迷子のマリア   作:naow

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ヒューゴの運命や如何に。


180 上陸準備、の準備

 怪しくて気持ち悪いでお馴染みのヒューゴがチョロチョロと何かを探しているらしい。

 

 臨時防衛班長ことカーラ他、アリスもエマも「それ」が何か知っているらしいが、私には何も教えてくれない。

 聞いても、とても同情的な視線を寄越されるだけである。

 

 聞いたら多分、私が暴走しかねない何か、と言う事だろうか。

 

 一応客室外の行動ログだけは見ているが、此処数日は玄関ホールや2階フロアへの行き方など完全無視で、何故か客室フロアを丹念に探索しているようである。

 そのまま遭難でもして欲しいのだが、残念なことにその望みは叶っていない。

 

 それにしても、客室と他は食堂や厨房、談話室、修練室にメディカルルーム(人形専用)しか無いこの客室フロアで、いったい何を探しているというのやら。

 

 何か面白い部屋とか仕掛けを見つけたら面白いので3年位は放置しておこうかと思ったが、冷静に考えるとアレに3年も付き纏われたくはない。

 

 何故かエマから同情の視線を受ける回数が激増した私だが、その理由もまた、誰も教えてはくれないのだった。

 

 

 

 目的の港、客船も目指していた港へは、あと3日ほどの距離に近づいた。

 事此処に至って、私は生き残りの船乗りの3名を招集し、寄港する際の注意点を確認する事にした。

 

()ってもなあ……。そもそも本来港に着く筈だった船は海の底だし、アンタの潜水艇ってのは魔法で作ったモンなんだろう? いっそ港近くの浜にでも乗り上げて、そこから歩いた方が良いかも知れねえぞ」

 

 私の相談を受けた船乗りたちは顔を見合わせ、そして此方に顔を向けたと思えば、代表してひとりが口を開いた。

「漂着した、と言うには、皆さん汚れなどが無さすぎると思いますが? 素直に港に顔を出して、港湾職員なり衛兵なりの指示に従ったほうが平和なのでは?」

 私が不思議そうに首を傾げてみせると、別の船乗りが口を開く。

 

「真っ当な船で、隠すことも出来ないってんならそれが良いだろうけどな。それでも面倒なことしか無いのに、魔法で船を作って悠々来ました、なんて言ってみろ。面倒事で済んだら良いな?」

 

 呆れ顔を向けられてしまったが、彼の言う面倒事に思い当たることが無い。

 

「……本気で理解(わか)って無さそうだな。アンタが船の維持にどんだけ苦労してるか、それとも全く気楽なモンなのかは置いといて、だ。傍から見りゃあ、アンタは自前で船用意出来て、簡単に海を越えられる、ように見えちまうんだよ」

 

 そんな私に溜息を落とし、船乗りは呆れ顔のままで説明を続けてくれる。

 船の維持には魔力が必要で、事前の準備が無ければ、おいそれと海を超える事など出来ない。

 

 本来であれば。

 

 今は()()()()、とある事情で用意していた魔力装填済みの魔力炉が20個程手元に有ったのでなんとかなっていただけだ。

 ちなみに、魔力がフルで残っている魔力炉は、残り8個にまで減ってしまった。

 

「そんなモン、衛兵どころか下手すると国が出てきて取り調べが始まるぞ。だったらいっそ、その辺の浜から上陸して港に出向いて、俺等が港の連中やら本社……客船の大元に連絡して、の方が、命からがら漂着した、と思わせられるんじゃないか?」

 

 腕組みしていたもう一人が、その顔を説明してくれた船乗りに向け、それから私に視線を寄越した。

 

「まあ、あとは俺らが口裏合わせりゃ良いんだしな。ただそれには、此処で見たモンの中から、言って良いこと悪いこと、そこら辺を()()に徹底しなきゃならん。アンタらが人形――ザガン人形だって事を含めて、な」

 

 私たちにとって都合の悪いことを隠蔽したいなら、全員の口を何らかの方法で縫い付ける必要が有る、と言いたいらしい。

 なるほど確かに、私たちは好んで出自を吹聴したい訳では無い。

 

 だが、そんな事は無駄でしか無い。

 

 人の口に戸は立てられぬし、目立ちたい者はまだしも、生き残ってしまった事に痛みを覚える者に、更に嘘を()いて口を噤めと言った所で無駄である。

 良心の呵責に耐えきれずに、何処かで口を滑らせるに決まっているのだ。

 

 真実とやらを後生大事に抱えて生きるよりも口を割ってしまった方が自分の気持を救えるのだから、選ばない道理はない。

 

 結果を見れば確かに私達は16名の生命を救ったのだが、そんなものは偶然の産物でしか無いのだ。

「いえ、まあ仲間たちとある程度相談はしますが、基本的には隠すべき何者も、この旅路には存在しないと考えています」

 だから、私は素直に考えを口にした。

 

 船員3名は驚いたような、呆気にとられたような顔をしている。

 

「人間が10人以上居るところに、言うな隠せ秘密にしろと言った所で漏れない訳が無いでしょう。幸い、私の潜水艇を実際に見た者は貴方たちの中には居ない訳ですし、貴方たちを魔法空間に避難させ保護した、と言う事実も、この魔法空間についても、誰に話してもらった所で特に困りはしません」

 

 どこまでも静かな私の言葉に、船員たちは黙って聞き入っている。

 そして、私の口が閉じた所で、ひとりがハッとしたような顔で口を開き、言葉を発した。

「いや、とは言えアンタはザガン人形で、ここは色々と秘密の有るアンタの拠点なんだろう? 知られちゃ不味いんじゃ……」

 言いながら、それを指摘することも不味いと思ったのか、言葉尻は弱くなる。

 それを受け止めた私は、特に感情らしきものを動かすこともなく、淡々と答えてみせた。

「知られたくは無いですし勿論秘密も有りますが、少なくとも貴方たちが見た範囲内の物であれば、知られては困ると言う程では有りません。そもそもそんな秘密が易々と目に付くような空間だったら、救助そのものを行っておりません」

 私の答えに、船員たちは顔を見合わせ、何事か考える様子を見せる。

 

「……そういう事なら尚の事、浜に漂着してしまった事にしたほうが良さそうだ。他の連中にも、港の近くには着いたハズだがこれ以上は魔力が保たなかったとかなんとか、適当な事を言っとけば納得もするだろう。ちょっと歩けば港だって知れば、余計にな」

 

 最初に意見を述べた船乗りに、残りは頷くことで同意を示した。

 そこで私は今日の夕食の折にでも、魔力が保たずに港近くへ着くのがやっとだと言う事となるべく港には近づくように努力すると言う嘘、そこからは港まで徒歩で移動して欲しいというお願いを並べると決め、船乗り3名にも了承して貰った。

 その上で地図を広げ、目的地近くでかつ、人目に付かない上陸地点を吟味し、意見を交換する。

 

 まるで私がひとりで船乗りと話を進めているようだが、実は私の仲間も揃っている談話室内で、他の連中は単純に口を挟んでこなかっただけだ。

 

 聞いては居るが、見事に何も言って来ない。

 少しは私の負担を減らすとか、そういった姿勢を見せて欲しい仲間たちは、呑気に茶を啜っているのだった。




人間は、色々と面倒なようです。
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