迷子のマリア   作:naow

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未だ道行きの途中、エマは健在。ここまで移動やら何やら有りましたが、マリアは大丈夫なのでしょうか、色々と。


調子に乗りました

 調子に乗って敵……うん、まあ、敵で間違いないか。

 その敵の要塞に突撃を敢行し、勢い余って反対側まで突き抜け、20メートルはあろう空中から落下した私たち。

 

 突然目覚めた新能力「力場」を発生させていたので、誰にも怪我ひとつ有りはしない。

 

 元々それくらいの高さなら落ちた所で怪我するような仲間は居ない――ニナは普通の人間だから除外するし、そもそも彼女はこの場には居ない――が、そんな事は些事である。

 ……力場についても、なんとなくうっすらと、先代に教わった気がしなくもないが、これもきっと気の所為だし些事だろう。

 

「……マリア、お前は今後、ひとり乗り以外の乗り物は禁止な」

 

 綺麗にひっくり返った障壁装甲車と力場を解除すると、あらかじめ把握していた私以外は皆頭から地面に落下する。

 しれっと綺麗に着地した私を見上げながら立ち上がりつつ、アリスが意味不明な事を言ってきた。

 

「私はただ、皆さんのお役に立ちたかっただけなのですが?」

 

 小首を傾げて見せれば、アリスの目がじっとりと半分閉ざされる。

 

「だったらせめて、周りの意見は聞き入れろよ。止まるどころか速度は上げるわ、飛び出しそうで踏みとどまってた様に見せ掛けて、結局飛び出すわ。魔力炉(しんぞう)が保たないんだよ」

 

 そしてその口から飛び出すのは、表情から察した通りの愚痴だ。

 魔力炉(しんぞう)が保たないとか、魔力炉にカビでも生えているのではないかと思えるくらいにガサツな人形が、良くも口に出来たものだ。

 

「おや? 必要でしたら、予備の魔力炉のご用意は御座いますが? 幾つくらい、身体(からだ)に括り付けましょうか?」

「嫌味だよ理解(わか)れよ。つか、理解(わか)って言ってんだろお前。幾つ括り付けるとかお前、私を爆弾かなんかにする心算(つもり)か」

 

 面白くもない言葉でからかってやれば、珍しくも流れるような文句が飛び出してきた。

 時々面白い反応を返してくる人形である。

 

「普段から、気に食わないものを探しては突っ掛かる爆弾のような存在でしょうに」

「誰が誰にそんな事したよ。お前の認識はどうなってんだ」

 

 いよいよ不機嫌な表情で私を睨むアリスだが、私はそれほど的外れな事を言っただろうか?

 多少の誇張は有るかも知れないが、割と的確なアリス評だと思うのだが。

 

「あれぇ? 今度はアリスちゃんが先に行くのぉ?」

 

 私たちのギスギス和やか会談を眺めていたエマが、ちょこちょこ寄ってきてアリスを見上げる。

 別にそんな意図は無いのだろうが、アリスが魔力炉の予備やらを身体(からだ)に括り付けて要塞内に突っ込んでいく様子を想像してしまい、私は小さく溜息を()く。

 

「いや、エマちゃんに任せるよ。……なんだよマリア、お前何笑ってんだ」

 

 少ししゃがんでエマに視線を合わせながら答えつつ、そのまま顔だけ私に向けて文句を投げてくる。

 マメと言うか小器用と言うか。

 

 呆れた私の白けた視線とアリスの半眼がぶつかり合っている間に、エマが動く。

 

「ホントに良いのぉ? 私も本気は久しぶりだし、もうちょっと遊びたかったんだぁ」

 

 にこにこと機嫌良く足を踏み出しながら、その周囲に渦巻くのは本当に制御出来ているのか疑わしい、エマを中心に渦を巻く凶悪な魔力。

 質量さえ持ち合わせているのでは無いかと錯覚してしまう。

 

 思わず腕を上げて顔を守る程の光景は、唐突に凪いだ。

 

「それじゃあ、みんなはちょっと下がっててぇ? コレも久しぶりだから、ちゃんと出来るか判んないんだぁ?」

 

 私たちを振り返りながら、エマの周囲に、5つの光球が浮かび上がる。

 先程感じた魔力は鳴りを潜めたかに見えたが、それは結局5つに分かれてエマの周囲を回遊しているだけだ。

 抑えても居ないし、隠す事もしていない。

 

 そして、待つ気も無いのだろう。

 

 私はたちは恐らく同時にそれに気付き、全員が大きく飛び退いた。

 ひとつひとつに、最初の要塞でエマが見せた爆発(あれ)を上回る魔力が感じ取れたのだ。

「……おや、これは?」

 本気で距離を取り、その上で気合を入れて障壁を立てねばマズい、そう感じた私は、だが、飛び退いた先で上手く姿勢を整えられずによろける。

 

 本気の障壁展開から続く移動と破壊の道行き、挙げ句に障壁装甲車で調子に乗った私は、気が付けば魔力がそれなりに減っていたらしい。

 と言うか、それこそ最初の障壁展開で大部分持っていかれて居たのだろう。

 

 エマが動き始めるのを視界に収めながら障壁を展開してしまった私は、身体強化どころかそもそも制御するための魔力まで障壁に注いでしまったらしい。

 ……これは流石に、私の旅路も終わったのかも知れない。

 

 展開した障壁が、揺らぐ。

 

「この馬鹿が! だから調子に乗るなと言っておるのだ、いつも! いつもだ!」

「長丁場だって理解(わか)ってんだから、ペース配分くらい考えろ、このスカタン!」

 

 左右から肩にそれぞれの手と、背中を押す叱咤に見せ掛けて叩きつけられる今までの不満の声が私を支える。

 カーラは頼れる私の魔力タンクと言う認識は有ったが、まさかアリスまでもが私に魔力を供給してくるとは。

「呆けているヒマが有るなら、さっさと障壁を展開しろ! 私も補助するから!」

 切羽詰まった顔のカーラに、私はすべきことを思い起こされた。

「感謝はしますが、謝罪はしませんよ?」

 相変わらず重くて扱い難いカーラの魔力と、やや軽いもののしっかりとした芯のあるアリスの魔力を練り合わせて、私は13層の障壁に流し込む。

 

「いや、謝罪ってほどでなくても、軽く頭を下げるくらいはしろよ。なんなんだよお前は」

「……お前らホント、仲良いよな?」

 

 アリスの呆れ声と、背後からはサラのある意味感嘆の声が私に耳に届く。

 

 そんな私の眼前、障壁の向こうでは。

 要塞の外壁が光球に押し退けられるように大穴を開けるように崩壊していた。

 

 未だ、光球自体は爆ぜてもおらず、ただただ直進するだけで、それもまだひとつだけ。

 

 残りの光球はまだエマの周囲に待機しているというのに、唯のひとつだけで、見える範囲の壁どころか剥き出しの要塞内部も大きく崩壊している、その様子に私は言葉も無い。

 なにしろ、まだ。

 

 エマの()()は、始まってもいないのだ。

 

「……かっ、カーラ! 『霊廟』へ! 急いで私たちを回収して下さい!」

 

 なんとなく見惚れていた私は、ハッとして、傍らのカーラへと言葉をぶつける。

 ()()が全部弾けたら、流石によろしく無い、そんな悪寒が背を伝うのだ。

 私の意図を汲み取ったカーラは彼女が持っている「扉」を設置し、急いでその中へ飛び込む。

 

 そして、その中から物体引誘(アポーツ)の魔法を駆使し、まずはサラを、そしてアリスを。

 最後に、爆発の光を網膜に焼き付ける私を、「霊廟」の中へと引き込み、急いで扉を閉めた。

 

 私たちの居た場所は、さっき張った障壁はどうなったのか。

 当のエマは、果たして無事なのか。

 

 気になることは色々と有るのだが、襲い来る恐怖から逃げられた安堵に。

 私たちは少しの間動くことも出来ずに、ただ放心するのみだった。




想定が不足、準備も不足、仲間の協調も活かせない。総じて修練不足です。
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