迷子のマリア   作:naow

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……カタログ上では、サラはもう少し普通の格好だったと思うのですが。


人形問答、服装と品格

 エマの乱入によってか、それとも人形4体を相手にしては流石に不利だと悟ったのか。

 戦闘継続の意思を放棄したサラは早々に武装解除し、少々不機嫌ながらも素直に話し合いに応じるようだ。

 

 そして同時に、その露出狂じみた服装が、油断を誘うとかそういう事ではなく、単純に性癖……もとい、嗜好に沿ったものだと発覚したに等しい。

 仮に本人が否定した所で先程のあの物言いでは、到底信じられるものでは無いのだから。

 

 人形にも、いろんな性へ……趣味のモノが居るのだなあ。

 

 

 

 取り敢えず、4体で囲んでの尋問開始と言った所か。

 本来なら落ち着く空間で、お茶でもキメながら優雅に尋問でもしたいところだ。

 しかし一般の、しかも人間であるニナが居る「霊廟」に、こんな得体の知れない人形を連れ込むのは色々と怖い。

 

 今、私自身の事を棚に上げたとか思った者は反省して欲しい。

 

「さて、色々と訊きたい事は有るのですが……」

 

 とは言え、サラに対しては尋問する事柄が渋滞を起こしている。

 こんな山中で夜を徹するのは気が引けるのだが……しかし、どう考えてもこの人形は、(格好的な意味で)ニナに対して物凄く悪影響を与えそうな気がする。

 ……いかん、考えが短期ループに陥っている。

 

 なんでも良いから早めに、かつ適当に事情を含めてこちらの知りたいことを聞いたら、穏便に別れたい所だ。

 

「マリア。色々話すのは良いのだが、一旦戻らないか? どうにも屋外で立ったまま話すというのは、落ち着かん」

 

 そんな事を考える私が、まずは何を聞こうかと口を閉ざせば、此処ぞとカーラが余計な事を口走ってくる。

 だから、悩んだ結果の今だというのに、空気も読まなければ間も悪い奴め……!

 

 当然のように素早く睨みを効かせる私だが、当のカーラが黙ったところで、湧き出た水は流れを作る。

 

「そうだねぇ。ニナちゃんもひとりで寂しいだろうし、戻ったほうが良いんじゃないかなぁ?」

 

 早速エマが、余計な情報まで添えて流れを加速させてくる。

 素早く視線を走らせるが、エマには睨みなど効く筈もない。

 

 そしてここまで流れが出来れば、もう行き着く先までが定まってしまう。

 

「なんでひとりで百面相してんだ、お前。……まあ、考え過ぎないつものお前で、基本的には私も似た考えでは有ると思うんだけどな。その上でカーラとエマちゃんに賛成だよ。なんだか妙に疲れたし、酒でも飲んでのんびりしたいよ、私は」

 

 アリスが当たり前の様に間抜けヅラで呑気な事を宣う。

 私を差し置いてサラと楽しく踊った挙げ句、言い出すことがそれとは、もはや危機管理能力について色々と問いただしたいものだ。

 

 これでは、今更私がはぐらかしたところでほぼ意味は無いだろう。

 知らなければただの戯言の羅列だが、如何にサラとて彼女たちの発言からは一定の流れを感じられるだろう。

 何よりも、サラは見ているのだ。

 

 エマを、カーラを呼び出した、白いドアを。

 

 戻るとか言う発言と結びつけて考えれば、つまりはあの扉の先に、とは容易に結びつくはずだ。

 私はサラが口を開く前に露骨に溜息を吐き散らすと、事更に腰に手を当て、胸を逸らすようにして一同を睥睨する。

 

「馬鹿ですか、揃いも揃って。サラはこんな見た目で油断すればただの痴女にしか見えないとは言え、ザガン人形の1体なのですよ? 佇まいはありきたりな痴女とは言え、人間を見たら殺せと言われてる危険な人形を、うっかりと招き入れる訳には行かないでしょう」

 

 私の発言に3体ばかりの視線が一点に集まるが、集まってしまった方は実に不満げな仏頂面で私に目を向けてくる。

「誰が痴女だ、誰が。こんな先進的で魅力的なファッションを捕まえて、失礼なメイド服だ。地味な服着てるヤツは頭が固くて困るね」

 目が合った途端なにかうわ言を囀っているが、私は当然聞く耳を持たない。

 

「大体、ザガン人形がどうとか言うなら、エマはどうなるんだよ。お前だって、ホントかウソかザガン人形なんだろ? 何が問題なんだよ、うん?」

 

 尚も言い募るサラは私とエマに視線を飛ばし、そして他2名を順番に見てから、再び私に目を合わせた。

 下着姿に上着を羽織っただけにしか見えない痴女の分際で、痛いところを突いてくる。

 

 私はもう、溜息を落とすのも馬鹿馬鹿しい思いで口を開いた。

 

「ええ、確かに仰るとおりです。ザガン人形であることはこの際置いたとしても、です。問題は、やはり貴女(あなた)の格好です」

 

 私がサラの発言を肯定しつつ、それでも「霊廟」に連れ込むのを渋っている理由を突きつけるが、やはり本人は納得し兼ねるようだ。

 だが、今度は本人が反発する前に、私の仲間たちが反応した。

 

「あー……うん」

「……確かに」

「サラちゃん、なんでお洋服着てないのぉ? 下着で出歩いちゃダメなんだよぉ?」

 

 サラの服装には、3者3様、思うことは有ったらしい。

 

 ……普遍的な冒険者然としたアリスや模範的メイド姿(見た目だけ)な私はともかく、無駄に隙無くゴシックドレスを着込んでいるカーラや、妙に短い上にサイドに深すぎるスリットの入ったスカートを着用しているエマには言われたくは無いだろうが。

 

「私の格好の何が問題なんだよ? あのな、エマ。これはホットパンツって言ってな? こういうモノなんだよ。ちゃんとショーツは着けてるぞ?」

 

 とは言え、流石に総ツッコミを受けてしまっては、些か分の悪さを感じてしまうらしい。

 言い訳じみた言い訳を口にするが、下着がどうこう以前に、見た目下着で闊歩しているのと変わらない格好だというのはもう少し自覚して欲しいものだ。

 客観的事実なので何度でもあげつらってやるが、端的に言って、下着姿でブーツを履いて、丈の短いボレロを羽織っているだけの痴女にしか見えないのだから。

 

「今までとは違った意味で危険な人形だな、主に教育的な面で。……とは言え、やはりこんな場所で長話はどうもな」

 

 やれやれと頭を振りながら、カーラは戻りたい様子を見せる。

 本心で言えば、私とて、場の雰囲気を感じ取れない訳では無い。

 私がここでグダグダ言った所で、どうせ戻ることになるのだろう。

 

 本当に、本当に連れて行くのが嫌なのだが。

 

 どう贔屓目に見ても、サラの格好は大いに、性格にも若干の問題を抱えていそうである。

 しかし、こちら側で纏まりがない以上、せめて腰を落ち着けたいと思うのは私も同じだ。

 ならばせめて、我々の同行者の安全確保の為にも、太めの釘をサラの眉間に打ち込んでおきたい。

 

 少しだけ考えた私は、エマを利用する事に決めた。

 

「サラ。これから貴女(あなた)を私達の拠点にご案内します。ただし、そこには人間がひとり居ます」

「ああ。話の流れで気付けなきゃおかしいな。で?」

 

 まずはと口火を切れば、サラはあっさりと頷く。

 まあ、此処まではサラとて予想の範囲内だろう。

 

「その人間は、私達の、とりわけエマのとても大切なお友達です」

「ほーん。エマの友達、ね。……え?」

 

 続けて軽めに放った爆弾は、軽々とサラの手元に収まったかに見えたが、思った以上に重量が有ったらしい。

 サラが驚きに軽く目を見開き、私を見た。

 反応の良さに気を良くした私は、その爆弾の起爆ボタンに指を掛ける。

 

「なので。その人間になにか害を及ぼすなら、それはエマを中心とした、私たち全てを敵に回すと言う意味です。その事をしっかりと理解した上で、行動なさって下さい」

「は? あの、えっと、え?」

 

 目を丸くしたサラが、エマを凝視している。

 まあ、彼女にしてみれば、無理もない反応だろう。

 私たちにしてみれば、エマの現在の有り様しか見えていないのだが、サラは違う。

 

 ザガン人形の集大成、2シリーズの6番目にして初の完成品であるエマは、他の5体を差し置いて――本人の思惑は別として――真っ先に解き放たれ、その足でマスターことサイモン・ネイト・ザガンの生まれ故郷を住人ごと半壊させた実績を持つ、生粋の破壊人形なのだ。

 その暴れた跡地に踏み込み、残った半分を壊滅に追い込んだ中の1体がサラであり、つまりはエマの暴虐の爪痕を直に見たという事でもある。

 信じ難いものを見るような目になるのは、仕方のないことかも知れない。

 

 そんな視線を平然と受け止め、エマはその柔らかな唇を開いた。

「ホントだよぉ? ニナちゃんは私の大事なお友達なんだぁ。サラちゃん、もしもニナちゃんに悪さしたらぁ」

 ロールアウト直後のエマが人間に向けたのは、実は制作者(ちちおや)の元に調整と言う名目で残された姉たちへの嫉妬の残り火だった。

 そんなエマが、今、サラに向けているのは。

 

「許さないよぉ?」

 

 純粋に、そして真っ直ぐに放たれた殺意。

 本来はそんな必要も無い筈なのに、サラは生唾を飲み込むように、喉を上下させる。

 

「はっ、ははっ、笑えない冗談だね。冗談で済ませて欲しいね……」

 

 引きつった顔に強引に笑みを貼り付けて視線を巡らせたサラは、それ以上の軽口を叩けない。

 私を筆頭に、アリスが、そしてカーラまでもが、表情の抜けた顔を向けているのだ。

 

「冗談で済んだら、良いのですがね?」

「さっきので大体見切ったし……次やるなら、様子見抜きで斬るぞ?」

「ニナの敵になるなら、見過ごす訳には行かないな」

 

 エマだけがストッパーとして爆発の片鱗を見せるかと思ったのだが、私を含めて残りも随分と乗り気である。

 エマに関しては、乗り気が過ぎて私でも怖い。

 対してサラは、いよいよ分の悪さが極まった様子である。

 ゆっくりと両手を上げると、小さく口を動かした。

 

「了解だよ、まったく。妙な反応に変な好奇心なんか、持つんじゃなかったよ」

 

 喜び勇んで危地に飛び込んだのだと、サラはようやく理解したようだ。

 これで諦めて逃げ出せば良いのに、そう思う私だが、満足げに微笑むエマを見て私も諦める。

 

 下手に逃げ出せば、エマがどこまでも追い掛けるのだろう、それが容易に想像出来てしまったからだ。

 

 私は気を取り直し、3体目の虜囚として、サラを「霊廟」へ連行することを呑み込んだ。

 非常に気は進まないが、物は考えようだ。

 

 これから私たちはエリスの故郷を護るために、ある程度の大暴れを行わなければならない。

 その為の手札が1枚増える可能性を得たのだ、と思えば……。

 

 私は夜空を見上げるが、どうこじつけても無理のあるその考えを、飲み下すのにはまだまだ時間が必要なのだった。




早急にサラの服を作るよう、エマに提案することを勧めます。
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