迷子のマリア   作:naow

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マリアの無計画な行動は、まだ最初の障害を排除しただけです。


戦場の息抜き

 カーラの操り人形(マリオネット)は何処まで行ったのか。

 素直に疑問に思ったので聞いてみれば、20キロ程先、次の砦まであと10キロ程度の所で止めているという。

 思っていたよりも随分先まで行っているが、その辺りが限界かと問えばまだ余裕が有るとか。

 

「これより先に進めば、恐らく砦の監視に捕まる。隠れる場所も無いのだから、見つかったら攻め込むしか無いが……下手に相手の戦力を減らしてしまうと、エマの機嫌を損ねそうでな」

 

 遠くを見る目のカーラの説明によれば、操作自体はまだまだ先まで行けるという。

 何か、色々とおかしい気がする。

 

 私が視線を逸らした先では、エマを中心に3体が、何やら談笑しながらのんびりと戻ってくる所だった。

 

 

 

 取り敢えず合流した私たちは、それぞれにどうでも良い情報を共有し合う。

 エマたちが暴れた結果は遠目に見ていても判るし、カーラの操り人形(マリオネット)が次の砦に近い位置に居ると言っても、別に何かしている訳でもない。

 

 エマたちはまだしも、カーラは何故、人形を先行させたのだろうか。

 

「申し訳有りませんが、私は少し外します。すぐに戻りますので、お待ち下さい」

 

 まあ、そこを詰めても特に良いこともなし、私はそれぞれあーだこーだとただの感想を言い合っている仲間たちに一言残して、その場を離れる。

 目指すのは、ハイペリオ側の砦。

 

 目の前の要監視対象である敵国の砦……要塞が突然爆散して消えた挙げ句、その周辺には敵国の兵士の骸が転がっているとなれば、ハイペリオの中枢に報告を行わねばなるまい。

 そこで「原因は不明です」ではあまり格好が宜しくないだろうから、原因の一部である私が事情を説明しに行く、と言う訳だ。

 

 とは言っても、私達の正体と、()()が暴れた結果が()()なのだ、と伝えるだけの簡素なものなのだが。

 

 

 

 十と数分後。

 私の説明を聞いた中隊長とか言う人は、難しい……と言うよりは何を言っているんだ、と言う顔では有ったものの、余計な口を挟まずに聞いてくれた。

 一応全て聞いてくれて、その上で中隊長さんは腕組みして唸ってしまった。

 

「こちらとしても動いていない所に、ザガン人形がやったと言い張る以上、我々はひとまずそれを呑むしか無いな」

 

 面倒臭そうにそう言うと、重い溜息を落とす。

 信じるには馬鹿馬鹿しいが、信じない場合には原因も不明のままアイセスブルトが付けてくる文句に対応せねばならない。

 信じるかはさておき、事実として言い張るしか無いであろう。

 

「色々とご苦労をお掛けして申し訳御座いません。今日中に東側の砦も2つか3つ陥落させねばなりませんので、私どもはこの辺りで失礼致します」

「いやちょっと待て、頼むから待ってくれ」

 

 そんな中隊長さんは、私たちの今後の予定を告げたら、呆れの色が更に濃くなった。

 心底嫌そうな声色で、踵を返した私を呼び止める。

 

 肩越しに振り返れば、中隊長さんは眉間を右手の親指と人差指で揉んでいた。

 後ろに控える部下の皆さんも、困惑顔である。

 

「……やるなとは言わんし、あんな爆発を起こせるような連中を止めろなんて命令を部下に出すような度胸は、俺には無いな。ただ、俺にも立場ってモンが有る。……上にやれと言われたら、やるしかないしな」

 

 本当に私たちがお伽噺の人形かどうか、なんてことを気にしている訳では無いだろう。

 そんな事はどうでも良く、問題なのは、実際に要塞ひとつを爆破解体して更地にし、生き残りの兵士たちを皆殺しにした、それだ。

 

 これに関しては、事実だとしたら……等という、生温い反応は出来まい。

 

 なにしろ爆発は彼らも目にしたのだし、その惨状はこの後、調査の兵を向かわせれば詳しく判るのだ。

 そんな化け物が、ホイホイ引っ越しの挨拶感覚で報告に訪れたのだ。

 まあ、いつ気が変わって自分達に牙を向くかも知れないと思えば、気楽な対応も出来まい。

 

「存じております。ですので、私どもは言うだけ言ってさっさと()()()()()。賊の正体や目的は自称であり真偽不明、とでも」

 

 特段緊張を解いて差し上げる心算(つもり)も義理も無いが、変な圧を掛け続けるのも気が引ける。

 私は再度身体(からだ)の向きを変えると、真っ直ぐに視線を返した。

 どうせ調査するのだろうから、その調査に謎の賊の事を混ぜて報告すれば良い、そういう意味での発言だった。

 中隊長さんは少しだけ考えて、そして首肯する。

 

「了解した。悪いが、敵に回す心算(つもり)は無いが両手(もろて)を挙げて歓迎する訳にもいかん。この後すぐにでも調査隊を派遣して確認、それを上に報告して終いだろうな」

 

 私の考えを見透かしたように、中隊長さんは言葉を紡ぐ。

 実際にそれくらいしか出来る事は無い、と言うことなのだろうが、それ以外にも。

 

 お前の思惑に乗ってやるから、さっさと何処かに行け、そういう意味も含まれているのだろう。

 

「それにしても、俺達はザガン人形を他所の国のお伽噺としてしか知らん。あの英雄サラ以外はな。かの英雄を含めて、お前たちは何かを企んでいるのか?」

 

 そんな事を考える私に真っ直ぐに目を向けて、その言葉は私の耳に刺さる。

 しばし呆けた私は、しかしすぐに薄く失笑した。

 

「……企む人形も居るかも知れませんが、基本的に私たちは自分勝手で気儘なものです。今回の事にしても」

 

 なんとなく、私の視線は南の空を見上げる。

 この空の下、エリスは元気で居るだろうか。

 

 エリスの健気な様子が、私の旅の始まりで出会った少女のそれと重なる。

 私はイリーナを導けなかったし、エリスの助けにも成れなかった。

 

「……ノヴァックに、私の友人が居るのです。ただの人間ですが、生きることに懸命な、人の良さが取り柄の明るい娘です。そんな彼女の生活に陰を差すモノを、私は見過ごす気にはなれないのですよ」

 

 なんとなく口にしてしまってから、私は己の失言を悟る。

 それは、私たちの……いや、私の明確な弱点なのだと吐露したに等しい。

 

「ノヴァックか。隣国だが、アイセスブルトと違って話が通じるし、気風も良い国だ。我々も、彼の国とは手を取り合いとは思っていても、対立したいとは思わん」

 

 しかし中隊長さんは、私の失言を受けても気付いた素振(そぶ)りも見せず、私と同じように視線を南の空に向けた。

「他国だが、たったひとりの人間を護るために戦う、か」

 ぽつりと呟くと、その顔を私へと向けた。

 

「ザガン人形とは、やはり英雄のようだな? 軍に属する者としてお前のやったこと、これからすることを肯定は出来んが、ひとりの人間として、共感するものは在る」

 

 自然と顔を向け、目が合った私は、中隊長さんの言葉をどう受け止めるべきか迷う。

「……買い被りすぎです。私たちザガン人形は、人を殺す人形です。それ以外の何物でも有りませんよ」

 思いも寄らない評価というものは、混乱を呼び寄せるものらしい。

 迷った挙げ句、私の頬を自嘲の笑みが飾る。

 

 英雄と呼ばれるほど、高潔な精神を持ち合わせてはいないのだ。

 サラも、私も。

 

「どう弁明した所で、怪しい者でしか無い事は自覚しております。……アイセスブルトも何か言ってくるでしょうから、遠慮なく私どもに責任を被せて下さい。言っても信じられはしないでしょうが」

 

 自嘲のままに言葉を重ねれば、中隊長さんは剛毅に笑って受け止めてくれた。

 

「ふん、どうせ連中とは元から睨み合ってる。こちらの言い分を信じるならお前らを警戒せねばならんだろうし、信じなければ我々があの砦を消し去るほどの戦力を有していると、それはそれで余計な疑心が生まれる。砦の再建をしようにも、我々が指を咥えて見ている訳もない。散々好き勝手しようとしたんだ、報復程度は覚悟しているだろうさ。勝手にな」

 

 いびつな笑顔の私と剛毅な中隊長さんは、暫し見詰め合う。

 微妙な空白の時間は、長くは続かなかった。

 

「暇が出来たらまた来ると良い。堂々と王都に案内は出来んが、こんな辺境の砦でなら、ささやかな歓待くらいは出来るだろうさ。俺の出来る範囲での事だから、あまり期待されても困るが」

 

 笑って、右手を差し出してくる。

 戸惑いつつ、私はその手を受け取る。

 

「素敵なお誘いですね。仲間にも伝えておきます」

 

 知らず微かな笑みを浮かべ、握手を解くと私は頭を下げる。

 踵を返すと、私はもう振り返ることをせず、ただ走った。

 要するに、急いでその場を離れたのだ。

 

 急がなければ、痺れを切らせたエマが先行しかねない。

 

 そんな事を考える私は、ふと、今日は随分と自分に言い訳をしている事に気が付く。

 気が付いてしまえば、以外と気は緩む。

 ――なんのことは無い、私はただ、居心地の悪さから逃げ出したかっただけなのだ。

 

 エリスの安全が確保出来たら、その時は、本当にまた、此処を訪れるのも良いかも知れない。

 

 自分でも的外れだと思う事を考えながら、私は仲間たちの元を目指した。

 アイセスブルトが、主に北方向への軍事行動を幾つか起こしながらも南へちょっかいを掛けている、その余裕の元。

 兵力を浪費させてしまえば、その余裕も失われるだろう。

 

 その為にも、まずは南方の主要な要塞や砦を無力化する。

 

 私たちの無軌道な、作戦とも呼べないそれは、まだ始まったばかりだ。

 歴戦の兵を纏める立場の男に英雄のようだと称された私は、出来損ないの人形としてただ人を殺す。

 それは英雄の在りようでは無いと、強く自分に言い聞かせる。

 

「遅いぞ! エマたちは先に行ってしまった。さっさと追うぞ!」

 

 走る私を待っていたカーラが、苛立たしげに声を荒げた。

 

「なんで先行を許したのですか。それほど時間を使った訳では無い筈ですが」

 

 私の声は、いつものそれだ。

 自分の声が制御出来ていることに安堵して、しかしそれを顔に出さずに、私は仲間と並んで走る。

 今日はなんだか、走ってばかりだ。

 

 カーラとともに、先行した仲間を追う。

 私は結局、殺戮人形として振る舞うしか無い。

 

 もはやヒトとして生活することも出来ない私だが、案外その事を厭って居ない事にも気が付く。

 カーラと軽口のやりとりを繰り広げながら、緊張感も無く、妙な心の澱も忘れて、私は走るのだった。




普通に考えてただの破壊者です。うっかり戻ってきたらそれなりの手配をされていそうですが、気が付いているのでしょうか?
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