迷子のマリア   作:naow

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戦乱の気配の渦巻く北へ。望まぬ道を選ばされるのは、もはや才能の域ですね。


街道行

 北へ向かう旅路は、全く人気(ひとけ)が無い――という訳でもない。

 

 依頼を受けて動く冒険者、家族を迎えにでも行くのであろう旅人、危険であってもそこに用がある商人。

 更には、北から港町を目指して来る人々。

 

 北へ向かうより北から向かってくる人のほうが多いのは、まあ、理解の出来る話では有る。

 

 問題は、人目が有る限り()()ワケにもいかず、かといって街道を外れるにも悪目立ちしてしまう事だろう。

 花摘みにでも行ったのだろうと思って放置してくれれば良いのだが、見た目年若い女が不用心にひとりで人目のないところに向かうのを見て、良からぬことを考えない者が出ないとも限らない。

 

 始末はともかく処理が面倒なのだから、勘弁して欲しいものだ。

 

 そんな訳で、うっかりと街道に出てしまった私は、夕刻になって旅人たちが野営の準備をしてしまう時間、すなわち街道から人影が極端に減る時間までは、普通の人間のフリを続けなければならないのだった。

 

 

 

 街道脇に点在する、野営用の広場。

 その中でも比較的人の少ないポイントで、更に端のほうを抜け、夜陰に紛れて森の中へと踏み込んだ私はようやく「霊廟」へと帰還を果たした。

 興味本位で私の姿を目で追っていた者の気配は感じたが、追ってきた所で私はもう亜空間の中だ。

 

 碌な痕跡もない中、私の姿どころか消えたポイントを特定することも出来まい。

 

「お、遅かったな? もう食事終わっちゃったぞ?」

 

 そうして小さな労力を払ってきた私に、まったく気楽な表情のアリスが呑気に声を掛けてきた。

 手に酒瓶を持っている様子を見るに、これから談話室へと向かうのだろう。

 

「……まあ、待っていて下さいとも言っていませんし、そもそもいつ戻れるのかも言えませんでしたからね。私もエリスやニナのお料理を頂きたかったのですが……仕方ありませんね」

 

 まさか、今から私の為だけに料理を作ってくれ、などと言う訳にもいくまい。

 すごく言いたいけれども。

 心底残念だし、そんな私をニヤニヤ見ているアリスが心底鬱陶しいのだが、気持ちを切り替えていこう。

 

「あ! マリアさん、おかえりなさいです! ごはん、すぐに温めますね!」

 

 落胆を押し殺す私に、食堂から顔を出したエリスの声が出迎える。

 すぐに反応できずにポカンとする私の肩を、アリスが気楽にポンと叩いた。

「あの子達が、お前だけ飯抜きにする訳無いだろ? さっさと行ってきなよ」

 私は気の抜けた顔をアリスに、それからエリスの方に向け、ややあってから、少し慌てて頭を下げた。

 

「申し訳有りません、戻りの時間もお伝えしていませんでしたのに、お気を使わせてしまいました。有り難く頂きますね」

 

 そんな様子を見て、小さくクスリと笑うエリス。

 同じく笑っているアリスと違って、嫌味はまったく感じない。

 

「そんな、気にしないで下さい。本当なら私も歩かなければいけないのに、マリアさんにお任せしてしまっているんですから。すぐに準備しますね!」

 

 笑顔のままエリスは踵を返すと、パタパタと駆けていった。

 思えば初対面の時には怯えて居た彼女たちだが、ずいぶんと打ち解けてくれたものだ。

「律儀な子たちだねえ。マリアなんて、どんな長い旅路でも文句も言わずに黙々と歩くくらいしか、美点が無いってのにねえ」

 感心した様子で、アリスが失礼極まることを口にする。

 私は澄まし顔のまま、目線すらアリスに向けることはしない。

「少し歩くだけですぐに飽きて、脇道にそれて狩りをしたがるような輩と、一緒にして欲しくはないですね」

 顔を見ては居ないが、鼻白んだような気配は伝わってくる。

 エマほどではないが、アリスもたいがい飽きっぽく、おとなしく歩くということがあまりない。

 

 大体なにか喋っているか、狩りをしているかだ。

 

「どこに行くにも、街道が長過ぎるんだよ。途中に茶店が有るわけでも無いし。それに、誰のお陰で人肉に手を出さずに済んでると思ってるんだ。もっと有難がって、礼の一つも言ったらどうなんだ?」

 

 アリスは胸を張っている様子だが、今更肉の種類に文句を言うのはアリスだけ……いや、カーラも言いそうではあるか。

 とてもエリスやニナには聞かせられない人形会話だし、あの2人も一緒に食事をすることを考えるなら、確かにアリスには頭のひとつも下げるべきかも知れない。

 

 同じように狩りを行うエマは獲物の手足をもいでくるだけだし、カーラは狩りに興味がない。

 必然、食肉は街で見かけたときに買うか、アリスが狩った獲物を処理したものを使うことになる。

 それが無ければ……ストックしてある「肉」を食する以外には無いのだ。

 

 ちなみにカーラは、森の中などで果物を見かければ即座に鑑定を行い、可食であれば目の色を変えて収穫する。

 木登りなどしていればより昆虫っぽくて爆しょ……微笑ましくも有るのだが、引き寄せ(アポーツ)とか言う魔法を使ったりと、無駄に魔法を駆使し、見た目だけは優雅さを崩すことはない。

 そして、どういう鑑定を行っているのか、カーラの収穫した果物はだいたい美味しい。

 

 喪服じみた服の見た目に似合わぬ才能の持ち主である。

 

「……まあ、エリスとニナの食事のためには確かに有り難いですね。気は進みませんが、御礼の言葉を考えておきましょう」

「いや、『ありがとう』くらい今言えるだろ」

 

 返ってくる呆れ声に、意味もなく内心で勝ったと思いながら、私は食堂へ、アリスは肩を竦める様子を見せてから談話室へと、それぞれ足を向ける。

 アリスが向かうということは、既にエマもカーラも談話室(そちら)に居るのだろう。

 薄情な仲間を持って、私はとても幸運である。

 

 言うまでもないが、当然、皮肉だ。

 

 

 

 鳥肉の――なんの鳥かは知らないが――煮込みは大変に柔らかく、そして美味であった。

 思えば私もアリスも、焼くか炒めるばかりで、煮込み料理は作ったことが無かった。

 

 一緒に出てきたスープも美味としか言えず、自分の語彙の少なさに辟易するしか無い。

 

 パンは大量に買い込んでいただけのモノの筈なのだが、それすらも格別なものに感じてしまう。

 食事とは、それだけで幸せな事なのだと再認識してしまった。

 

 そんな私は料理人2名に礼を言い、その後どこに居るかと言えば。

 

「あー! マリアちゃん、ここに居たんだぁ! 全然来ないから、心配しちゃったよぉ?」

「何だ? 茶でも淹れようかと思ったのに、いつまで経っても来ないと思えば。こんな所で物憂げに読書など、似合わぬにも程があるな」

「部屋で寝てると思ったのに、なんだってこんなところで? んで、それ何読んでるんだ?」

 

 修練室の入口で、バカどm……仲間たちが騒がしい。

 ゆっくりと考え事もさせてくれないのだろうか。

 

「……リリスさんから頂いた魔導書に付いてきた、魔法概論という書物です。色々と興味深いので、こうして時々読んでいるのですよ」

 

 それぞれに反応するのも面倒になった私はしばし言葉を探したが、結局当たり障りの無いモノしか引っ張り出せなかった。

 なにしろ、バカ3体のすぐそばに、エリスとニナも付いて来ているのだ。

 あまりキツイ冗句を飛ばすのも、あの2名を見てしまえば気が引ける。

 

 私の様子と受け答えに、3体と2人はそれぞれ顔を見合わせ、それぞれがそれぞれの不思議そうな顔を取り揃えて、私の前に並べるのだった。




鈍器を振り回して喜んでいるだけかと思いましたが、ちゃんと魔法にも興味が有ったのですね。
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