私のエンチャント実験失敗から、急遽始まったカーラ先生の魔法講座。
講師は当然カーラ、助手にエマ。
受講生は私とアリスである。
エマの配役に不安と不満を感じる。
ともあれ、私は念願の自己強化を手にする道が
実に目出度い。
……私の中に渦巻く、こう、もやもやとした納得のいかない思いを気にしなければ、だが。
色々さらりと流そうと思ったが、流石に簡単すぎるのもまずいだろうか。
とはいえ、話そうと思っても……あの鬱陶しさの何処から話したものやら。
「マリア! お前の魔力操作は荒いのだ! アリス、お前は集中力が足りん!」
張り切ったカーラの講義、というかもう、ただの魔法修練は熱を帯びるのだが、受ける方としてはなんとも同調しづらい。
荒いと言われた所で、具体的にどうして良いのか理解るはずもない。
アリスもまた何やら怒鳴られているが、アレの集中力がイマイチ纏まらないのは、多分カーラの変わりようの所為だと思う。
どこで何のスイッチが入ったものやら。
「自分の
何やら熱いセリフに酔っている
色々とツッコミというか言い返してやりたいが、何よりもまず。
「私と最も付き合いの長い
「私だって、似たようなもんだよ……」
顔を見合わせた私とアリスは、互いになんとも言えない顔で溜息を
「一丁前な文句は、せめて魔力紋の活性化が出来てからにしろ!」
あまりの暑苦しさに反感を覚えるどころではない私とアリスは、もはや口を閉ざして黙々と、魔力循環と魔力紋の把握とやらに神経を集中させる。
……少なくとも集中を切らさず真面目にやってさえいれば、カーラもそれほどうるさい事はないのだから。
出来の悪い生徒の指導に躍起になるカーラ先生だが、昼の時間はきっちりと取ってくれた。
まあ、どうせエリスとニナの料理……特にサラダがお目当てなのだろう。
私としても美味しい料理に文句は無い。
文句があるのは料理でもカーラにでも無く、ただただ己のセンスの無さに対してである。
カーラの指導の元、私は魔力紋とやらの活性化に成功、或いは失敗した。
……どういう事かというと、その、私自身理由も何も理解は不能なのだが。
右半身だけが活性化したのだ。
「マリア、おま……ふざけて……ぷっ……わはははははっ! 何をどうしたらそんな器用な事になる! 遊んでる場合でわはははははは!」
「あははははっ! マリアちゃんっ! やめて、お腹が痛い! そういうのは反則だよぉ!」
爆笑するカーラとエマ曰く、魔力紋を、というか魔力の流れを見る「眼」が有れば、活性化した魔力紋だけが光って見えるのだという。
キレイに、右半身だけが。
自分の
笑ってしまう有り様なのだが、困った事に原因は私の実力不足であろうし、改善策は努力の果ての完全習得という、先が見えているのか居ないのかイマイチ掴めない体たらくである。
それでも片腕だけ何とか魔力紋を活性化出来たアリスよりは、一歩先……と言いたいところだが。
よくよく考えれば規模が違うだけでレベル的には似たりよったりな訳で、笑って居ては自分の後頭部に何かが刺さるだろう。
この調子では、まだしばらくは熱血カーラ先生の授業は続きそうな気配が濃厚だ。
なんだか心配顔のエリスとニナの好意に甘えて、私は料理に没頭することで先の事から無事に目を逸らすのであった。
もう書き記すのも億劫なカーラの熱血指導は、思った以上に短い時間だった。
結局、一部とは言え活性化に成功していた私たちは、ある程度のコツは掴めていたらしい。
「ああ、もう。私はホントに、魔法系の職じゃなくて良かったよ。活性化とやらが出来ただけでも、私にとっては奇跡だろうね」
何やら右手を握ったり閉じたりしながら、アリスは心の底からうんざりした吐息を押し出す。
色々と文句や愚痴は有るものの、魔力紋の活性化による恩恵を感じてしまえばそれらを飲み込むしか無い、と言ったところか。
その辺りの心情は、私も同じなので良く分かる。
「
私はと言えば、アリスのように不貞腐れる暇もなく、カーラへの不満も忘れて、
何しろ魔力紋の効果で身体能力の向上と魔力運用効率の向上、何よりもあれこれと苦労したお陰か、魔力操作も随分とスムーズになった。
この時点で既に私は望んでいた戦闘能力の底上げが出来ているのだが、更に先が有るのだと、確信することも出来たのだ。
「最初の思惑も、叶えることが出来そうですし、ね」
そう、私のそもそもの構想は、疑似筋肉を実際の筋肉として稼働させる事だった。
それが話の流れからそれは身体強化ではなくエンチャントではないか、ということになり、それならばと挑戦してみれば非活性の魔力紋に邪魔されて右腕の疑似筋繊維類が吹き飛ぶというなかなかにショッキングな目に遭い、そこから魔力紋開放の為にカーラが熱血化するという意味不明な危機を乗り越え、その先で私は最初の構想にようやく立ち返ることが出来たのである。
私の中で高まっていく魔力に気が付いたのか、それとも単に私の台詞が引っ掛かったのか、カーラが顔を上げて私を見る。
「……マリア、お前。そんなに高純度な魔力を練り上げることが出来たのだな?」
「……此処でそんな反応をされると、今までの私の魔力操作はそんなにお粗末だったのかと落ち込んでしまいそうなのですが」
どこまでも、人のやる気を削ぐ高身長女である。
そのカーラの前では、私に何やら興味を惹かれたらしいエマと、やる気は無いながらも何か気になる様子のアリスが揃って私に顔を向けている。
「それで? この上で、お前はエンチャントを試みるのか?」
カーラの
魔力紋の活性化により魔力伝達を阻害するものが無くなった私は、魔力の流れを見る、という能力をも手にすることが出来た。
そんな私の眼に映るカーラは、美しい魔力紋の輝きに包まれている。
カーラだけではなく、エマも、アリスも。
……なるほど、これが右半身だけ活性化しているとか、確かに笑える事態だと思う。
私は一瞬浮いた雑念を咳払いで振り払うと、改めてカーラと視線を合わせる。
「いえ、私が探していた答えは、エンチャントでも、身体強化ですら無かったのですよ」
思い掛けず微笑みが浮いたのを自覚したが、気持ち的には自嘲のそれである。
カーラは笑うこともしなければ言葉を挟むこともせず、私が口を開くのを待っている。
「これが。
静かに、私の
今まで疑似筋肉、疑似脂肪、疑似皮膚繊維と呼んでいたそれらに。
静かに、深く――魔力が浸透し、満たされていく。
カーラはただ静かに、エマは満面の笑顔で、アリスは驚愕に目を見開いて。
それぞれの表情で、私を見る。
「私は、本当の筋肉を、そして皮膚を――手に入れました」
本体を隠す為の物であり、ヒトの目を欺く為の物であり、付属品でしか無かった
相も変わらず痛覚は無いが、変わりにはっきりと触覚を伴って。
私の「
なんですか、それは。……私も知らない「力」なのですが?