なんだかアリスやサラに言ってやりたい事は有るが、今更気にしている時間はない。
私は久々の爆砕障壁を三角錐の形で右腕に纏わせ、それを円錐状の障壁の先端に括り付ける様な形で巨大化させていく。
いや、巨大化と言うよりは伸ばしていく、という方がやや近いか。
円錐状にしたのは爆破の影響がこちらに及ばないようにする為なので、最低限私が身を守れる程度に大きくなれば問題無いのだが、心優しい私は共に走る仲間たちも覆える程度には大きくしておく。
「おい! 出入り口に廻るとかしないのかよ!」
そんな私の優しさを感じ取れない無鉄砲系元冒険者が、私に視線と怒号を向けてくる。
この人形は私とそれなりに行動を共にして、まだ何も理解出来ていないらしい。
「面倒です」
「はあ!?」
障壁の先端、爆砕部分の狙いを微調整しながら、私は短く答える。
微調整とは言っても、然程細かな狙いなど付けた訳でもないのだが。
「あっははははっ! 良いねお前ら。バカは嫌いじゃないよ」
何故か爆笑するサラが私たちを一纏めにし、纏められた方は反射的に視線を向けるが特に向ける言葉はない。
アリスはともかく私は文句がいくらでも出てくるが、何故反応しないのかと言えば。
「突入します」
宣言の直後、障壁が砦の壁に突き刺さる。
そして広がる、閃光と轟音。
アイセスブルト南砦(仮)攻略戦が、開始されたからだ。
念の為に1面あたり50層重ねていた爆砕障壁は、何かに当たる都度爆発し、室内の何かを含む様々なモノを粉砕したらしい。
私が突入後に見たのは、そこそこ広い室内に広がる血痕と肉片、向こうの壁までが粉砕されている様子である。
まだ室内奥側に生きている兵らしきがパニックに陥っているのが見えたのが、私が動く前に肌色多めの黒装束が刀を片手に突っ込んで行った。
暴走系の人形はこれだから恐ろしい。
「おーおー、やっぱサラはすげえんだな。もう終わりそうじゃん」
人形斬りを片手に、アリスは呑気なものである。
その視線は、当然のように斬殺死体量産機に向けられている。
……位置関係でサラに遅れただけで、お前だってそんなに違いは無いのだが。
私は言葉をぐっと呑み込み、手近な空間を見つけて例の白ドアを設置する。
そして口を開くと出てきたのは、注意喚起の為の言葉だ。
「お
敵陣に飛び込み、まだ敵兵が多数いる状況で陽気に大暴れなサラと呑気に傍観するアリスが、私の言葉にハッとして身構える。
さしもの能天気な2体も、暴れたくてウズウズしてる獣が解き放たれるとなれば、のんびり構えても居られないらしい。
そして間も無く、ドアの設置をカーラが知覚したのか、エマが野生の勘で感知したのか。
勢いよく、内側からドアが開け放たれる。
……壊れるから、乱暴にはしないで欲しいのだが。
「来たよぉ! あーっ! もうアリスちゃんとサラちゃんが暴れてるぅ!」
そして飛び出してくる、小さな暴君。
別に擁護する気は無いが、サラが暴れていたのは単なる室内のクリアリングだし、アリスに至っては暴れても居ない。
擁護する気が無いから、口に出すことも無いが。
「先の話より早かったな? お陰で助かったが……」
遅れてのそりと高身長をドアから覗かせ、カーラが疲れた顔を私に向けていた。
こっちを見られても困るのだが。
「アリスとサラが張り切りましたので。私は引っ張られただけです」
「良く言うよ。イキイキと壁爆破して、真っ先に飛び込んだくせに」
淡々と事実を説明すると、アリスがしゃしゃり出て嘴を挟んで来た。
剣士2名では壁を破るのも手間だろうと気を利かせたというのに、随分と非道な言い草である。
出入り口なり窓から突入?
進路を変えるのも、突入前から周囲の兵士とドンパチ踊って相手の警戒度を上げるのも、どちらも面倒なので却下である。
外でエマを呼べば良かった、と言う意見に関してはその通りだと思うが、なにしろこちらも走って勢いが付いていたので仕方がない。
「エマ、申し訳有りませんが手早く片付けたいのです。お願い出来ますか?」
私はドアを仕舞いながら、瞳を輝かせているエマに声を向ける。
本来なら長剣「落日」なりいつもの短刀なりで大暴れしたい筈のエマは、今は何も手にしていなかった。
戦闘の気配が有れば即武装する元気娘にしては珍しいのだが、恐らく……私の意図を汲んでくれていたのだろう。
カーラ相手に我儘をぶつけるのに夢中で忘れていた、という線も濃厚なのだが。
「うん! まっかせてぇ! 久しぶりに、やっちゃうよぉ!」
答えるエマは、とても楽しそうだ。
……お前は魔法戦が嫌いなんじゃなかったのか。
エマが答えるその最中に、仲間たちが急いで私の周囲に集まってくる。
私の能力を詳しく知らない筈のサラも、空気を読んだのか身を寄せてくる。
その様子はなかなかに滑稽だ。
私はひとまず無言で障壁を13層、私たちを覆うように展開させる。
「こちらは大丈夫です。それではエマ、お願いします」
エマがどれだけフラストレーションを貯めていたとしても、初手魔法は本人が気乗りしないだろうし、何より私たちが、障壁越しとはいえ直ぐ側に居るのだ。
となれば、まずは前方への爆破線の放射辺りが考え得る最初の攻撃であろう。
幾ら何でも全力障壁の多重起動は心配のし過ぎとも思えたが、万が一のこともある。
「わかったぁ!」
私への元気な返事を合図に、エマの魔力が急激に高まっていく。
彼女を覆う魔力紋がそれに呼応し、眩しいほどに赤々と燃え上がる。
湧き上がる魔力の圧で、彼女の両足が床から離れた。
その両手は胸の前に有ったが、前に向けて突き出される様子もない。
エマの魔法使用の姿勢をちゃんと見たことがなかったが、あんな感じだっただろうか?
「……なあ? 私たち、
ちゃっかりと盾にするように、身を寄せ合って私の後ろに居る仲間たちの中から、アリスの弱い声が耳に届く。
彼女の言う
彼女の言い分も理解出来る。
だが、今更だ。
「……集中を邪魔しないで頂けますか?」
私は短く答え、全力で展開した障壁の維持と、いざという時の再展開を見据える。
エマの魔力の高まり方が、私と初めて対峙したあの時を軽く凌駕しているのだ。
とても気を抜いていられる状況ではない。
「な、なあ、マリア、いっそ私が扉を……」
カーラが思い詰めた声で何かを提案しようとした、その時。
「あはははははッ!」
私たちの視界は、白一色で塗り潰された。
開始、と言いながらもう終わりそうですが……。まだ他に目標が有る? そうですか。