迷子のマリア   作:naow

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あれ? これは「迷子」の方ですよね? 「近所」のではないですよね?


163 酒場で思う、あれこれ

 港町の活気に負けない、冒険者ギルド。

 依頼を受ける列がカウンター前に並び、仕事終わりだったりオフだったり、或いは仕事前の打ち合わせだったり、様々な者たちが酒場で食事したり酒を楽しんだりと、思い思いに過ごしている。

 

 開け放たれた窓と工夫された屋内の配置で風通しが良く、更には空調魔法まで整えられた空間は意外にもからりとして過ごしやすい。

 

「いやあ、結局落ち着いちゃえば、何処だって良いみたいでなんかヤだねえ」

 

 数分前まではエールが満たされていた、既に廃墟となったジョッキを名残惜しそうに眺めながら、アリスはバツが悪そうに苦笑いする。

 冒険者ギルドのギルドハウスを訪れた私たちが情報を求めて話しかけた冒険者たちは、皆一様に同じ反応を見せた。

 

「変に冒険するくらいなら、まずはココで食ってけ!」

 

 冒険者に冒険を止められた訳だ。

 なかなか意味が判らない状況だったが、あまりにも皆同じことを言うので理由を聞けば、それもまた、皆が口を揃えた。

 

「地元のヤツが当たり前に出す料理に、慣れてないヤツは高確率で()()()んだ」

 

 皆、真顔だった。

 まあ、食べ慣れているからこそ身体(からだ)が対応できる食材、と言うものが有るのも確かだ。

 この地方でしか食されていないモノを当たり前に振る舞われても、それを消化する身体(からだ)が出来ていない者には厳しかったのだろう。

 

 ……海産物の発酵食品とかだろうか。

 

 実際、私たちは何も問題は無さそうだが、必死にも思える警告を受けてしまっては、その好意を無碍にするのも気が引ける。

 もっと言えば、海産物を食せるなら、ぶっちゃけ何処でも良い。

 

 そんな理由(わけ)で、私たちは冒険者ギルドの酒場の一角を占拠しているのだ。

 

「イカ墨のパスタというのは、なるほど見た目はアレだが、中々に美味だな!」

 

 とても楽しそうなカーラが黒いパスタを器用に巻き取っている。

 見た目とても上品な食姿勢だが、言っている事が庶民的過ぎて、総合して反応に困る。

 その隣では、シーフードピザを注文したエマが、とても良い笑顔で食事を楽しんでいる。

 ……手がベトベトだが、まあ、本人が楽しそうなら、うん。

 

 ヒラメのカルパッチョを肴に、いつの間にかブランデーが満たされたジョッキを傾けて、アリスはそんな仲間たちを優しげな目で見ている。

 

 そのカルパッチョに合わせるなら白ワインだろうとか、ブランデーの飲み方としてそれはどうなんだとか、言いたい事を呑み込むのに苦労する私が注文したのは、港町の炒めそばである。

 名前でなんとなく想像したのだが、出てきたものは思った以上にソース焼きそばだった。

 シーフード焼きそば、思っていたよりは遥かに美味しかったが、想像を越えてくる味でもない。

 しかしボリュームが想像以上の一品で、食事としてはこれで充分な代物である。

 満足度は高かったが、もう少し冒険しても良かったのかも知れない。

 

 このアーマイク王国の冒険者ギルドは、どこも食事のレベルが高い。

 お国柄なのか、まあ、美味しい事に文句が有る訳も無し、むしろもっとやれ、と言うやつである。

 海風に吹かれて食べる海鮮ソース焼きそば。

 気分は海の家だ。

 

「銀髪メイドがものっそい上品に焼きそば食べてる絵って、なんて言うか……コレはコレでシュールだな?」

 

 いつの間にか私の方を見ていたアリスが、本人も上品な所作でカルパッチョなぞを摘みながら、私をからかう。

「カーラちゃんは真っ黒いパスタで、マリアちゃんは茶色のパスタ? ふたりとも、美味しいのぉ?」

 そんなアリスの向こうから、覗き込むようにしてエマが、興味深げに私の手元を覗き込んでいる。

 期せずして、私とカーラは目を合わせた。

 

「クセは有るが、中々の美味だぞ?」

「私はある意味で食べ慣れている味ですね……。あと、これはパスタとは違いますよ?」

 

 それぞれの反応を興味深げに見ているエマに、私とカーラは空いているフォークを手に、それぞれの麺料理を器用に巻き取る。

「一口食べてみますか? はい、お口を開けて下さい」

「お、では、私のパスタはその次だな?」

 一手早かった私が先に、カーラが続いてエマに餌付けをする。

 どちらも非常に気に入った様子だったが、考えてみればエマが嫌った食べ物の記憶が無い。

 

 案外、何でも食べるのでは無いだろうか?

 

 周囲の冒険者がなんだか温かい視線を向けて来るのが若干気に掛かるが、敵視の視線よりは余程良い。

 エマのベタベタの手やテーブルに洗浄の魔法を使ったりしながら、夕食はもう少し考えて注文しようと心に決めたのだった。

 

 

 

 食事も落ち着いた所で、周囲で面白がって見ていた冒険者達に色々と話しを向けてみると、風俗街……花街で聞いた以上の事が見えてきた。

 流石は冒険者、と言ったところか。

 

「結局、聖教国は脅しの心算(つもり)で戦争吹っかけて、バケモンを怒らせたってトコだろうな。実際に動いたのはコッチは3人ってんだから、本当にバケモンだぜ」

 

 強面で体格の良い男が、その大柄な体躯を縮めるようにして口を開く。

 髭などで凶相をあしらっているが、意外とつぶらな目が可愛らしい。

「3人……そんな戦力とも呼べ無さそうな人数で、国相手に何をしたんでしょう?」

 あくまでも知らないふりの私の隣では、アリスが白々しく頷いている。

「いや、元々ひとりでこの国お抱えの魔導師団と互角以上とか言われてた連中なんだが、それが嘘どころか全く控えめな噂だったってな。聖教国軍を光の矢と熱線の魔法で薙ぎ払った挙げ句、聖都には天から星を落としたって聞いたぜ」

 語りながら何処か興奮気味な男の向こうに、あの3人の幻影が見えた気がして心が萎える。

 

 彼女たちは、ご丁寧に進軍してきた聖教国の方々を手厚くもてなし、お土産まで持たせた訳か。

 星を落とした、となれば、恐らくは隕石(ミーティア)辺りだろう。

 天庭崩落(フォールン)とか言う古の魔法であったとしても、呆れはしても驚きはしない。

 

「3日程かけて、聖教国内のあちこちに星を落としたって言う話だから、よっぽど怒ったんだろうな。聖都だけでなく、主要な街は壊滅、街道も港も破壊されて使えない、船は燃やされて沈められたとか。カルカナントは間に挟まれてただけだから関係無い筈なのに、物凄えビビッてたって話も聞いたけど、まあ尾ヒレだろうな」

 

 中々強烈な続きが聞けた訳だが、話している本人は話半分、程度で聞いている様子だ。

 直接本人たちと接触した私としては、その程度はやっただろうなとしか思えない。

 

 妹は確かに甘ちゃんだったが、姉は全く手を抜く事はしないだろう。

 その甘っちょろい妹の方だって、仲間を護る為なら手を汚す事も躊躇わない目付きをしていた。

 それに不死姫さまを加えて3人での行動となれば、妙な禍根を残すくらいなら大虐殺をする程度の判断は、軽くやってのけそうだ。

 

 単純に、どれほどの人間が死んだのやら。

 殺戮人形(わたしたち)が余程可愛く見えてしまう。

 

「お前、良くアレに喧嘩を売る気になったな?」

 アリスが小声を私に飛ばしてくる。

「私は売られた喧嘩を買っただけですし、結果は痛み分けです。自慢にもなりません」

 それに軽口を小声で返し、それが耳に入った3体が一瞬だけ、ジットリとした視線を揃って寄越した。

 

 他はともかく、エマにまでそんな目で見られるとは思わなかった。

 

「でまあ、本国と連絡が取れなくなった教会が、それぞれの国の裁量で追い出されようとしてる訳だ。追い出されても、もう国らしい国は無いし、どうなるやら」

 

 なまじ偉そうにふんぞり返っていたものだから、事ここに及んでも、ほとんど誰も手を貸すような真似をしないのだと言う。

 

 嫌われ過ぎだろう。

 

 利権で繋がっていた地方貴族とかも居たようだが、大体は早々に切られたらしい。

 むしろ、そんな癒着の証拠を隠滅するために、私兵を使って強引かつ早急に領から追い出したお偉方とかも居たんだとか。

 

 まあ、下手に庇い立てて魔女がやってきたりしたら洒落にもならないし、良い判断だろうと思う。

 

「だから、海路は南回りも北回りも、多分あの国までは行かねえだろうぜ。は? 他の大陸? それだったら、北か西だろうな。勿論、ここから出てるぜ」

 

 時々空になったジョッキをこちらの好意で満たして差し上げると、冒険者の口はどんどん軽く、滑らかになった。

 別に秘密とかを聞いている訳でもなし、話す方も後ろめたい思いもなく話せるのだし。

 

 私はアリスと視線を交差させる。

 北か西か。

 海原を越えての旅ともなれば、途中で気軽に行き先を変える事は出来ない。

 

 頷きあった私たちは進路を決める為にも、それぞれの大陸について、冒険者が知っている限りの情報を搾り取ろうと画策するのだった。




人形4体による接待。事実を知れば、冒険者はどう思うでしょうか。
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