迷子のマリア   作:naow

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しばらくはマリアの単独行ですが、上手く出来るでしょうか?


182 お届け物を、お届け先へ

 港街クアラス。

 大海を越えて他の大陸へ向かう玄関口というだけあって、かなりの活気である。

 

 見回せば、人間は勿論、エルフにドワーフ、頭一つ抜けて大きいオーガらしい巨躯や、その他ツノの生えた者や獣耳の者など、様々な種族が好き勝手に闊歩している。

 賑やかで異世界情緒溢れる光景に旅情を刺激されるが、今はそんな場合ではない。

 

 ないのだが、しかし私の視線は周囲を彷徨い、そしてそんな行動が、ある一団に気付かせてくれた。

 

 オーガらしき集団が揃いの装備を纏っているのは、あれはこの街の衛兵なのだろうか。

 巨躯と相まってなかなかの威圧感を放っており、居るだけで街の治安は守られそうである。

 ざっと見た限り、一番レベルの高い者は72で、()を越えていない中では達人級である。

 しかも年齢は27歳と、レベルに比べると異常に若い。

 彼ならば或いは、壁を越えてレベルを上げて行くかも知れない。

 

 一番レベルが低い者は27で、一端の冒険者ならいい勝負が出来るかも、と言ったところか。

 

 そんな事を考えながら私はそのオーガの集団に近付き、位の高そうな者……一番強い男に声を掛けた。

 

「申し訳有りません、つかぬことをお伺いします。この港の管理を司る建物は、どう行けばよいのでしょうか?」

 

 見上げながらの私に視線を落として、男は怪訝そうな表情で口を開く。

「あん? 教えるのは構わんが、船の手配は別にそんな所に行かなくとも出来るぜ? ……何か用が有るのか?」

「はい。見た限り、貴方たちは衛兵のようですが……貴方たちにも、無関係な話では無いと思います。責任者の方、或いは責任者に話を付けられる方にも、ご一緒して頂きたいのですが」

 私の返答に、彼は怪訝そうな顔に更に不思議そうな色を浮かべる。

 

 勿体振ることではないし、勿体振る場面でもない。

 とは言え内容が内容である。

 私は周囲に配慮し、若干声量を落とす。

 

「私はアーマイク王国からの船に乗っていたのですが……その船が、クラーケンの襲撃を受けて沈みました」

 

 手短に事の顛末を語る私に、衛兵の顔つきが変わった。

 私の長い1日は、まだ折返しにもきていなかった。

 

 

 

 港湾維持局。

 港の船の航行と街の治安、両方の秩序を維持し、発展を目指すこの組織こそが、このクアラスを統治するのだという。

 

 案内してくれたオーガの一団はここに所属し、正確には衛兵ではなく「外回りの局員」なのだそうだ。

 仕事は荒事の仲裁、犯罪捜査等、衛兵が担っていることと大差は無い。

 

「クラーケンに襲われて一人でこの近くに漂着した、って事か? 俄には信じ難いな。見た限り、服に汚れも無えし」

 

 私の希望で大広間に通された私は、担当者が来るまでの間、局員に監視されながら静かに席に着いていた。

 

「服の汚れは魔法で落としました。これでも、それなりに魔法は扱えますので」

 

 漂着した、という部分を無視して、私は質問と思しきその言葉に答える。

 魔力で形成された潜水艇で疾走した挙げ句、岸壁に突っ込むような有様を漂着と呼んで良いものか迷ったし、そもそもそんな説明をしたら不審者どころかただの嘘()き扱いだろう。

 

 事実として受け入れられたなら、それはそれで厄介なことになるとしか思えないし。

 

「へえ? いや、見た目で言ったら悪いんだが、どこぞのお屋敷のメイドにしか見えないからな。ちょいと意外だ」

 私を案内し、ずっと話し相手になってくれているオーガの青年は、他の局員同様、立ったままである。

「おや。見た目で言うなら貴方こそ、大きな身体(からだ)に似合わず気配りがお上手なように見えますね。とても好感が持てます」

 軽口の範囲内の発言には、こちらも波風の立たない範囲で軽口を返す。

 その巨体では初対面の人間種、或いはそれと同サイズ以下の種族には見た目だけで恐れられたことも一度や二度では有るまい。

 そんな彼を含む巨人集団は、私を囲んで移動する間も極力笑顔を崩さず、私に無闇に緊張を与えないように配慮していたように思えたのだ。

 とは言え、その笑顔も獰猛に見えてしまう辺りはもう、彼らの努力でもどうしようも有るまい。

 

 そんな事を思っていた私は割りと本心で思ったことに、ささやかなリップサービスを添えて唇の端に乗せてみた。

 

「はあ? 俺が気配りぃ? この俺が最も苦手とするところだぜ、そいつは」

 

 心持ち顔を赤らめて、青年は素っ頓狂な声で返してくる。

 こやつ、意外と初心(うぶ)であるか。

 

 私との遣り取りを聞いていた他の局員が、堪えきれなかったのか笑いを漏らす。

 

「くくっ、まあ、確かにお前は結構細かいことに気が付くよな、カーツ隊長」

「モテモテだなあ色男。勘違いして俺達に仲間を逮捕させるような真似すんじゃねえぞ?」

 局員仲間が混ぜっ返せば、残りの仲間たちはいよいよもって大爆笑だ。

 隊長と呼ばれている割には……まあ、これはこれで慕われているのだろう。

 

「うるっせえな! お客人に失礼だろうが、つか笑ってんじゃねえ!」

 

 見た目は剛毅な偉丈夫なのだが、こうしてみると実年齢以上に若く見えてしまう。

 ふと目が合ってしまい、私が小さく笑ってみせると、慌てて目を逸らされてしまった。

 

 面白いが、遣り過ぎると勘違いされてしまうかも知れない。

 何事も程々に、だ。

 

「何を笑っているのです。報告では、笑えるような状況では無い筈ですが?」

 

 そんな和気藹々とした室内に、剃刀のような声がすっと斬り込んでくる。

 笑い声がピタリと止み、局員たちは揃って姿勢を但し、ドアに……入ってきた男に敬礼を向けた。

 長髪細面に眼鏡、いかにも神経質そうな長身の青年――流石にオーガ程では無いが――は短く敬礼を返し、局員オーガたちはそれを合図に敬礼を解き、直立不動の姿勢に戻る。

 

 力こそが正義、そんなオーガたちが素直に従う男は、見た限りでは人間でしか無い。

 

「失礼、お待たせしました。私はライナルト・テイラー。彼らの責任者をしております」

 

 しかし、その立ち姿には隙は見当たらない。

 真正面からぶつかり合うなら単純なステータスの暴力で私が勝つが、それでも私は少しだけ驚いていた。

 

 レベル87。

 

 種族は人間(ヒューマン)、26歳。

 この年齢で、いったい何をすれば、そんなレベルに到達するのか。

 ともすれば気品すら感じるその佇まいに埋もれて強者感は薄いが、その切れ長の目には、そこらの一般人ではたやすく気圧されてしまうだろう。

 どれほどの修羅場を越えて、この青年は今、ここに居るのだろう。

 或いはこの男も、()を越える資質を持っているのかも知れない。

 

 カーツと名乗った青年にも同じことを感じては居たのだが、それをも上回ってくるとは。

 

「ご丁寧に有難う御座います。私はマリアと申します」

 

 私は立ち上がり、素直に頭を下げる。

「ああ、お座り頂いて結構ですよ。お話は伺っていますが、もう少し詳しく聞かせて頂けますか?」

 頭を上げ、言われた通りに席に着きながら、私は考える。

 

 どうせその「説明」の流れで、私は正体を明かさざるを得ない。

 保護して欲しい「客人」たちには既に明かしているのだから、下手に隠した所ですぐにバレるだろう。

 だったら、先に話しておくべきか。

 

「はい。その前に、改めて自己紹介させて頂きます」

 

 応えた私の言葉に、テイラー氏は何を言っているのか、という表情で少しだけ眉根を寄せた。

 私の背後では、カーツくん含む局員たちが訝しむ様子が、気配で伝わってくる。

 

 そんな室内の空気に構わず、私は普段は特に理由も無いので抑えている、魔力をほんのりと解放させた。

 

 それだけで、室内の空気が強張る。

 

「私はサイモン・ネイト・ザガンの最後の人形、マリアと申します」

 

 静まり返った室内で、間抜けにも思える再度の名乗り。

 だが、室内に居る私以外の者たちは、そんな悠長な受け取り方はしてくれなかった。

 

 テイラー氏と静かに見つめ合う私の背中には、恐らくカーツくんのものだろう、一際強い視線が刺さっていた。




気の所為でしょうか、マリアのやり方は、無用な波風を立てそうな気がします。
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