迷子のマリア   作:naow

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予定調和とは言え……うーん。


走れマリア号

 破壊された2体の操り人形……の残骸を胸に慟哭するカーラ。

 

 なまじ性能を上げたばかりに……いや、そもそも調子に乗って先行させた挙げ句、砦を半分陥落(おと)していた、なんて真似をしでかしたばかりに、エマに目をつけられてしまったのだ。

 元々陰湿さとは縁の薄いエマは、純粋に操り人形の性能の高さに感動したらしい。

 

 半壊した砦跡地で待ち構えていたエマは、カーラに「遊び」を強請(ねだ)った。

 

 何とか食い下がって人形2体だけ、と言う条件を取り付けたものの、斯くしてカーラの上機嫌の時間は終わりを告げた訳である。

 残念ながら判りきった結果であるので、同情などはない。

 

「ぐすっ……せっかく……私の……ぐすっ」

 

 なんだか見たことの有る光景……と思ったのだが、冷静に考えれば割と日常に近い事だった。

 見慣れないのは、何故かサラがカーラを手伝って人形の破片を集めている事くらいか。

 

「ミスリルとか、良いモノ使ってるね? 動きも悪くなかったし。あと10体も有れば、エマを完封できたんじゃないか?」

 

 楽しげに慰めるサラだが、カーラはまともに反応しないし、私は私で気が気ではない。

 既に8体の完成の為にどれだけの資材を消費したのか知れたものではないし、この上更に10体……いや、残数が6体だからサラの想定を考えるならあと6体作るとなれば、そろそろ真剣に資材の補充を考えなければなるまい。

 

 賢者さまから頂いたヤベえ金属類は私が直に保管しているから問題ないが、ミスリル他の所謂(いわゆる)普通の金属類はそろそろ補充を考えようと思う。

 世界を巡り、金属類を買い求める旅とはまた、随分な風情である。

 

 大体、カーラが人形を12体も展開したら、エマは大喜びで手加減を忘れ、結果カーラまで残骸と化すだけだと思う。

 

「……大きな街で、商業ギルドに顔を出す必要が有りますね」

 

 嫌すぎる想像から目を逸らし、私の口は考えていた別のことを押し出す。

 商業ギルドには暫く顔を出していないが、資金はだいぶ増えていると思うが……まさか失効はしていないだろうな?

 こんな事は予測出来たのだから、クアラスの商業ギルドに顔を出すべきだった。

 

 あの変態さえ居なければ、忘れることも無かったというのに。

 

「……カーラの自業自得も終わったことだし、次、行かないか? ガラクタも大概拾ったんだろ?」

「ガラクタとは何だ!!」

 

 遠い目をする私を呆れた目で眺めるアリスが口を開くと、カーラが即座に噛みつく。

 アリスの言い分もアレだが気持ちは理解(わか)るし、カーラの反応もまあまあ共感出来なくも無いが理解は拒絶したい。

 

「私がどれほどの情熱を持って、アレらを作り上げたと思っているんだ!?」

「それはもう良いですから、先に進みますよ。ペースも良いですし、あとふたつは砦を陥落(おと)したいところですから」

 

 私はカーラの戯れ言をピシャリと封じると、思い思いに過ごしている仲間たちを見回して告げる。

 エマ対カーラ戦の余波で完全に更地となった砦跡地に色々と思う所はあるが、それについては言葉を飲み込む。

 

「うんうん、行こう! 次も頑張っちゃうよぉ!」

 

 元気な声を上げて、エマが飛び跳ねる。

 あんまり頑張って欲しくないが、言った所で加減はしないだろう。

 

「次は私も、って言いたいトコだけど……建物相手じゃどうにもねえ」

 

 自信なさげな言葉とは裏腹に、アリスは人形斬りを片手に不敵な笑みをその頬に貼り付けている。

 好戦的な女だ、と言いたい所だが、血や脂で汚れたままで鞘に収めたら刃が荒れたり色々と大変なことになるので、それらを拭ったあとも暫くは抜いたままで居たのだ。

 

 拭ってしまったら大丈夫なのでは? と思うのは、私が武器の扱いに無頓着なせいだろうか。

 

「魔力使えば、建物ごとイケるだろ? まあ、エマほどあっという間に決着つけるのが無理なのはそうだけどさ」

 

 同じように刀を片手に、サラがアリスに向かって肩を竦めて見せ、アリスは特に返事はしないがサラに向けて同様に肩を竦めてみせた。

 何かとんでもないことを聞いた気がするが、私は努めて冷静に聞き流す。

 

 剣とか刀一本で砦を斬り裂くとか、漫画みたいな事を……そう言いたいのだが、この2体ならやってのけそうなので、軽口を叩くのも気を遣う。

 魔力込みで、と言うなら私もまあ、それなりの破砕力を発揮出来はするので余計に、である。

 

 ん? よくよく考えてみれば、私の方がエマに近いことが出来るのでは……?

 

 ……世の中、気付いてはいけない事も在るのだ。

 

「では、次に向かい……カーラ、行きますよ?」

「うぐぅ……ま、待ってくれ。これで、拾える分は全て……良し、問題無い! ……ぐすっ」

 

 まだ泣いているカーラに声を掛け、私は色々と忘れることに決め、次の目的地、更に東の砦の方向へ目を向ける。

 そこを陥落させれば、その次の要塞までは今までよりも距離がある。

 

 走るのも良いが、丁度良いレール代わりも有ることだし、私は思いついた。

 

「全員、壁の上に集まって下さい。次までは、私が全員を運びます」

 

 率先して、私は壁の上まで駆け上がる。

 正直に言って、私たちのそれぞれの移動速度には差が有る。

 私とアリスはエマの本気の走りに何とか追従できるが、サラは私たちより遅い。

 カーラに至っては単純な移動ではサラに遠く及ばない。

 では、カーラとサラを「霊廟」に収納して移動したら良いかと言えば、現状では望ましくないだろう。

 

 サラはともかく、カーラは1度戻ってしまったら、拗ねて出てこない恐れが有る。

 

 では、それを解消し、全員で移動するにはどうすれば良いか?

 実に簡単である。

 

 私は全員が壁の上、通路上に集まった事を確認すると、全員を覆う程度の障壁を展開し、それを変形させていく。

 

「移動は私が担います。耐衝撃の措置は有りませんので、各自で対応して下さい」

 

 いつも通りの無責任さで放言する私の脳裏に、何故かメアリの戦う姿が思い出された。

 障壁と拳による肉弾戦を行っていたかの人形は、私の目を盗むように、当時の私には不思議としか思えない技術を用いていた。

 

 明らかに障壁を解除した様に見えるのに、メアリの身体を覆う不可思議な光。

 彼女の接近に伴って、不自然に動作が鈍る野盗の男。

 

 遠目にちらりと見えただけのそれが、今、唐突に理解出来たのだ。

 

 ……恐らく、これもまた、先代によって封じられていた技術なのだろう。

 

「にっ、担うと言うなら、安全性にも責任を持て!」

 

 私が何をしようとしているのか、移動に関してのみ察したカーラが引き攣った声を上げる。

 癇に障る金切り声だが、今の私は不思議と穏やかに受け止めていた。

 

 遠目に見た、メアリが見せたアレは、やはり障壁ではなかった。

 メアリに迫るにつれて、急速に勢いを()()()()()()様に見えたのは、錯覚ではなく。

 

 変形していく障壁内に、私の魔力が満ちる。

 

「……これは……?」

「何だこれ? 光……魔力?」

 

 私の変化に、カーラは騒ぐことを止め、他の仲間たちは不思議そうに障壁内を見回している。

 その間にも障壁は変形を続け、鋭角で攻撃的なその鼻面を行く手に向けていた。

 持ち上げられたその障壁で形作られた何かを支えるのは、8箇所に割り当てられた車輪状の障壁体である。

 

「訂正します。いかなる衝撃も、障壁の内部に及ぶことは有りません。それでは、行きます」

 

 障壁の展開と力場の生成に魔力を回し、残りの魔力の何割かを強引に推力に割り当て、歪な装甲車は車輪を回し始める。

 初めはゆっくりと、しかし徐々に速度を上げ、緩やかなカーブに車体を擦り付けながら走るその姿に、アリスが感嘆と言うには呆れを多く含んだ声を上げた。

 

「なんか、こんな玩具、あったよな? ミニなんとか、あれがでっかくなったらこんな感じか?」

「大きくなったら、それはもうミニでは無いでしょう」

 

 周囲を置き去りに、私はアリスの軽口に返す。

 返しながら、その言葉に新たな着想を得た私は、車両の前後に、幼少の日の見慣れたそれを模した、ガイドローラーを作り出した。

 

 洗練とは正反対の不格好で攻撃的なシルエットだし、4輪どころか8輪だし、アリスに答えた通りミニなどではない。

 

 しかしなんとなく子供心を思い出してしまった私は、なんだか楽しくなってしまい、障壁装甲車の速度をどんどん上げていく。

 もはやカーブに当たる度に、通路の壁のほうが耐え切れず、後方では通路の上と外に瓦礫となって散らばっていた。

 

「ばっ、バカっ! 早過ぎるから! 壁を突き破るから! 飛び出しちゃうから! スピード落として!」

「あっははははっ! これたーのしーいねぇ!」

「自分で制御出来ない速さってのは、怖いもんなんだねえ。……思い知ったよ」

「だからお前は、二度と乗り物を操作するなと言ったのだッ!」

 

 4者4様の反応を乗せて、絶叫は置き去りに、私と装甲車は走る。

 もはや車内には壁にぶつかる衝撃も、速度で掛かるGも無いというのに、騒がしいことである。

 

 すっかりご機嫌な私は、不意に使えるようになった力場の事など、もはやどうでも良くなっていたのだった。




……力場の事はきちんと教えました。覚えていないのは真面目に聞いていなかったからです。
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