迷子のマリア   作:naow

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運命を委ねてはいけない存在は、います。


さよならマリア号

「あっはははははっ! マリアちゃん! いっけえぇ!」

「エっ、エマっ! あまりマリアを煽るなっ! 調子にのっ……ぎゃあああ落ちる落ちるっ!」

 

 エマは楽しげに身を乗り出し、カーラは青ざめて顔を覆う。

 

 障壁で形作った前衛的な装甲車の内部は、私の生成した力場の作用で外からの衝撃は伝わってこないのだが、流れる周囲の景色に圧倒されたのか、カーラはそんな事すら気が付いた様子はない。

 

「まっ、マリア、頼むから余所見しないで! 前前前! カーブが迫ってるからあ!」

 

 アリスもまた、顔色悪く前方を指差しながら、私の肩をバンバン叩いてくる。

 仮に通路から外れて転がり落ちても、視界がぐるんぐるんしてしまうのはともかく、肉体的には何のダメージもないというのに。

 

 いやまあ、全く何の説明もしていないのだから、うっすら光っている室内にそんな効果が有るとは思わないのかも知れないが。

 残る1体、サラはもう何も言わず、流れる景色を薄ら寒そうに横目で見ているだけだ。

 

 ある程度走らせたことでこの障壁車の操作に慣れてきた私は、アリスが指差すカーブに入る前に僅かに減速させつつ、左右の車輪の回転数に差を作ってカーブの曲線に対応する。

 既になかなかの速度に達してしまった車体は、前後のガイドローラーですら壁に叩きつけるハンマー以上の役には立たなくなっている。

 

 一度は車体が半分近く飛び出すアクシデントを経て、私なりにカーブ毎に気を遣う様になったというのに、エマ以外の仲間たちは私を信用する気は無いらしい。

 エマの場合は私に対する信頼というよりも、単に何も考えていないだけだろう。

 

「だからっ! 壁に寄り過ぎだって! 壁が崩れる、崩れてるっ!」

 

 少し操縦が甘く、ガイドローラーが壁を薙ぎ倒してしまっただけで車内では絶叫が上がる。

 危ないと思うのなら、私の集中力を妨げるような真似は止めて欲しいのだが。

 

「あー、マリアちゃん! 次の目標? が見えて来たよぉ!?」

 

 ただ1体(ひとり)楽しそうなエマが、キャッキャと前方を指差す。

 左後輪が2本ほど崩れた壁から外側へはみ出したりしたが、それ以外には特に問題は無い。

 

 カーブを曲がる努力をしたのにこのザマと取るか、ちゃんと操舵したからこれで済んだと取るかは、各々の感性に任せることとする。

 

「……なあ。どの辺で停めるんだ? まさか、このまま突っ込むとか言わないよな?」

 

 最初の要塞に共に突っ込んだ仲のサラが、なんだか顔色が悪いような様子で私に顔を向ける。

 知っていることを事更に聞くとは、なかなかに良い根性である。

 

「ご安心下さい」

 

 私は少しだけ彼女に顔を向けて微笑むと、すぐに視線を前方に向ける。

 どういう訳か、私がもう一度口を開くまで、車内を静寂が支配した。

 

「車内には衝撃は有りませんので」

 

 障壁装甲車は、ガワを障壁で取り繕い、魔力にモノを言わせて疾走するハリボテである。

 座席どころかまともに捕まるような物も無いが、車内……障壁内には私の生成した力場に支配されている。

 だからこのまま突っ込んでも急停車しても、なにも問題は無いのだ。

 

 聞かれていないし面倒だし車体の操作に忙しいので、私は説明しないが。

 

「はあ!? なんだその良く理解(わか)んない理由は!? 根拠はなんだよ!?」

「ふっ、不思議と加速度を感じないのは体感しているがっ! そんな事よりもっ! 色々とお前のプランが見えないのが怖いのだがっ!?」

「……ついてきたのは失敗だったかなー」

 

 自信満々の私の言葉に、口々に不満をぶつけてくる仲間たち。

 アリスのは、まあこちらも何の説明もしていないし、ここは寛大に聞き流す事に決めた。

 カーラはなんとなく力場の作用を感じているらしいが、その口ぶりはまるで私を怖がっているようで失礼極まる、よってこれも無視する。

 サラに関しては今更遅いが、指摘するのも野暮なのでこれもスルーだ。

 

「マリアちゃんマリアちゃんっ! やっちゃえぇ!」

 

 エマだけが、私の背を押すように、楽しそうに声を転がしている。

 ……何も考えていないしただただ派手に暴れたいだけなのだろうが、まあ、そこを突付くのもそれこそ野暮であろう。

 

 決して現実逃避ではない。

 

「エマっ! 余計なことを……」

「了解しました。突入します」

 

 カーラの慌てる言葉を遮り、私は宣言する。

 その後には言葉にもなっていないような悲鳴や怒号、笑い声が車内を跳ね回るが、無視して私は車体を加速させる。

 行く手では、こちらを確認して飛び出してくる者や、要塞の各所から魔道具らしき何かを構えている兵士たちの姿が確認出来る。

 

 彼らが何をしようとしているのかまでは想像しか出来ないが、せいぜい個人携行の普通の武器の類では、私の障壁を抜くことは出来まい。

 よって、此処での対処もまた、これまでに何度か遭遇した歩哨の兵士たちに対するものと、基本は同じである。

 

 要するに。

 

「あー……。可哀想に、肉片が増えただけだなあ」

 

 ぼそりと、サラが呟く。

 速度を増しながら、私たちを乗せて、障壁装甲車は敵の只中に突っ込んでいく。

 

 私は今まで通りに気楽に、兵士たちを巻き込みながら、要塞への突入を果たす。

 

 

 

 調子に乗って要塞に突入した私たち……を乗せた装甲車は、その鋭角でイカツい鼻面で要塞内の壁やら柱やらヒトやらを粉砕しながら突き進み、進みすぎて気が付けば。

 

「……っこの、バカマリアあああっ!」

「だからお前の運転はイヤだったんだっ!」

「……ここまで来たら、もう笑うしか無いねえ」

 

 要塞を完全に突き抜け、反対側の通路からも微妙に外れて飛び出した私たちは、車体ごと宙に投げ出されていた。




マリアには、もう何も操作させないほうが良いかも知れません。
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