慌ててエマに許可を取って鑑定を掛け、その型番を覗けばZa206t3、と有る。
以前見た通り、あくまでも2シリーズの素体が、3シリーズに置き換わった、そう読み取れる表記だ。
しかしメアリの、これはどういう事なのか?
餞別代わりに
2シリーズ最終モデルは、3シリーズのプロトタイプだった、とか、そう言う事なのだろうか?
「あれ? なんか
ごく軽い感想のメアリに、ごく軽い思いつきだった私はすぐには掛ける言葉が出てこない。
私と視界を共有しているカーラは、私と同じ様に驚愕の表情で言葉を失っている。
エマとアリスは私たちやメアリを眺め、そして不思議そうに顔を見合わせていた。
メアリが特別かどうかの確認で、エマに再度メディカルポッドに入って貰ったのだが、エマの型番には変化が無かった。
せいぜいレベルが上ってそれに伴って上昇した数値が見られた程度だったが、それに関しては先の戦い……虐殺の結果だろう。
あまり強くなってしまうといよいよ制御出来なくなるから、そこそこで勘弁して頂きたいのだが。
ともあれ、エマに変化が無かったことで、メアリがある種特別な個体であったと判明した訳だが。
「へえ、私ってば、3シリーズ? の試作だったのかなあ。幾ら何でも、私の調整に時間が掛かるなあとは思ってたんだよ。爺様が耄碌してた訳じゃ無いんだねえ」
しみじみと暴言を吐くメアリを、私はどう扱って良いか判らない目で見る。
型番末尾が0とはメアリの言う通り、試作に振られる番号なのだろうか。
私はてっきり、私が完成形で、301のゼダが試作なのだと思っていた。
しかしそうでないとするなら、メアリが試作だったとするなら、ゼダは完成した人形という事になるか。
もっと穿ってみれば、2シリーズ13番めのメアリだけでは無く、エマも含めた2シリーズそのものが3シリーズの試作だったのかも知れない。
或いは……2シリーズは12体の実験機で、本来3シリーズとして制作したメアリには何かが足りていなかった。
だから、便宜的に13番めの番号を振っただけで、行く行くは3シリーズとして改良する
様々な推論らしきは浮かび来るが、結局は根拠も無く、全て簡単な反論で潰される妄想の群れである。
「経緯も理由も不明ですが、人間になるどころかザガン人形としての完成品の仲間入りです。おめでとうございます」
考えることを辞めた私は、表面上の笑顔で軽薄に拍手をして見せる。
ただの餞別の
そんな事態に戦慄した私の、精一杯の自己防衛である。
「イヤな事言うね、でもまあ、力なんて有っても困ることは無いからね。レベルが100以上上がったし、これはもう、私も魔王を名乗って良いかも?」
少しだけ、本心から嫌そうな顔を私に向けてから、気を取り直して得意げな笑みを浮かべて見せた。
まあ、思うことは有るだろうが、素直に自身の強化を喜んでいるのだろう。
だが、後半の発言に関して、私は事実を伝えなければならない。
私は姉思いの、出来た妹なのだから。
「自称するのは結構ですが、本物に目を付けられないように気をつけて下さいね? アルバレインの双子とその仲間の不死姫は、レベル1700程度は有りますよ?」
私の発言に、メアリが笑顔のままで凍る。
「その上、双子は種族名が『ニンゲン』となっていましたが、文字通りだと判断するのは危険です。あれは人外でしょう」
普通の人間種は「ヒューマン」と表記される。
これ見よがしにカタカナで「ニンゲン」とは、人に化けた何者かとしか思えまい。
メアリの顔色が悪い。
「それってつまり、どういう事だい?」
聞きたくないが、確認しておかねばならない。
そんな心情がありありと浮かぶその顔に、私は正面から向き合う。
「ステータス値が異常でした。私では、挑んだ所で手も無く破壊されるでしょうね」
私とて認めたくは無いが、事実は事実である。
きっと私の顔色もあまり良くないのだろう、メアリは黙ったままだ。
しかし、まだ本題では無い。
「しかし大森林の賢者は、アルバレインに居る3体の化物を、魔王とは認めていませんでした」
私の言葉に、アリスがそう言えば、と言うような顔をして顎に手を添えた。
アルバレインでのインパクトに比べれば霞んでしまうが、あの森に居たのは。
「大森林の……なんだって?」
しかし、メアリは訳が判らない、そんな顔を浮かべたままだ。
「大森林の賢者、一部では深緑の魔王と呼ばれる男ですよ。彼のレベルは5000でしたね」
淡々と告げる私に向けられたメアリの顔からは、およそ表情と呼べるものが抜けていた。
普通に聞けば与太話の類でしか無いのだが、果たして信じて良いものか。
呆れるべきか笑って否定すべきか、すぐには判断が出来無いのだろう。
「あ、そう言えばキャロルは賢者様と一緒に居ますよ」
そんなメアリに、私はさらりと情報を付け加える。
立て続けの情報の爆撃に、メアリは頭を掻き毟った。
「はあ!? アルバレインの双子とか、不死姫とか、賢者とか! その上キャロルちゃんが賢者と一緒に居る!? ねえ、何処からが冗談だったか教えてよ!?」
まあ、そうそう上手くは呑み込めないだろうなあ、そう思いながら、しかし私は表情を動かさない。
「残念ですが、事実です」
笑わない私と、そんな私を囲む仲間たちの様子に、メアリはいよいよ冗談だと笑い飛ばすことも出来ず、げんなりと肩を落とす。
せっかくの強化に喜ぶ気持ちに、私の差した水はさぞ冷たかった事だろう。
溜息を
対して私の仲間はと言えば、実に呑気な様相である。
「……それは、つまり、アルバレインの化物共ですら魔王と認められないのに、私如きじゃ到底無理って話かい?」
正解を導き出せた事は実に聡明だと思うが、同時に滑稽でも有る。
「そういう事です。何なら、私たちのレベルも確認しておきますか?」
微妙に私より強くなってしまったメアリだが、彼女は未だその事を知らない。
私を見て自信を取り戻せば良い……などと、そんなお優しいことを私が考える筈がない。
エマのレベルを見て、ショックを受けるが良い。
完全に虎の威を借るムーヴだが、現実として、間近に強大な存在が有る、そう認識するのは悪いことではないだろう。
多分。
私の提案を呑んだメアリが、私の思惑通りにあんぐりと口を開けて黙り込む様子は中々に愉快である。
私のレベルを見て「勝った」と言ったのはやや腹立たしかったが、溜飲も下がるというものだ。
「エマちゃん、バケモノ過ぎるよ。もうそろそろ、ゼダちゃんに匹敵しそうだよ」
そんな風に悦に入ろうとする私は、電撃を浴びせられたような気分になった。
恋に落ちたとかでは無い。
悪寒が過ぎて、寒さでは済まなくなったのだ。
調子に乗りに乗ってメアリをおちょくっていた私が、逆撃を浴びせられるとは想定外だった。
脳天気なメアリと、何を言われたのか理解していないエマが微笑ましく笑い合う様子を見ながら、今のメアリの発言を聞かなかったことに出来ないか、そんな事を考える。
私の旅路には少しばかり、人形の影がちらつき過ぎやしていないだろうか。
理不尽にメアリを追い詰めていた私は、もっと理不尽な現実に、罵声のひとつも浴びせたい心境に陥るのだった。
ええと、こういう場面では、マリアを指差して「ざまあ」と言うのが正しいんでしたよね?