ジュンの苦難の旅路に自分の境遇が重なってしまい、柄にもない同情を覚えた私だが、仲間たちの反応は芳しくはなかった。
「はあ? お前、正気かよ?」
かつて、一度は組んだであろう
「……『霊廟』の持ち主はお前だからな。私に拒む権限など無いさ。酷く気分が悪いだけでな」
自らの創造主の墓所を荒らされ、追い払われた経緯を持つというカーラは、静かに非難の声を上げる。
2名とも、今まで口にしなかっただけで、聖教国には良い感情を持っていないどころか、恨みを抱えていた。
話して楽しくもない話題をわざわざ持ち出す理由も無し、今まで黙っていたことに関しては私から言うことは何も無い。
そして、そんな感情を抱える者に、それを赦せと言うには、私では傲慢さが足りないだろう。
「勘違いをなさらないように。私の心情としては、勿論聖教国を許す気は有りませんよ。しかし、ジュンはその聖教国に嫌気が差して逃げ出したのでしょう? 私はそれで充分だと思っただけで、
私は両名だけでなく、集まった全員の視線を受け止め、静かに言う。
心情としては迎え入れたい。
だが、それが難しい事もまた、仲間の様子を見れば
皆が皆、エマのように寛大、或いは無責任な行動を取れる訳ではないのだ。
「……それはそれとして、こんな天気の良い日中に、気分の悪い話で時間を使うのは勿体ないです。同じ気分が悪いなら、死体焼きでもしたほうがストレスの捌け口にでもなるでしょう」
私は両掌を打ち合わせると、話題の転換を行う。
急激な話の舵の切られ方にカーラは片眉を上げ、アリスは不機嫌顔から呆れ顔に変わった半眼を向けてくる。
「話を逸らすにしても、持ち出す事柄が碌なもんじゃないな。もっと他に無いのかよ」
いち早く気を取り直したアリスが、あえて不機嫌な調子を保ったままで軽口を飛ばしてくる。
聖教国を快く思っていないアリスだが、今ジュンに向けているそれはただの八つ当たりだと、流石に自覚は有ったらしい。
こう言っては何だが、アリスと組んでいた
それでも悪い関係では無かったからその死を悼んだし、それを齎した聖教国を嫌う事にも繋がった。
だからこそ、直接関係のないジュンにその怒りをぶつけても何も変わらないのだと、その感情を呑み込むことも出来たのだ。
むしろ、カーラの方が厄介だ。
「他も何も、死体を量産してバラ撒いたのは
私は敢えてカーラから視線を外し、軽薄な態度で肩を竦めながら、アリスに軽口を返す。
「しれっと無関係みたいな顔してんじゃないよ。むしろお前が中心みたいなトコが有っただろ」
「おやおや、その目は節穴にはめ込んだガラス玉ですか。控えめで大人しく、気弱な私がまさかそんな」
「言ってろ、って言うか鏡見て物言えよ」
未だ本調子とは言えないが、アリスは努めて軽妙に、私と雑言のラリーを行う。
造物主との思い出を汚されたその恨みを表層に引き摺り出してしまったカーラは、陰惨さこそ押し込めたものの、不機嫌と流すには些か尖り過ぎな眼差しで、しかし何も言わずに私たちを見ている。
新たな「霊廟」の主があの様子では、やはりジュンを仲間として迎え入れるのは難しいだろう。
「まあ、さり気なく臭ってきてるし、放っといたら変な病気が蔓延しそうだし、私もあれを焼き払うのは賛成だね。とは言え、私はモノを燃やすような魔法は苦手なんだよ」
軽薄さでは私を凌ぐメアリが、空気の悪さが薄れたと見るや、ホイホイと私たちの会話に混ざって来た。
そう言えば、野盗どもを
私はあくまで素人なのだが、その戦闘スタイルはボクサーのそれと言うよりは、むしろ
そう考えると、私やエマと違ってパンツスタイルなのも、その戦闘技術に蹴りも含まれていると言うことだろうか。
魔法戦主体だったり近接格闘戦仕様の人形を手掛けたマスター・ザガンの、その後期の先品が「
その目的ですら、容易に透けて見える。
「私なんか、そもそも魔法全般苦手だよ。生活魔法がどうにか、ってレベルだ。役に立てるのかね、のこのこ顔出した所で」
すっかり気分を立て直したらしいアリスが、唇を尖らせている。
そう言えば、アリスは生粋の剣士っぽい戦い方をする。
エマのような、魔法が使えるどころか実はそっちがメインなのに、好んで白兵戦を行う者のほうが珍しいのだろう。
「何を言っているのですか、燃やすばかりが仕事では有りませんよ? まとめて焼く為にする作業が有るでしょう?」
ぼやき加減のアリスに、私は表情を一変させて告げる。
そんな華やいだ笑顔の私に、アリスと、ついでにメアリが揃って嫌そうな顔を並べる。
「嘘だろお前、私たちに死体集めしろって?」
「良く考えたら、撃退に貢献した時点で、私たちの仕事は終わったよね?」
利害が一致すれば、急遽手を組んで困難に立ち向かう。
それは何も、人間に限った話ではないらしい。
さり気なく2名ともが「私たち」とお互いひとまとめにしてしまっている辺り、本人たちが意識しているのかは別にして、眺めている分にはなかなかに愉快である。
他人事のように語っているが、私は魔法を使えるからと言って、集まってくる死体を待っている訳にも行くまい。
しかし、ここでグダグダ愚痴を撒いて時間を過ごせば、また話題が聖教国関連の事に戻りかねない。
「カーラ、今回は
ごく軽い、いつもの調子で振り返れば、渋い顔のカーラが憮然と私を見ていた。
「ああ、構わん。今は
彼女なりに、感情を整えようとしているのだろう。
決してジュンの方に目を向けること無く、カーラは私の横を通り、街の方へと歩いていく。
「私も手伝う!」
エマの元気な声に安堵を覚える日が来るとは思わなかった。
私はエマの頭を撫でつつアリスを含めた一同に顔を向け肩を竦めて見せて、カーラの後ろ姿を追うのだった。
何度でも確認しますが、エマのほうが姉なのですよね?