迷子のマリア   作:naow

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案外気の合う仲間同士、仲良く移動です。


能天気日和

「それで? なんでエマたちは先に行ってしまったのです?」

 

 先行した仲間たちを追って、しかし慌てることもなく、私とカーラは並んでのんびりランニングである。

 

「あー、私の戦乙女(ヴァルキリー)たちが、歩哨の兵に普通に見つかってな」

 

 私の軽い質問にどうでも良いことのように答えて、カーラは声を上げて笑う。

 笑っている場合か、大問題ではないか。

 

 下からに対してならともかく通路上で隠れる場所も無い、そんな場所で特に工夫もなく操り人形(マリオネット)をボーっと待機させていたら、それは見つかるに決まっているだろう。

 私は特に驚きはしないが、しかし相応に呆れた顔をカーラに向ける。

 

「それでも、すぐに始末すれば問題無いと思っていたがな? 連絡用の魔道具を使われてしまってな」

 

 聞けば、操り人形を見つけたアイセスブルト兵は3名。

 少人数だけに積極的に攻撃してくることはなく、すぐに応援を要請したらしい。

 彼らの誤算は相手が人外かつ壁を超えたレベルの化け物が複数だった、と言う事なのだが、カーラはカーラで相手が無闇に突っ込んでこなかったことに面食らったらしい。

 

 いや、相手の判断は至極真っ当だろう。

 

「一応ジャミングはしたんだが、もう連絡した後だったのだ」

 

 何がおかしいのか、カラカラと笑う。

 そのジャミングも、エリア常駐型のものを先に展開しておけば、面倒も無かっただろうに。

 

 それでも消息を絶ったことを察知されて、すぐにそれなりの戦力を送り込んでくるのは目に見えるようだが。

 

「……貴女(あなた)が歩哨に気付いたのは、どれくらいのタイミングだったのですか?」

 

 恐らく歩哨に見つかったのはカーラが認識するよりもずっと早かったと思われるし、そうであったならその時点で「怪しい物体を発見」くらいの報告はしていただろう。

 私の疑問を受けてカーラは唇に左の人差し指を当て、少しだけ考える。

 

「気付いた、で言えば、砦を出る所か? 探知で砦内の動きは見ていたからな。こちらに来るから、近寄ったら殺せば良いと思っていたが」

 

 そして紡ぎ出された言葉には、さしもの私も頭痛を感じざるを得なかった。

 頭の出来は良い筈なのに、何故こうも時々ポンコツになるのやら。

 

 こう言ってはなんだが、思考レベルがエマのそれと同等ではないか。

 

「いやはや、まさかああも逃げ腰とは思わなかったぞ」

「……それは逃げ腰ではなく、兵士として当然の対応なんですがね……」

 

 怪しいものを見掛けてすぐに突撃する、そんな兵士を想像しているのだろうか?

 そんな扱い難い兵士など、すぐに訓練やらで矯正されるに決まっているだろう。

 

「そうなのか? まあ確かに、こうして厄介な目に遭っている訳だからな」

 

 私の苦言を受けても、カーラは何やら上機嫌である。

 先行して偵察だけの予定が敵に見つかり、本隊へ報告までされていると言うのに、何が楽しいのやら。

 

 呆れた私の脳裏に、針先で突付いたような、小さな小さな閃光が瞬く。

 

「……所で、貴女(あなた)操り人形(マリオネット)はその後どうしているのです?」

「んん? 私の戦乙女(ヴァルキリー)たちか?」

 

 先行したカーラの操り人形と、その現状を聞かされ駆け出したエマ、それを追うアリスとサラ。

 エマたちの行動については予想でしか無いが、まあ間違ってもいないだろうし、間違っていた所で何も問題は無い。

 問題は無いが、これらの要素には、カーラが上機嫌な理由が見当たらない。

 となれば、意図的か否かは置いても、まだ何か隠されたモノが在る筈だ。

 

 残念ながらある程度アタリが付いてしまっているので、私はうんざりとした視線を真横に流す。

 

「とっくに、砦に突入しているぞ」

 

 答えるカーラは、恐らく隠す心算(つもり)も誤魔化す予定も無かったのだろう。

 ただただ、言葉を端折っただけで。

 

 しかし、その端折られた部分こそが、エマが慌てて駆け出した一番の理由だ。

 

 私たちの中でも臆病で、先頭に立って戦う、という選択肢からは最も遠く思えるカーラだが、それはあくまでも私たちの中では、というだけの話で。

 訓練を積んでいるとは言えレベルで言えば20そこそこの兵士たちを前に、なんというか……理解(わか)りやすく調子に乗ってしまったのだろう。

 

 それがどの段階だったのか。

 最初に襲撃した要塞でエマたちが暴れている時に、相手を探査なり鑑定なりしてしまったのか。

 それとも、歩哨に発見され己の――操り人形の――行動を決めなければならなくなった、その時か。

 

 カーラ自身のレベルを超える、8体の人形。

 1体あたりレベル650の群れを相手に、生物の壁を超えても居ない普通の人間が対処出来る筈も無い。

 

 私でさえ、8体も相手では勝てるとも思えないと言うのに。

 

 気付いてしまったカーラは、そのまま操り人形たちを突撃させたのだろう。

 普段常識人ぶっていても、自分が勝てる相手だと判ればこんなものである。

 

 私はもう、急ぐ気も無くなってしまう。

 

 この分では、現場に着いた時にはもう、()()()終わってしまっていることだろう。

 溜息を落とすのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 

「……もう、ゆっくり歩いて向かいませんか? 疲れることは無いですが、急いで向かった所で……」

 

 鼻歌でも歌いそうなカーラは私が何を言っても慌てる素振りも見せはしない。

「なあに、私の……私たちの暴れた結果を見届けなければ、な。ほれほれ、急ぐぞ」

 実に楽しそうで、結構なことである。

 

 カーラが上機嫌ということは、まだ操り人形は全て無事、と言うことだろう。

 まだドンパチが続いているのか、エマの気は逸れているという証拠だろう。

 

 しかし、本当に全てが終わってしまった時、勝手に操り人形を先行させた事を、エマはどう思っているのか。

 勝手に先走り、そのくせ本体は呑気に後から来る事を、後片付けを手伝ったアリスはどう考えるのか。

 見た目が既に享楽的なサラが、その場の状況でどう判断し、どう動くのか。

 

 急いで向かわなければならないのは間違いないが、カーラはこの先の自分の身の上を全く想像出来ていない。

 

 私は走りながら行く手を眺め、どうやったら巻き込まれずに済むか。

 そんな事を考えるのだった。




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