幼女が2人……片方は成人したばかり、もう片方はあと1年で成人、そんな年齢の少女たち。
この世界では大体において15歳で成人として扱われる為、私の目から見れば、どちらもまだまだ少女と言える年齢である。
おおよそ3週間過ごした中で、エリスとニナは、幾つの想い出を重ね、その目に焼き付けて来たのだろう。
別れを惜しみ抱き合って涙を落とす、その影を分かつような無粋な真似は、私には出来ない。
「またきっと来るから……! 絶対、会いに来るから……!」
「うん、うん! 待ってるから!」
きっとこの日を、2人は忘れないだろう。
またいつか。
私は、この2人のこの約束が果たされるようにと、ただ、祈る。
「私らはもう、あんな約束は果たせないんだよな。もう帰れない、
そんな幼女たちをぼんやりと眺め、アリスが小さく、本当に小さく呟いた。
黙って見守れば良いものを、そう思い視線を向ければ、らしくもなくしんみりとした様子で、どこか羨ましそうな表情を浮かべている。
「意外ですね。ガサツ……豪放で鳴らす冒険者とも思えない発言とは。そんな友人を持っていた事が有ったのですか?」
「お前な……」
私がうっかりと思ったことをそのまま口にすれば、アリスの半分閉じた目がコチラに向いた。
「お前だって、友達のひとりや2人は居ただろう? 何だってそんなに捻くれてんだよ。寂しいとか帰りたいとか、思うことはないのかお前は」
流石に感動の場面に水を差すのは気が引けたらしい。
声を荒げるような真似は控えたアリスだが、非難の声を向ける事までは、忍耐が続かなかったらしい。
対して私は、視線を正面に戻して冷静に、そして静かに口を開く。
「私に、あんな麗しい友情を分かち合うようなお友だちが居たように見えますか? 悪友でなく?」
「……私が悪かったよ」
きっぱりと言い切る私に、アリスの呆れ声が溜息で押し出される。
友人が居たであろうアリスには申し訳ないが、すこぶる残念な事に、私たちが様々な問題をクリアして元の世界に帰れたとしたら、それはそれで問題が発生するのだ。
私に関しては、まず性別が変わっている訳だし、その上見た目も日本人とはとても言えない。
その上自分の名前も思い出せず、しかし勤めていた会社名やら上司、同僚の名前はなんとか覚えているというアンバランスな記憶である。
戸籍はどうなるのか、そもそも人間として扱われるのか。
甚だ疑問である。
アリスにしても、まずもって見た目が日本人とは違いすぎる。
その時点で、家族やら友人やらに信じてもらうのは難しいだろう。
その上、DNA鑑定などしようものなら、恐らくそれだけで人間どころか生物として異常であると、一発でバレる。
まあ、思いつく一番簡単な方法で帰ったとすれば私もアリスもただの魂での帰郷になるし、この
見知らぬ命を無闇矢鱈と奪った上で、平気な顔をして帰ることが出来るのか、アリスどころか私ですら疑問である。
つまるところ、私たちは寂しいとか帰りたいとか言う以前に、色々な理由や問題から、
そんな私たちに比べれば、エリスとニナの交わした約束は叶いやすい代物だろう。
私にした所で、それを邪魔する
なんならリリスの魔導書に記載されていた「ポータライズ」の魔法を使って、この村の近くにポータルを設置しても良いのだが……如何せんイリスの下らない悪戯が脳内を掠めてしまい、この魔法に対する印象がすこぶる悪い。
次に帰ってきたくらいには、私の中で気持ちの整理も付くであろうし、その際には設置するのも良いかも知れない。
「それじゃ、もう行くね? ありがとう、エリス」
涙を拭い、笑顔で別れを告げるその声に、私のどうでも良い雑念は中断される。
涙を微笑みで押し隠して握手を交わすその姿には、アリスの言葉ではないが……こんな捻くれた私でさえも、胸を締め付けられるような気がしなくもない。
背も向けず歩く私たちと、何度も振り返るニナ。
いつまでも、手を振って私たち……いや、ニナを見送るエリス。
この2人の友情は、きっといつまでも、どこまでも続くのだろう。
私自身に覚えがないからと言って、純真な少女の想いを踏みにじるような野暮はしないし、その程度の祈りくらいは私だって捧げるのだ。
私たちは、その進路を北に向けていた。
面倒事しか無い、出来れば避けたい、そう思っていた私だったが……3週間程度の滞在ではっきりと悟ったのだ。
北の、アイセスブルトとか言う傍迷惑な国から送られてくる尖兵が、非常に鬱陶しい、と。
3週間で5回も
「ちょっと、
アリスが、適当に拾った木の枝を振り回しながら、つまらなそうに唇を尖らせる。
なんでそんな枝に興味を惹かれたのか不明だが、聞いた所で理解できる自信が無い。
「軍事拠点でも2つか3つ潰せば、暫くは工作どころでは無くなるのでは? 上手くすればこれ幸いと、隣国がアイセスブルトに軍事行動を開始してくれるかも知れませんし。そうでなくとも、
取り敢えずアリスの奇行は無視して、私は思ったことを口にしてみる。
ちなみに、森の中を移動するということでニナには「霊廟」に戻ってもらい、私たちは周辺に探査を走らせつつ、たまに引っかかる敵性反応を潰して回っている。
大体はただの獣だったり魔獣だったりで、たまに斥候らしき少数が混ざっている程度であるが。
「そんな簡単なモンかね? ちょいと数が多かったのが、私は気になるんだよな。如何せん戦争のイロハってヤツを知らないから、具体的に何が気になってるのか自分でも判んないけど」
アリスが思い出したように枝を振るい、蜘蛛の巣を払って先へと進む。
なるほど用途は
迷惑な女である。
「私も、流石に気になるな。あれほどの人員を送ってくるのだ。なんの目的も無く、と言う訳でも有るまいよ。だが、流石にこちらの国と事を構えられるほどの員数では無い。嫌がらせなどに興じていられる余裕があるとも思えんし、なんとも気味が悪いな」
恐らく、私と同じく蜘蛛の巣がかかったのであろう。
顔を拭いながら、カーラがその考えを述べる。
「なんでも良いよぉ? エリスちゃんの住んでる所に迷惑掛けるんだったら、私の敵だよぉ?」
朗らかに、のんびりと、爆殺人形はすでに戦闘態勢だ。
初めての人間の友のために、エマは
エマひとりで、例の軍事国家とやらを半壊程度は出来るのではないだろうか?
彼の国にどんな化け物が居るとも限らないので、楽観出来るものでもないが、ふと、そんな事を考えてしまう。
とは言え、そんな風に気楽に構えているのは危険であろう。
最低限、ザガン人形の1体が、この先に居る可能性は有るのだ。
敵か味方……味方の線は無さそうだが、いずれにせよどう転ぶか判らない存在。
そもそもその見た目も私には不明なのだが、それ以上に何を考えているかも読めない。
山に籠もってじっとしているのか、件の国にてなにか暗躍しているのか、それとももう、何処か別の土地へ移動しているのか。
願望を含めた想像を巡らせるが、今はまだ見ぬ姉妹人形より先に、迷惑極まる賊に偽装した兵士たちである。
根本的な解決は無理でも、なにか上手いこと黙らせる手は無いものか。
地上に張り出した木の根を越えながら、私は森の先を見通そうと、無駄に目を細める。
この先、アイセスブルトと隣接するという国で、なにかの手掛かりか、何なら解決策そのものが転がったりしていないものか。
下手な考え休むに似たり、ですね。