さて、その発言が何処まで本気なのかと疑心が無くもないが、観察していればエマと一緒にニナに張り付いている。
格好はともかく、あれで意外と可愛いものが好きなのかも知れない。
微笑ましく思えなくもないが、ふと冷静な目で見れば、色々とマズイのではないかと気付かされる。
まず、傍目には少女2名に痴女が絡んでいるようにしか見えないこと。
そしてもっと良く見れば、ニナをチヤホヤしている2体は、1体は「爆殺」の名を冠する近接戦闘嗜好の
ニナがその気になれば、この大陸で結構なレベルの好き勝手が出来そうである。
まあ、私もまた、ニナに頼まれたなら……余程の無茶でなければ大概のことは聞き入れそうな気がする。
私でさえそうなのだから、アリスも似たようなものだろうし、カーラに至ってはエマと同レベルで言うことを聞きそうだ。
人形のクセに有りもしない胃袋を掴まれた、情けない集団である。
暫し仲間たちプラス闖入者の様子をほっこりと眺めていた私だったのだが、時間を無為にし続ける訳には行かない。
昨夜も「霊廟」に戻るまでに偽装された賊もどきを数組潰し、話しぶりから判断するにサラも似たようなことをしていたようなので、少しの間は余裕が有るのだろうが、向こうが手を緩めない事はこれまでの短い旅路で体感させられている。
それこそ放っておいたら、エリスの住む村が被害に遭いかねない。
元を断つには国ひとつ滅ぼす必要が有りそうに思えるが、それは流石に極端すぎるだろう。
とはいえ、現状でもかなりの兵を無駄に失っている筈なのだが、それでも手を緩めないとなれば、一介の旅人形として打てる手はどうしても限られてしまう。
国を滅ぼすとか何処ぞの双子並みの過激な真似をする
では、具体的にどうするのか。
「……ほーん。まあ確かに、
私が端的な構想を語ると、まずはサラが口を挟んできた。
見た目と違い過ぎる、真っ当な反応である。
いや、頭ごなしの否定ではない辺り、真っ当とも言えないか。
「……お前、なんだかんだあの双子と、気が合うんじゃないのか? 本当は」
アリスが、半眼を私に向けて口を開く。
どこまで行っても何処で有っても、失礼な女である。
「……そうなると、私も何か準備が必要だろうか? いや、案外エマひとりでどうにかなりそうな気もするな」
カーラは顎に手を添えると、深刻そうに考えて居るように見せ掛けつつ、軽々とエマに実作業を丸投げする。
お前は魔法知識を活かして何かしろ。
魔力炉の構造を応用した魔力砲弾とか手榴弾とか、面白そうな物を研究していた事は知っているぞ。
レベルはともかく、知識や技術面では尊敬に値する存在なのだが……普段が残念すぎる。
「私は賛成だよぉ! 私が暴れて良いんだよねぇ? 良いんだよねぇ?」
そんなカーラに完全にアテにされている、実は私も同様に信頼を寄せているエマが、元気に右手を挙げる。
挙手の必要はないと思うのだが、本人のやる気に水を差す必要もやはり無いだろう。
とてもやる気なのは良いと思うし頼もしいのだが、エマの望む大暴れと、私が望む事との間にはだいぶ距離がある。
どうにか説得し、私の考えに沿って動いて貰う必要が有ると思えば若干頭が痛む。
エマには、出来れば「爆殺」エマとして働いて欲しいのだが……了承してくれるだろうか。
まあ、いざとなれば私やカーラも爆破魔法は使えるのだから、どうにかな……れば良いのだが。
「ま、派手にやったほうが色々良いのかもな。正直ムカついてるのは有るし、エリスを護ることに繋がるのなら、やってやるさ」
出来ればカーラかエマに全部丸投げしたい私が黙っていると、アリスが溜息混じりに立ち上がる。
方針は決まったのだから、次は行動だ、と言うことなのだろう。
「エリスって誰さ? まあ、ちまちま潜り込んでくるヤツを潰すより、派手で良いか。つっても砦攻めか……。勝手が判らないのは良いね、楽しめそうだよ」
釣られたのか、サラも立ち上がって大きく伸びをする。
この痴女、此処より南を守っていると見せ掛けて、ただ人を斬ることを楽しんでいたのでは無いだろうか。
曲がりなりにも守りたいものが有る私達の事情は汲める筈なのに、微妙に気にしているようで全然意に介していない。
さすが、人を斬っていたらいつの間にか英雄と呼ばれていた、と言い切るだけは有る。
「逃したりしたら面倒だよねぇ? あんまり楽しくないけど、私が本気出しちゃったほうが良いかなぁ?」
事更にニナから視線を外し、結果私と目が合ったエマは、私の背筋を泡立たせる様な狂気の浮いた笑みを向けてくる。
「はい。申し訳有りませんが、エマには本気を出して頂きたいです」
私は努めて冷静に、エマに頭を下げる。
魔法戦仕様の筈なのにその設計思想に背き、近接戦闘を好むエマ。
彼女はフレームが3シリーズの物と同等になり、望んでいた力を手に入れた。
だからと言って魔法が弱くなった訳でもなく、レベルも相まって私達の中では最強と言って良い存在となったエマは、今更になって創造された当初のコンセプト通りに動こうとしている。
私の考えた、作戦とも呼べない粗雑な侵攻を思えば、当然その方が有り難い。
だが私は、エマはもっとゴネると思っていた。
そんなエマが自分から言いだしてくれたことに、それは当然私の為では無いのだと知っているからこそ、素直に頭が下がったのだ。
「まっかせてよぉ! 逃げ出してくる子たちは、みんなでやっちゃおうねぇ!」
とびきりの
私も、席を立つ。
心配げなニナに小さく微笑みを見せて、そして一同を見渡す。
サラ以外が、人間の小さな友だちの為にと、目が合う順に小さく頷きを返してくる。
「それでは。サラには、アイセスブルト国境沿いの砦までの案内を頼みます。目標は3個所。西側に切り込んで、東へと抜けます。要衝が陥落したとなれば余計な工作に人手を回せなくなる可能性も出てきますし、こちらの国が何らかの軍事行動を起こしてくれるかも知れません」
皆と協議し、私が提案したのは、彼の国の砦を複数箇所落とす、というもの。
普通に考えて狂気の沙汰だと思うが、エマと言う戦力があって、私たちも決して無力という訳ではない。
「カーラ。手榴弾……魔力投擲弾は幾つ用意できますか?」
「うむ。現状は数があまり無いが、使用可能なものは100程度だな。一応ザガン式魔力炉の暴走時と同等の爆破力を期待できると思うが、なにせ実際に起動したことが無い。起爆はともかく、威力については充分な保証は出来んが、構わんか?」
そして、カーラの切り札も有る。
彼女の口ぶりから、オリジナルよりは多少威力は落ちそうでは有るが、100個も有ればそれなりに役に立つだろう。
と言うか、そんなに作ってたのか。
量産する前に報告しろ、暴発事故でも起こしたらどうする
「充分だと思います。威力のテストは現地で行いましょう」
仮に威力が全然無かったとしても、エマも居るし、最悪は私とカーラで魔法を使えば良い。
サラとアリスは向かってくる、或いは逃げ出す兵士の相手を任せる事になるだろう。
まずはそのアリスとサラ、そして私が「霊廟」から出て目的地を目指す。
面倒事だが、そもそもアイセスブルトとか言う国が方々に余計なちょっかいを掛けなければ、こんな事をせずとも済んだのだ。
挙げ句私の友人を巻き込もうとは、本当に腹のたつ事である。
「よし、それじゃあサクッと行くか。ニナ、悪いけど昼ご飯は任せるよ」
「昼の心配とはまた呑気な事じゃないか。あ、私もそれ食べたいけど構わないかな?」
先行する予定の仲間と痴女はそれぞれの表情で、準備が整っていると告げてくる。
私は無言で頷くと、玄関ホール、更にその先を目指す。
エリスの安全を確保したら、そのまま東へ抜けて、旅を続けよう。
これから行う事に対してまったく比較にならない程軽い考えを脳裏に描きながら、私は平常運転で足を動かすのだった。
まるで珍しいことのように言っていますが、マリアがどうでも良い事を考えているのはいつも通りです。