お風呂に入りたいよ、私は」

 

 北上する足を緩め、進路を東に変える。

 待ち合わせ場所は、目印もない草原のど真ん中。

 

「同感だ。もう充分に暴れたし、のんびりと風呂に浸かって、それからゆっくりと寝たいものだ」

 

 目的地近くで速度を落とした2体は、呑気に歩きながら、互いに「洗浄」の魔法を掛け合う。

 見上げれば、此方を見下ろす星々もまた、呑気な輝きをいつも通りに見せている。

 

「……あいつら、ちゃんと戻ってくるよな? 忘れて街に入ったりしないよな?」

「……判らん」

 

 不意に不安に襲われたアリスの問いに、カーラは自信のある回答を返すことが出来なかった。




終わった様子ですが、街の衛兵隊とかに見られて居ない……筈は有りませんよね?
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