迷子のマリア   作:naow

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結局、街を出ることになるようです。


156 旅立ちに添える花ーーなお、過剰だった模様

 街を治める長、領主様の直臣は、非常に寛大だった。

 ジュンがこの街に危機を伝えてくれたこと、その御蔭で迎撃の体勢がある程度整えられたこと、その辺りは正当に評価してくれた。

 

 だがそれでも、聖教国が主導して行ったと言う事実と、元聖教国の執行官のひとりであった事は、上記の事実を考慮しても尚、無罪放免とは行かなかった。

 街の人間としても複雑であるし、下手にジュンの居住を許してしまえば、街の人間たちの関係に亀裂が入りかねない。

 

 罪人であるが、恩人。

 

 ジュン本人は、可能なら、この街での罪を償ってから立ち去りたい様子だったが、聖教国代表として裁くなら普通に処刑コースだ。

 街が助かったのは、どちらかと言えば私たち、ザガン人形を含む人形たちの活躍……と言うかストレス発散だったので、その辺りでも、自分は役に立っていないのだと思っているらしい。

 あの小娘は死にたいのだろうか、そう考えつつ思い出すのは、気弱に俯いたジュンの昏く沈んだ瞳だった。

 

 ……元の世界にも戻れず、そもそもその身もこの世界の新鮮な死体に取り憑いただけだ。

 そしてやらされていたのは、もっぱら暗殺稼業。

 

 中身も外見に見合う年齢だったのなら、マトモであればある程、病みもするか。

 

「それにしても、キミも大概物好きだねえ。こっちに合わせなくても、街で美酒美食を堪能してから旅立てば良いのに」

 

 メアリが相変わらずの軽薄な笑顔で、私を振り仰ぐ。

 答える前に、私は肩を竦めて溜息を落とした。

 

「そもそも小さな街です。それに、警戒のため、衛兵なり領軍がそれなりの数やってくるでしょう。そんな所に自律人形が長居しても、良いことは無いでしょう」

 

 アルバレインにまだしも近いこの街は、領を跨いでいるとは言え、噂話が入ってこない訳でもない。

 アルバレインの番犬が、ザガン人形にちょっかいを掛けて痛い目を見たなんて話は、ちょっとした娯楽扱いで広がっている。

 

 タイミング的に私たちで間違いないだろうと言う事で、街の人間には良いようにもみくちゃにされたものだ。

 アルバレインの双子魔女はこの国では英雄扱いなのだろうが、人格に癖が有る。

 そんな気難しい怪物をヘコませたと言う噂が妙に広がっていて、詳細を聞きたがる者達が大勢いたのだ。

 

 適当にいなしながら、私は考えた。

 どうせ、噂を流したのもあの双子だろう。

 何を考えているのかいまいち不明だが、ザガン人形のうち2体、エマとマリアはマトモなのだなどと言われても、喜べないどころか冷や汗が出る。

 

 あの2人ですら見通せなかったらしいが、私はともかくエマは危険な人形……あれ?

 そう言えば、なんでエマは、あの双子に噛みつかなかったのだろうか?

 それ以前に、私ですらうっかり忘れそうな程、最近のエマはおとなしい気がする。

 

「……会話を楽しむスタンスから、不意に考え込むのはやめて貰えるかな? 反応に困るんだけど?」

 

 メアリの声にはっとすると、全員がそれぞれ特色の籠もった眼差しを私に向けていた。

「お腹が空いたのですよ。きっと」

 他人事のように誤魔化して、私はメアリに顔を向ける。

 はいはい、などと軽く流したメアリは、私の視線に気付いて少しだけ呆けたような表情を浮かべ、小首を傾げた。

「え? なに? 私に何か用かな?」

 そんなモノ有る訳も無いだろう、そんな様子のメアリの目を真っ直ぐに見て、私は頷く。

 

「はい。この先、ジュンと旅を続ける私の姉に、餞別です」

 

 冗談の心算(つもり)だったのだろう、思いがけない私の反応に、メアリは今度は驚いたように目を丸くする。

 

「マスターの『霊廟』に、改めてご案内します。メディカルポッドが有りますので、使用して下さい」

 

 少し前から、考えていた。

 ザガン人形は、決して楽しく仲良く出来る、そんな存在ではない。

 それは姉妹同士でも変わりはしない。

 私はそもそも中身が変わってしまっているのだから論外として、エマは単に気まぐれなだけだ。

 私はいま出てきたばかりの、街の西門を見上げる。

 エマの機嫌が悪い、或いは良すぎた場合、この街は野盗の襲撃を待たずに壊滅していた可能性も有った。

 

 ……私自身がその想像から離れてしまっていたのは不覚である。

 

「マスターの……『霊廟』? そんなの何処に……」

 

 さしものメアリも、一度足を踏み入れたあの魔法空間が「霊廟」なのだとは気が付いていない。

 

 危険で、かつ、人間種を殺す命令を受けている姉妹たち。

 エマは私と共に旅をするから、メアリがこの先出会う機会は無いだろう。

 キャロルは大森林の賢者様と、静かに森で暮らしているから、ある意味手綱は握られている状態だ。

 

 リズ、クロエは何を考えているのやら、聖教国に取り憑いて何やら動いている様子だ。

 そして、生き残り6体で名前すら聞こえてこない「剣舞(けんぶ)」サラの存在もあるし、私と同じく秘匿された人形「堅守」ゼダも居る筈だ。

 

 皆が揃って大陸を出たとも思えないし、何処に居るかも判らない以上、警戒を怠る事も出来ない。

 心に傷を抱え、恐らく自暴自棄になってしまっているジュンと、それを見捨てられないメアリ。

 

 私からの心付けは、この先ジュンを護ることになるであろうメアリのメンテナンスと……そして、バージョンアップだ。

 

 ジュンを放っておく訳にも行かないので「霊廟」に一緒に招くことになるのだが、カーラは気にするだろうか?

 少しだけ心配になった私が目を向けると、カーラは私に黙って頷いてみせた。

 

 招くだけなら構わない、そういう事だろう。

 

「これからご案内しますが、その前にここから離れましょう。あまり人目に付くのは好ましく有りません」

 

 勿体ぶるようにメアリに答え、私は全員を引き連れて、街を背にして歩き出す。

 メアリとエマが何やらどうでも良い会話を繰り広げ、それにアリスがツッコミながらついてくる。

 2名増えただけで賑やかさが増したが、この程度なら問題を感じない。

 

 旅の仲間を増やすなら、6名が限界かも知れない、そんな事も取り留めもなく考えていた。

 

 

 

「ここ、霊廟だったんだねえ。妙に広いと思ったけどさ」

 

 メディカルポッドから身を起こし、今更な感想を述べる。

「良いですから、早く着替えなさい。貧相な身体(からだ)が寒々しいですよ」

 そんなメアリを見下ろして、私は冷たく言い放つ。

 

 風呂感覚で半身浴を楽しむ余裕が有るなら、とっとと着替えて欲しい。

 

「なんだい、持つものの余裕かい? だいたい、胸があるから偉いなんて思っているなら……」

 

 腕組みして私に答えながら、なんとなくであろう、周囲に視線を走らせたメアリは言葉を詰まらせる。

 私とアリス、そしてカーラの圧倒的胸部保持者たちを前に、反抗して見せるのも虚しくなったのだろう。

 

「おっ、大間違いなんだからねっ!」

 

 しかし、ただ言葉を呑むのはプライドが許さなかったか。

 目を逸しつつ、吐き捨てるように、虚勢を張りきった。

 

 見上げた根性だが、それは負け惜しみでしか無いと思う。

 

 メアリを眺めるアリスの眼差しが痛々しい。

 

「牛乳を毎日飲んで、成長できるように祈ると良いですよ。まあ、叶わない訳ですが」

 

 適当な慰めの言葉を述べる私を、メアリが涙目で、他のメンバーはドン引きの目で見る。

 何が気に入らないのやら。

 

「マリアちゃんの性格の悪さは置いといて、メンテナンスは助かったよ。ガタが来てる自覚は無かったけど、こんなに身体(からだ)が軽くなるなんて」

 

 どうしても私に一矢報いたいらしいメアリが憎まれ口を織り交ぜつつ、着替えながら屈伸してみたり、軽く飛び跳ねたりしている。

 そういう事は着替えてからして欲しい。

 

「餞別と申し上げたでしょう。その感覚は、単なるメンテナンスの所為では有りませんよ」

 

 溜息を抑えて、私は目を閉じて告げる。

 目を閉じたことに、特に意味は無い。

「へ? 何それ? 餞別ってなにさ?」

 ごそごそと音がするから、メアリは着替えながら質問を飛ばしてきたのだろう。

 質問をしてくるということは、まだ気付いていないのか。

 

「……ご自身の」

「メアリちゃん、自分の鑑定とか出来るぅ? 出来るなら、やって見てぇ?」

 

 勿体ぶって答えようとした私の台詞を、エマがかっ攫った。

 思わず目を開けてしまうが、エマは何も気にした様子もない。

「……そう言う事です」

 舌打ちしたい気分をぐっと呑み込んで、私もまた、メアリに向けて鑑定の魔法を発動した。

 ついでに、カーラに感覚共有の魔法も繋げる。

 それに気付いたカーラがちらりと私を見たのが伝わってくるが、私の方からは視線を向けることはしない。

 

 Za300、「鉄姫(てっき)」メアリ、レベル893。

 

 内部骨格(フレーム)が更新された事により、型番が変わり、レベルも上昇したようだが、なんて数字だ。

 ステータス情報も一新されている筈だが、その辺りは私は良く覚えていない。

 笑うしか無い、そう考えかけた私だったが、見落としかけた重要な事実に気付いて息を呑んだ。

 

 メアリの型番が変化してしまっている。

 

 餞別代わりにバージョンアップを目論んだのは私だったが、流石にこれは予想外過ぎる。

 瞠目する私を、当の本人は不思議そうに見返すだけだった。




型番の数字にType3を付け足すのとは意味が異なります。これではまるで……。
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