些か気分を害した私だったが、これから先、少なくとも直近でヤバめな地域へ足を向けなければならい事を思えば、部屋に帰ってフテ寝するわけにも行かない。
アリスはおろか、エマも、そしてどういう風の吹き回しか、カーラまでもが私の話に興味津々の様子である。
……カーラだったら、私がしたいことくらい予測できると思ったのだが。
「……なんだか酷く気が進みませんが、良いでしょう」
私は思わせぶりに重々しく嘆息を漏らすと、静かに目を閉じた。
我ながら、何が「良い」のか
前フリと言うか、なんというか。
色々と前段が長くなったが、要は私がしたいことは身体強化である。
今までも使っていただろう、そう言われればその通りである。
私が説明を始めた所で、アリスが同じことを思ったらしい。
「身体強化って……今だって使ってるだろうに、今更どうすんだ? 重ね掛けとかか? それだって、魔力消費が増えるだけで効果はあんまりないぞ?」
疑問は
「ええ。私も
アリスの考えていることなど当然知っている、と言うことも込めて、私は言葉を繋ぐ。
結びにちらりと視線を動かせば、エマは当時を思い出したのか、珍しく難しい表情で頷いた。
私を格下と侮って調子に乗った挙げ句、考えなしに魔法を連発して魔力切れ寸前になり、身体強化の維持が出来なくなった挙げ句に敗北したのだ。
当人にとって笑える話では無いだろうが、傍らのアリスもカーラも、なんのことやら、という顔でエマと私を見比べている。
ある程度は事情を察しては居るようだが、私もエマも詳細までを話したことはなかったのだから仕方が有るまい。
あの双子の尋問の際にも、エマとの事は「戦って私が勝った」程度しか言っていないのだ。
今後も、表立って詳細に語ることは、少なくとも私の口からは無いだろう。
「ところでその身体強化ですが……カーラは少し事情が違うでしょうが、アリス、そしてエマ。
過去を隠す意味も含めて話を続ける私に、今度は視線が揃う。
「む、私は外骨格式だから、確かにな。お前たちとは根本が違うかもしれん」
「えー、っと? どこにって……普通に、全身強化だけど……カーラが違うっていうのも良く
「私も、全身強化だよぉ? 時々、目だけとか耳だけとか使うけどぉ?」
カーラは私の言いたいことが見えてきたのか、なるほどと頷きながら顎先にその白手袋で覆われた手を添える。
アリスは、むしろ当惑顔をエマに向けたりしながら、しかし当然だろう、という風に口を開く。
エマは……お前、普段そんな事してたのか。
読めていた反応の中に若干の衝撃の真実を見出し困惑する私だが、当然そんな事はおくびにも出さない。
「だから、その
表情を消して目まで閉じた私だが、このままでは反応を見ることも出来ない。
ややあって目を開ければ、当惑顔は3名に増えていた。
……カーラ?
「どこにって……だから全身にだろう。お前……こういっては何だが、その……大丈夫か?」
酷く心配そうな眼差しで、カーラは気遣いの言葉を探す。
そしてその挙げ句、出てきたのはあんまりな一言だった。
むしろたった今、大丈夫では無くなったのだが。
溜息を我慢出来なかったのは、これは私が悪い訳ではないだろう。
そんな私を前に、3体はまたしても顔を見合わせている。
「……ええと。話が進まないので、続けますよ? 私達は確かに全身に身体強化を施しています。そもそもそれが前提の内部骨格と人工筋繊維ですから。しかし当然、これには限界があります」
人形にあるまじき頭痛を感じながら、私はもう、話を先に進めることに決めた。
私の時間だって限りは有るのだ。
「ああ、そりゃそうだな。
アリスが私の発言に、若干の補足を追加してくれた。
「私も意外だったけど、人形だって成長する訳だしな」
アリスの言葉に、私は静かに首肯する。
勿論、人間の成長とは違うのだが、私達とて成長はするのだ。
肉体、と言うよりも骨格や筋繊維は強化魔法のみならず、普通の生活でも続けていればいずれ摩耗する。
それらの摩耗を金属やタンパク質を摂る事で補い、メディカル……メンテナンスポッドで最適化することが、私達にとっての成長でありレベルアップなのだ。
「そうですね。そしてそれらは……成長するのも勿論、強化魔法を施すのも、私達は本体に対して、ですね?」
私のように障壁を張りながら戦うものならともかく、エマもアリスもこの辺りで気付いて欲しい。
身体強化を施しても傷は負う。
……いや待て、普通の人間たちも、別に強化魔法を使っている間は強くなりこそすれ、無敵では無い、か。
そうなると、目に見える現象としては、人間も人形も変わらない訳だ。
ここまで考えて、なんでアリスやエマの認識が人間のそれと変わらないのか、なんとなく見えた気がした。
仲間の察しの悪さに温い溜息を零していた私だが、これはどちらかと言うと、私のほうが結論を急ぎすぎていたのか。
「ああ。だからこそ、身体強化なんだろ? 剣や盾に強化を施すのはまた別のエンチャントだ。私は出来るけど、両方できる冒険者は言うほど多くないぞ?」
アリスの言葉が、私の感じた疑惑に対する回答だ。
本体本体と繰り返していた私が、それをまだ本体の一部だと考えていたのだと気付かされたのだ。
あいも変わらず、私は視野が狭いらしい。
「……有難う御座います。少しばかり私の中で認識に齟齬が有りましたので、訂正することになりそうです」
少しだけ頭の中が晴れた私の、その下げられた頭を、アリスはいよいよ
「いやいや待てよ、何がだよ? 意味が
そんなアリスの態度も受け答えも、さもありなんと思いながら、私はしれっと頭を上げる。
「アリスの言葉を借りるのならば、私が考えているのはエンチャントでしょうね」
カーラが、得心がいった、という表情でぽんと手を打つ。
それ以外の2名は、まだなんだか理解出来ては居ない様子だ。
引っ張る意味も無いし、特に面白いことでも無い。
「私は、この……疑似筋繊維、疑似脂肪、疑似皮質を強化してみようかと考えているのです」
私の言葉を聞いて納得顔で頷いているのはカーラだけで、話を聞いていただけの人間2人はまだしも、アリスもエマも、今ひとつ理解が追いついて居ない様子である。
エリスとニナがなにやらぼーっとしているが、そんな2人がそこに居ることをうっかり失念していた私は、誤魔化しの笑顔をなんとなくその2名に向けるのだった。
なるほど、疑似筋肉を強化したかったと。それを本体の一部と捉えていたと。いえ、笑ってはいませんよ?