獣は不利を悟れば逃げるし、何よりも相手を見る。
だが、魔獣は問答無用の攻撃性を持ち、視界に入ればそれが何であれ――同族ですら――動くものには襲いかかる。
その上、外見もかなり異なってくる。
例えば、フォレストボア――それなりに大型の猪だが、これは魔獣化すれば単純に、更に大型化することが多いと言う。
普通ならせいぜいが私の胸辺りまでの体高の猪が、このように見上げる程にも巨大になると言われれば、なるほど判り易い変化と言えるだろう。
言い忘れたが、今の私の身長は167センチ。
元の身長が約170センチだったので、およそ3センチ程縮んだ訳だが、言うほど違和感がないのが癪だ。
脚は長くなった気がするが、これに関しては気の所為だろう。
負け惜しみではない、間違いなく気の所為だ。
さて、そんな魔獣化したフォレストボアを屠り、溜息を
解体ではなく、分解だ。
何しろ細かなことを考えず、獲物の内臓を傷つけたりしないようにと思えば、素人の私では手足をもぎ取り、背中辺りの肉を剥ぎ取るくらいしか出来ない。
こんな不格好な作業を解体と称してしまっては、色々と申し訳ない気分になってしまう。
申し訳なく思いつつも作業をやめないのは、当然のように破損した左腕の外装を修復するためだ。
とは言え先日の山賊達との戦闘後と違って、何倍も気が楽だ。
動物の姿をしてくれているから、素直に肉にして調理して食べよう、と思えるのだから。
――
必要と思える量の肉を切り出し、他にも食用に適している――魔獣の肉も、普通に食用として流通しているらしい――部位を斬り分け、
この
内部は時間が停止しているので、生モノが腐る心配もない。
逆に言えば、バッグの中で血抜きが終わる事が無ければ、熟成が進む事も無い訳だが。
血抜きに関しては、攻撃魔法の流用でなんとかなるのだけども。
さておき、そんな便利なアイテムを気前よくくれた先代に感謝しつつ補足というか、蛇足を付け加えるなら、この世界の
まあ、ご想像通りの、時間が止まるか止まらないか、というヤツだ。
ちなみに、どちらのタイプであっても、生命体を放り込むのは問題無い。
時間が止まらない
どちらも内側からは、余程特殊な魔法を施されていない限り自力で出ることは出来ないという事も共通している。
自力で出れないのは問題かもしれないが、少なくともどちらも即死はしないのだから、きっと大丈夫だろう。
まあ、時間が流れている
特殊な方法を施されたモノは、具体例で言えば居住空間として利用出来るように改良を施されているとか、そういったモノになる。
魔法世界の魔法技術の
……人気だからといって、誰もが持っているモノでも無いのはお約束だ。
なにせ簡単な構造のものですら、口で言う程簡単には作れない代物なので、必然とてもお高い。
比較的稼ぎの良い上級冒険者、と呼ばれる連中ですら、持っていない事の
そんなお高いアイテムも当たり前のように持っていて、お陰様でとても就寝が快適なのは、私の数ある密かな自慢のひとつだ。
……同じくらいの数だけ、不平不満も抱えているが。
どうせ私の姉妹人形や資金にあかせて作られた他の人形も、似たようなものは持っているだろうし。
更に余談では有るが、この
これは容量を「リットル」で表示するか「立方メートル」で表すかの違いだけで、モノは同じだ。
私個人としては、別に
ただの自律人形に人格を持たせたり、過剰な戦闘力を与えたり、その「マスター」とやらがイカれているのか
そんな事を考えながらも、気がつけば簡単な調理を終え、私は食事という行為に胸を踊らせる。
特に派手な戦闘などが無ければ、消費する魔力を大気から吸収する
そんな理由から通常は食事の必要すら無いのだが、元人間である私としては、形だけでも1日3食、きちんと食事を摂りたいと、心が求めてくる。
心の乱れは
そう信じているので、素直に自分の心に従う。
人形の
不用意に湧いて出た疑念から目を逸らし、能天気に食事を楽しむ
絹を裂くような悲鳴と言う、食事のスパイスとしてはあまり相応しくないものが、微かに鼓膜を刺激したからだ。
……これは……。
食べてからだと、ダメだろうか?
……まあ、いずれにせよ、間に合わないだろう……な。
溜息混じりの視線を皿に載せたボア肉のステーキに落としてから、もう一度深々と溜息を落とし、
一度は見捨てようかと悩んだようです。