迷子のマリア   作:naow

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マリアが勿体ぶるときは、大したことがないか碌な事でもない、そのどちらかです。


発言者の資質

 私はこの世界に召喚さ(よば)れ、召喚者の意図からはみ出し、人形に拾われて現在に至っている。

 それから色々有って、もうじき5年……いや、6年になるだろうか?

 日々のあれこれを(しる)してきた日誌も、もう何冊になるか。

 

 ……そろそろ当初の予定通り、どこぞの遺跡に思わせぶりに置いてきてみようか。

 

 ともあれ、そんな旅に生きる私だが、当然のように順風な旅路ではなかった。

 身に迫る危機と言うものも何度か経験したし、私では到底叶わないような化け物じみた存在にも幾度か出会った。

 

 だが、私が本当に警戒せねばならないのは、人間……人類種全体だろう。

 

 今まで、幾度か人間に襲われ、都度撃退してきた。

 それらは脅威とは言えなかった。

 しかしそれは、今までの話でしか無い。

 

 幾度か遭遇し、もはやいちいち書き留めもしない野盗たち。

 

 特筆すべき点もなく、私やエマに両手足をもぎ取られ死んでいった彼ら彼女らの中には、当然のように身を持ち崩した元冒険者の姿も有った。

 私達には及ばなかったとは言え、野盗の中で特に抜きん出ていた元冒険者たちは、当然のように()()を駆使し、私達もまた使っている。

 

 身体強化。

 

 魔法のひとつでは有るのだが、使用者自身の肉体という、生命の根源とも言えるモノに直接介入する特性からか、ある程度の経験を積んだ者は自ずからそれを手にする。

 ただし、魔法を正しく学んでいないため、部分的に――腕力だとか脚力だとか、局所的な使用に留まることが多いらしい。

 

 まあ、魔法の基礎を知らねば、魔力とは世界に満ちるものとは知っていても、体内に存在する()()が生命力の言い換えに等しいのだ、とは知らないだろう。

 まして、肉体の()にある魔力を利用する術を知らなければ、全身強化など……燃料にいっぺんに火をつけるようなものだ。

 

 早々に燃え尽きてしまうのがオチであろう。

 

 当然私も先代に教わるまでは知らなかったのだから、偉そうに語れるクチでは無い。

 だが、知ってしまえば。

 

 世界というのは、使い放題の予備エネルギーとも言えるのだ。

 

 魔法使いにとって当たり前の知識は有る一定の層以外には秘匿に近い扱いとなっていて、貴族や国のお抱えの魔導師団と冒険者などに存在する魔法使い、或いは魔導士との間にはそれなりの溝がある。

 実力も、知識も。

 そして、互いの心理的な部分でも。

 

 だが、悲しいかな、世界は天才というものを産み落とす。

 

 私は純粋なこの世界生まれの天才……化け物にお目に掛かった事はないが、だから存在しない、とは断言できない。

 例えば、幼少時に何らかの要因で外的な魔力を取り込む術を手にし、そしてそれを元に、己を鍛え続けてきたとしたら。

 

 そしてその存在が――私ですら想像の及ばない程の――過酷な戦闘の只中に居続けたとしたら。

 

 どれほどの速さで強くなり、生物の限界を超えることになるのか。

 そんな化け物とは出会わないに限るのだが、災厄というものは、向こうから飛び込んでくるものだ。

 

 そう、まるで爆殺人形(エマ)のように。

 

「少しばかり、強くなっておかなければ……この先、厄介事に巻き込まれたときに困ったことになりかねませんので」

 思わず注視してしまった先では、理解(わか)っているのかいないのか、楽しそうな笑顔のエマがしきりに頷いている。

 

 私の言う厄介事には、お前(エマ)も含まれているのだが。

 

「うん、まあ、強くなる分には困ることは無いんだろうけどさ……。なんというか、唐突じゃないか? 普段、エマちゃんに付き合って身体を動かしてるけど、それじゃ足りないって事なのか?」

 

 キラキラの笑顔のエマと、恐らくなんとも言えない表情の私。

 そんな2体を眺めていたアリスが、戸惑ったような表情(かお)で、似たような色合いの声を押し出す。

 

 まあ確かに、私は普段から強さを求めるような事を口にした事があまり無いような気がする。

 だが、口にしないだけで、強さに無頓着では居られない――と言うか、先に述べた理由から、今のままでは些か心許なく思っていたのだ。

 

「それであの魔王……はともかく、小憎らしい双子クラスの化け物に対抗出来るなら良いのですが。私どころか、エマですら、今のままでは太刀打ち出来ないでしょう?」

 

 思いがけない私の暗い声に、アリスは腕組みし、少しばかりの沈黙で答える。

 エマですら、不満げな様子を見せること無く、素直に頷いている。

 

 だが、そんな沈黙はとても短かった。

 

「……お前、あの双子と幽霊姫さんに、ちょっかい出す気なのか?」

 

 ちらりと視線を向ければ、アリスは心底嫌そうな顔で私を見ている。

 思ったよりもきちんと受け取ってくれた様子だが、理解が少しばかり先走っては居ないだろうか?

「冗談ではないです。ちょっとやそっとの力を手にした所で、アレらに太刀打ちできる訳が無いでしょう。それに、なんだかんだ言って、アレらは話が通じます。ですがこの先……」

 私は手元の「魔法概論」の表紙に目を落とす。

 

「似たレベルの化け物に出会わない、とは限りません。忌々しくも小憎らしいアレら程とは言えないでしょうが、この旅路の先に『剣舞』サラが居る可能性も有りますし、その強さも、性格的な傾向も現状では未知数です。爆発的な強さを手にすることは無理としても……地道に出来る範囲で、強くなろうと足掻くべきだと思ったのですよ」

 

 なんとなく本の表紙を撫でたりしながら長々と語り、ふと視線を上げると……何故か呆れ顔のアリスがジト目で私を見ていた。

 ……私の話は、そんな反応を招くような内容だっただろうか?

 

「もっともらしい事を並べてるけど、アレだろ? あの双子に良いようにやり込められて悔しかったから、いつか仕返し出来るくらいには強くなりたいってことだろ? 長々とまあ、言い訳ご苦労だなあ」

 

 挙げ句その口から飛び出したのは、理解力がどうなっているのか疑問に感じる内容である。

 さてはこの女、質問しておきながら、話を聞いていなかったのではないだろうか?

 

 なんとも言えない呆れと諦めに似た感情を抱いた私がふと気づけば、カーラまでもがアリスに同意するように頷き、エマはさっきまでより更に楽しそうに顔を輝かせている。

 

「でもまあ、強くなれるんなら、それに越したこともないか。勿論、その強くなる方法、お前さんが独り占めする心算(つもり)は無いんだろ? 無いんだよな?」

 

 すぐには反論どころか、単なる返答すら出てこない私に、アリスが言葉を重ねてくる。

 

 さて……この場合は、どんな言葉で突っぱねてやるべきか。

 

 私は思わせぶりに口を閉ざすと、少しばかり真剣に考えを巡らせるのだった。




言葉の内容もさる事ながら……口ぶりからも色々と漏れていたと思いますよ?
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