案ずるより産むが易し。
そこはかとないズレを感じるが、まあ、そういう事である。
良く
これ以上の説明と言っても、私だって良く理解出来ていないのだ。
興味が有るなら私の真似をするなり、「魔法概論」でも読めば良いのである。
そんな訳で、私は身体強化改め、疑似筋肉類へのエンチャントを試みるのだった。
結果、なかなかに惨憺たる目に遭った。
まずは恐る恐る魔力を浸透させてみたが、なかなか上手く行かない。
ここで一気に魔力を流して腕の(疑似)筋肉が破裂する、とかやらかしたらまるで漫画の出来事だが、実際に我が身に降りかかることを考えれば笑って済ませることも出来ない。
そこで探査を応用し、自分の身体の魔力状態を調べる、という手間を掛けてみた。
そうしてみれば、さすがはマスター・ザガンと言うべきか。
筋繊維を覆うように、隙間なくみっちりと……魔法文様で覆われているではないか。
一度は失った右腕の筋繊維にもきっちりと存在する辺り、自動的に修復される代物であるようだが、これが何の役に立っているのか見当も付かない。
いつぞやにはエマに腕どころか全身傷だらけにされたし、挙げ句右腕は丸ごと焼き飛ばされた。
残っていたのは
それ以前には、自分で放った炎熱の魔法で自分の手の肉が焼けて失われる体たらくだったのだ。
なにかの防御に使われている訳では無いのだろうか。
役にたたないただの文様かと思えば、どうやらこれがエンチャントを効果的に阻害しているようで、魔力が筋繊維に浸透するのを的確に防いでいる。
……すこぶる邪魔である。
だとしても、
まあ、邪魔するモノが有ることが判ったのだし、様子を見ながら魔法を纏わせていけば或いは、そう思い、実行した私の右腕は。
少し強引に魔力を流しただけで見事に筋繊維が爆散し、
眺めていたうちの人間2名……エリスは気を失い、ニナは激しくパニックを起こし、私はアリスに怒鳴られながらメディカ……メンテナンスルームでポッドに浸かる羽目に陥ったのだった。
「ん~……何が悪かったんでしょうねえ……」
「なんかどっかで聞いたことの有るセリフだな?」
すっかり治癒した右腕を眺めながら、私はぼんやりと思案する。
それに答えるアリスは、「魔法概論」を眺めながら実に適当な物言いだ。
「何が、というか……マリア、お前、そもそも以前から気になっていたんだがな?」
そんな私達を眺めながら、カーラがどこか歯切れの悪い物言いで口を挟んできた。
エリスとニナは、カーラとエマがケアして、部屋まで運んで休ませてきてくれたそうだ。
意外な取り合わせである。
「何がですか?」
程よくぼんやりしていた私は、咄嗟に面白い返しなど思いつかない。
普通な反応で当たり前に目を向けると、何やら困った様子のカーラが微妙に視線を外してしまった。
訝しむ私と、何やら言い難そうなカーラの様子が気になったのか、アリスが読書の手を止める。
「いや、な? ……なんでお前は、それほど高度な魔力紋を全身に刻みながら、それを非活性にしているんだ? なにかの修行か?」
カーラに目を向けながら、私はすぐには返す言葉が出てこない。
魔力紋、というのは、多分アレだろう、全身ほぼ表面にくまなく巡らされていた魔法文様の事だろう。
非活性というのも初耳だが、そもそも気付いたのもついさっきである。
「先ほど気づいたのです、初めて」
なので、そのままストレートに答えてみれば、今度はカーラは目を丸くした。
「はあ? それほど精緻な魔力紋が施されているのに、今まで気付かなかったとか、そういう馬鹿な事を言い出す
急に早口になったかと思えば大げさに両手で顔を覆い、ご丁寧に溜息まで付けてくれている。
すごく遠回しに喧嘩を売っているのだろうか?
「そもそも魔力紋の意味も
「おお……なんと言う……」
自信満々に言い切る私に、カーラはより深い溜息を
ちなみに。
自信満々な私だが、先代に教わらなかったと言う事実に自信はない。
なにせ魔法なんて無い世界から来て、そんな魔法について聞かされた所で、理解がそうそう追いつく筈もないのだ。
何か説明されていたけど聞いていなかったか他の何かとごっちゃになって、そのうち忘れたとか、多分そんなところだろう。
言ってしまえば私の自業自得な訳だが、反省もしなければ謝罪もしない。
「……どうでも良いけど、いつまで裸で居る気だよ? さっさと着替えて、長話なら場所変えようぜ」
斯くして、カーラによる魔力紋の説明が始まる気配が漂うのだが、アリスの一言で私はとりあえず着替え、カーラの講義は場所を移して行うことになるのだった。
カーラ先生の講義によれば、魔力紋とは特定の役割を刻んだ呪文のようなものを、純粋な魔力で編み上げたものだという。
それは見れば
不思議そうに自分の手の平を見つめているエマには、どこまで理解出来ているのか不安ではあるが、その点において私は人のことをどうこう言えない。
「……で、私の魔力紋はどのようなものが?」
私が質問を発すれば、カーラは残念な子を見るような目を向けてくる。
「……少しは自分で解析しようとか、そういう気は無いのかお前は」
言っている言葉は少し違うが、そのニュアンスと溜息を吐き散らす様子は、どこか先代の授業を思い出して懐かしい。
「私が解析して、きちんと理解出来るとでも?」
私の自信に満ちた回答に、何故か泣きそうなカーラがゆるゆると頭を振る。
なんだこれ?
私の様子にただ嘆くばかりのカーラにも、私の隣で講義を受けながら呆れたような半笑いを私に向けるアリスにも、ただなんとなく苛つくばかりである。
結局カーラに聞き出したところによれば、私の身体に刻まれている魔力紋は能力向上系と魔法防御系、それと防御強化系のモノだとか。
だからカーラはてっきり、私が自分を強化する、イコール魔力紋の活性化なのだと思ったのだという。
そんな様子を見られるのかとちょっとワクワクしていたら、防御紋越しに強引にエンチャントしようとして、注意する間もなく自分の腕を爆散させたものだから慌てるより先に呆れてしまったのだとか。
「そもそも、魔力紋に気付いた時点で言って欲しかったのですが?」
「あの荒屋でか? そもそも敵対していたし、私が目覚めたらお前たちは既に臨戦態勢だったではないか。そんな状況で敵に何を教えるんだ」
私がジト目を向ければ、カーラも負けじと半眼で返してくる。
初対面時から気付いていたなら、私に伝える機会はその後幾らでも有っただろうに。
溜息を我慢する私の前で盛大に溜息を漏らしながら、カーラは言葉を続ける。
「マリアが何をしたいのかはなんとなく
そして、カーラはその視線を、私を眺めてニヤニヤしているアリスへと向ける。
「アリス、お前もだ。笑っているが、お前もマリアと同じだ。魔力紋が全て非活性だぞ」
カーラの一言に、アリスの笑みが引き攣る。
「わ、私にも有るのか? その、魔力紋とか言うヤツが?」
今度はアリスのセリフがカーラの溜息を呼び、私の顔に笑みを咲かせる。
しかし、私は悪くない筈だ。
私の意地の悪い笑顔に気付いたアリスは何か言いたそうだったが、先の自分の態度に思い至ったのか、悔しそうに顔を歪ませるしかない。
良い気味である。
ひとの話を聞いていなかった挙げ句、教わっていないと堂々言い張るとは。良い根性です。