迷子のマリア   作:naow

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もう少し、客観的に自分を見てみましょう。


読書したかったマリア

 旅路を行く足を止め、料理に舌鼓を打ち、食後にのんびりと――修練室で――読書を嗜む私を眺める、都合5つの顔。

 私が読書する姿がそれほど珍しいのか、それとも場所が良くないとでも言うのか。

 

 並んだ顔には程度の差こそあれ、何やら珍奇なものを見るような色合いが見て取れる。

 

「ああ、あの時の……結局、あの魔女の編纂した魔導書の類は全て受け取ったのだったか?」

 

 魔法絡みと聞いたカーラが、真っ先に反応した。

 私の顔、と言うよりも話題に出た「魔女」を通し、あの街で出会った友人を思い起こしているのか、眼差しに少しばかりの寂寥が浮いている。

 

「ええ。すべて写しでは有りますが。私が要求したのは時間系と空間系の魔導書だけだったのですが。まあ、貰えるものは有り難く、ね」

 

 無警戒で私の手元の本を眺めながら寄ってくるカーラに、私は魔法鞄(マジックバッグ)から適当な魔導書を取り出して手渡し、他にも数冊、腰掛ける私の隣に積み重ねる。

 それが全てではないが、まあ、魔法好きならとりあえず興味を持つことだろう。

 

 案の定手を伸ばしてきたカーラは、早速一冊開いてパラパラとページを捲る。

 

「……随分と……なんというか、殺伐とした魔法が並んでいるな? 相手の脳に直接任意の映像を流し込むとか、これは拷問か何かか?」

 懐かしさと寂しさに思いを馳せていた様子はどこへやら、げんなりとした顔で疲れたような声を押し出してくるが、ページを捲る手が止まることはない。

 

「私に聞かれましても……。あの魔女っ子が拷問とか人体実験とかをしていたとしても、特に驚きはありませんが」

 

 初手圧迫面接からの威圧脅迫の数々を思い起こす。

 今にして思えば、アレは、単に脅していると言うよりも……私の暴発を誘っていた節も有る。

 

 そんなに街から出ていって欲しかったのなら、言葉にしてくれれば良かったのに。

 

「あー……いやまさか。いやしかし……うぅむ」

 

 私のセリフを否定しようと試みたらしいが、上手く言語化出来なかったらしい。

 ページを捲る手を止めて何やら考え込んだ挙げ句、カーラは丁寧に本を閉じ、私に顔を向けてくる。

 

 私としても、先に言った以上の感想は出てこないのだが。

 

「まあ……うむ、魔法としては興味深いものでは有るな。良ければ何冊か、私にも貸して欲しいのだが……?」

 

 カーラもそのことに思い至ったのか、それ以上何かを言うことは諦めた様子で溜息を()くと、それまで隠していた魔導士としての一面を覗かせてくる。

 普段の様子があまりにもポンコツで忘れがちだが、我が一行で随一の魔導士でもあるのだ。

「ええ、構いません。興味の有るものはすぐに持っていって頂いても構いませんし、それ以外の魔導書に関しては、談話室にでも置いておきましょう。私はさしあたっては、魔法概論(これ)以外には今のところ用が有りませんので」

 それならばと、魔導士リリス・イハラ・ファルマンの編纂した魔導書全てを取り出す私とカーラが話していると、何やら興味を持ったのか、アリスが近寄ってきて魔導書を手に取り、ページを捲っている。

 

「……加熱、加温の魔法? 料理に便利で……人体に使うと頭痛、嘔吐、腹痛を? ……破裂ってなんだよこれ、電子レンジか?」

 

 なにかの魔法の使用効果でも読んだのだろう、アリスの顔色がだんだん悪くなる。

「なるほど、料理に便利そうではありますね。空間魔法を利用して範囲を指定とかするのでしょうね」

 アリスの手元のページにどんな内容が記されているかなど知らないが、適当なことを当てずっぽうで、訳知り顔で言ってみる。

 顔ごと視線を動かしたアリスが、訝しげな表情を作ってみせた。

「え? お前これ使えるの? 料理以外にしか使いそうも無いのに?」

 言いながらなんとも残念そうな顔になっていくが、残念な気分になったのはこっちである。

 

「使えた所で料理以外()()使うというだけですし、そもそもその魔法は知りませんよ。なんですかその、闘争の権化を見るような目は」

「いやだってお前、なんだかんだで一番暴れるじゃん」

 

 ……失礼な女である。

 

 人様のセリフに間髪入れずに言うことが無礼極まりないとか、これだから冒険者は駄目なのだ。

 元、ではあるが。

 

 一番暴れる存在というのは、ほら、そこで木人人形のような的に向かって楽しそうに短刀をぶつけている、ああいうのを言うのだ。

 

「……まあ、一旦置いておきましょう。私はこれから修練ですので、邪魔をするだけなら談話室なり自室なりに帰って貰えますか? エリスとニナは、適当な部屋を使って下さい」

 

 私は溜息を零しつつ手にした魔導概論を閉じ、立ち上がる。

 修練という言葉に、いち早く反応したのはカーラだった。

 

「む、そうか、それは大変だな。邪魔にならないように、魔導書は談話室に運んでおくぞ」

 

 巻き込まれて自作の人形を破壊されては堪らないと、早々に逃げを打つ。

 ……まあ、今回は引き止める理由も無いし、わざわざ荷物を運んでくれると言うのだから任せるとしよう。

 

「えっ! マリアちゃん、遊んでくれるのぉ!?」

 

 若干距離があった上にやかましく遊んでいたエマが、矢のような勢いで飛んできた。

 危ないから、まず刃物はしまいなさい。

 

「エマの気持ちは理解(わか)りますが、残念なことにまだモノにしていないのです。修練(あそび)にもつかえるレベルとは言えませんね」

 

 涼やかな笑顔を心掛けたが、上手く出来ただろうか?

 頬の当たりが引き攣っていないか心配である。

 

 私の心配を他所に、というか完全に置き去りにして、エマは不思議そうな顔で私の瞳を覗き込んできた。

 

「えぇー。それじゃあ、マリアちゃんは何するのぉ?」

 

 だから修練だと言っているだろうに、聞き分けのない姉である。

 アリスが口元を抑え、肩を震わせて私達から視線を外したが、笑っているのは私のいまいち自信のない表情か、エマの有り様か。

 カーラはどちらかと言えば私の発言が気になったようで、魔導書を纏める作業を中断し、聞き耳を立てている。

 

 どいつもこいつも――私を含めて――勝手気儘なものだが、エマの疑問を放置ないし無視する訳にも行くまい。

 

「ですから、修練です。具体的に言えば、魔法なのですが……そうですね」

 

 私はエマから視線を外すと、自身の右腕を持ち上げ、その上腕の辺りを眺めながら答える。

 

「この疑似筋肉を、本物の筋肉……のようにする、と言ったところでしょうか?」

 

 私が口を閉ざすと、今度は誰も口を開かない。

 どうせ呆れているとか、何言ってるんだという顔が並んでいるだけであろう。

 

 私が諦めの気分で視線を戻せば、人間2名はともかく、残りの人形たちが。

 エマもアリスも、そしてカーラまでもが、興味深げな目を私に集中させているのだった。




? 何を言い出しているのでしょうか、マリアは。
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