今更だが、本当に今更で恐縮なのだが、聖教国は。
あのイカレて少しばかり頭のネジが緩めなバ……考えがちょっと足りない方々は、異世界の魂を集めて何がしたかったのだろうか?
ハズレ勇者の皆さんや執行者とか言うなんとも胡散臭い連中の大半は、恐らく聖都と運命を共にしたのだろうが、使えないと判断されたモノや
今頃さぞや混乱しているのだろうが、それ自体はどうでも良い。
私が気になるのは、
まさか、本当にただの戦力増強だったのだろうか?
だとしたら効率が悪過ぎるし、何よりもいくら短時間かつ小規模とは言え、頻繁に世界を隔てる壁に穴を開けるのは色々と問題が有るのではないだろうか。
確かに執行者に関して言えばレベルは300に迫る者も居た気がするし、そこらの人間よりは圧倒的に強い。
それが小ならともかく、10や20の群れとなれば脅威だろう。
だが、どうにも運用がマズいと言うか、私が見た範囲だけで言っても、最大で5~6名での行動だった。
ハッキリ言って連携をうまく取られたとしても、それしきの人数など問題にもならない。
アタリというだけあって数が少ないとは聞いたが、それにしても……悪戯に浪費しているようにしか見えなかったのだ。
普通の人間にしては強い、程度のハズレの連中にしても、勇者だなんだと変な持ち上げ方をせずに、普通に兵士なりの
例えば私だったら、もっと――。
「――おい。おい! 我関せずの格好で現実から目を逸らす前に、エマ嬢をなんとかしてくれ! 私やアリスでは止められん!」
変わり映え無く日が昇り沈む海原に目を向けながら益体も無い事を考える私を、切羽詰まった声が無遠慮に現実へと引き戻した。
……何故私が甲板まで上がった挙げ句、黄昏れつつ海原の向こうに空想を遊ばせているのか、少しは考えて欲しいものだ。
「……
私の精一杯の提案は、やる気の無い声で押し出される。
まあ、その暇潰しも
きっと無駄だよ、とは思ったが、仲間の無様……涙ぐましい努力を無碍にするのも気が引ける私は、余計なことを言って水を差す事に気が引けたため、余計な口を挟めなかったのだ。
まあ、そこで黙っていた以上、当然私にもある意味切り札は幾つか有るのだが……まだ船上の徒となって1週間である。
エマの飽き性が予想以上であった事もあり、2体の努力を鼻で笑ってやる気にもならない。
「ほらほらぁ! 私はまだまだ元気だよぉ? もっと頑張ってよぉ!」
船内をあちこち走り回っていたエマは、私が現実から逃避している間に甲板まで上がってきたらしい。
可愛らしい煽りに目を向ければ、船員や冒険者など、腕に自信の有りそうな男たちが、肩で息をしてへたり込んでいる。
「……で? アレは何をしでかしているんです?」
物凄く興味が湧かないのだが、確認しない訳にも行かない。
なにしろ、あの爆弾娘の同行者の名簿には、私の名も含まれているのだ。
「鬼ごっこ、だそうだ。甲板の安全なエリア限定で、エマに触れたら勝ち、と言うルールらしいな」
鬼を一般人が追い回すとは、随分変わった鬼ごっこだ。
呆れを感嘆の表現に包んでみるが、どうにも上手く纏まらない。
もっと良い表現はないものかと考え込む私の耳に、カーラの説明の続きが飛び込んでくる。
「ちなみに、エマに勝ったらお前を一晩自由に出来るらしいぞ?」
生暖かい微笑みと半眼が、凍りついて引き攣る。
何がどうなってそんな事になったのか。
「何で止めないんですか、
引き攣る顔でようやく、精一杯の抗議の声を上げれば、いつの間にかカーラの向こうで船縁に背を預けていたアリスが、疲れた顔で遠い目をエマの居る方向に向けている。
「止めたけどさ? 私らが頑張ってエマちゃんの暴走を止めようと必死なのに、どっかの誰かさんが他人顔で人任せにしてるのにだんだん腹が立ってきてさ? まあ、仮にエマちゃんが負けても私には問題が無い訳だし?」
のんびりと言うアリスの言葉には、口調とは裏腹にベッタリと毒が塗ってある。
随分と酷い仲間である。
私だって、当初はエマの気を引こうと努力し、あちこち見学して回ったり、食堂で食事してみたりとあれこれ気を回したのだ。
3時間くらいは。
「まるで私が何もしていないような言い振りですが、私だって頑張りましたよ? 少なくとも、こんな
私の抗議の声に向けられたアリスの表情は、まるで幽鬼のそれだった。
「頑張った? 初日の夕方前にはもう投げ出して、日がな1日海を眺めてたアンタが? エマちゃんが今日まで何回大暴れしそうになったか、アンタは知らないだろ?」
その口から漏れるのは、初めて聞くような種類の声色の、はっきりとした怨嗟である。
そうか、エマは既に暴発の危機を数度迎えていたのか。
「今となっては、私はメンバーで最弱ですよ? 何度でも言いますが、
私も負けじと憮然とした声を上げるが、アリスもカーラも、一顧だにしてくれる様子はない。
「寝言は寝床でほざけ。仮に私にお前以上の
鼻を鳴らして、カーラは冷たい目を向けてくる。
相変わらず情けない事を自信満々に言っているが、もっと自分の能力の方に自信を持って欲しいものである。
3~4体は破壊されるだろうが。
「大体、誰が最弱だよ。修練室での模擬戦でだって、アンタに負け越してるってのに。って言うか、3人掛かりでならもっと楽なんだよ、何でサボってるクセに文句は一丁前なんだよ」
そんなカーラの言葉に乗って、アリスも不満をぶつけてくる。
それはまあ、模擬戦レベルだったらそうかも知れないが、それだってアリスは3回に1回は私に勝っているのだ。
冒険者として活動していた実績も有り、正直、
総じて2体とも、自分に自信が無さ過ぎる。
「ほらほらぁ、もっと遊ぼうよぉ!」
少し離れた位置で、エマが周囲を鼓舞……じゃないな、アレはやっぱり、ただの煽りだな。
そんな様子で、へたり込む男たちに発破を掛けている。
「いや、もう無理だ、俺らの負けだ。お嬢ちゃん、すばしっこすぎるぜ」
「あのメイドの姉ちゃん、いい女だけど障害が高すぎるぜ。これ以上は無理だ、船酔いと別の理由で吐きそうだ」
「もう、何でも良いから酒が呑みてえよ、俺は。お嬢ちゃん、メシ奢るから下行こうぜ、もう遊びは無理だ、無理」
しかし、男共は口々に降参を宣言し、呼び掛けに応じる様子は無い。
エマは暴れ出しそうかな? と思って様子を探ってみるが、不満げに頬を膨らませては居るが、その目に危険な兆候は見られない。
……なんだかんだ、遊んで気が紛れたらしい。
あれも3日程度で飽きそうでは有るが、まあ、良い暇潰しを見つけたものだと感心してしまうが、やはり気に掛かる。
「……なんで私を賞品にしようなんて思いついたんでしょうね? エマは、
気になってしまった事を素直に口から零すと、傍らで笑いの気配がする。
顔を向けると、頼もしくも鬱陶しい仲間が揃って、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みで私を見ている。
「……なんですか、薄気味の悪い」
思わず思ったことをそのまま口にする私に、だが、2体は気を悪くした様子も無く、その笑みを崩すこともない。
「私たちが吹き込んだんだよ」
「そう言えば、暇な男どもが遊んでくれるぞ、とな。みんなが逃げてしまうから、殺してしまうのはダメだ、とも」
そして、私の疑問は解けた。
ある意味で純粋なエマが随分と悪辣な事思い付いたものだと呆れていたが、こいつらが諸悪の源か。
ニヤケ笑いを止めない2体に、さて、どんな灸を据えてやろうか。
海原を照らす太陽を見上げるが、差し当たり、良い案は降ってこなかった。
自業自得とか、そう言う言葉が有る事を知っていると、人生を楽しめるそうですね?