「あー? なんか、数字とか色々出たんだけど? どこをどうすりゃ良いんだコレ?」
「数字系は変に弄らないで下さい。一番下に実行と言う項目がある筈ですので、それを押すだけで大丈夫です」
「はあん? だったらそれだけ出せば良いだろうに、親父殿ときたら……って、ぎゃあああ! こっち見るな!」
「迷って声を掛けてきたのはそちらでしょうに……。お気になさらずとも、胸囲についての話題は今後避ける程度の分別は御座いますので、御安心下さい」
「誰がまな板だコラ! お前、後で絶対泣かすからな! 覚えとけよ!」
説明を聞いているのかないのか、取り敢えず喧しいことこの上ないサラ。
アリスやカーラに同情の目を向けられている哀愁の人形は、今ではすっかりと水槽の底である。
本当であれば使う
なんとなく共闘の流れになっただけでこの先も共に旅をするのか不明だったし、本心で言えばあんまり仲間を増やしたくはない。
しかし悲しい事に、私が望まないことは良く起こる旅路である。
なんだかんだと他のメンバーもあっさりと受け入れているようだし、ニナに害をなすような性格でも無さそうだ。
エマがどう反応するかが気になっていたのだが、そちらも特に問題が起こりそうな気配も無い。
仮に強化後に私たちと離別することになっても問題は無いし、敵対すると言うなら私たち全員で掛かればどうとでもなるだろう。
と言うか、エマを出せばそれで終わる気がする。
エリスの安全確保の為に国ひとつの軍組織に深刻なダメージを与えよう計画が進行するのなら、他は些事と言っても差し支えは有るまい。
「マリア。エマのあの魔法の威力の算定が出来たぞ。計算上は、現状のお前でも障壁を展開し続ければ、なんとか耐えられるだろう。必要な枚数は、お前の最硬の障壁で換算して、98枚だ。問題無いな!」
「大問題ですよ、馬鹿ですか? 今回のように、さっさと逃げ出したほうが余程早いでしょう」
半日近い修復時間を擁するエマはともかく、サラも結局はバージョンアップの兼ね合いで1時間は必要となってしまったので、私たちは思い思いに暇をつぶしていた。
私は物思いに耽り、隙あらば飲酒のアリスはウォッカを呷り、そしてカーラは何やら黙っていると思えばそんな計算をしていたらしい。
具体的な枚数を聞かされた私は即座に噛み付き、アリスはウォッカを吹き出しそうになって
調子に乗ってしまった私はエマとともに休息、という事になっているが、実は食事とマジックポーションで魔力自体の回復は終わっていたりする。
今回魔力切れ寸前まで追い込まれたのは、障壁装甲車の移動の為に魔力を使い続けた事と、同時にその車内に力場を発生させ続けたのが
移動も力場も、考えてみれば常時魔力を放出しっぱなしだったわけで、その前に爆散障壁や障壁の全力展開などもやっているのだから、さもありなん、と言うモノである。
使い慣れない魔法を考えなしに使うとこうなる、と言う良いサンプルだ。
「私の全力障壁が、およそ100枚も必要? エマの広範囲爆破で9枚持っていかれていると言うのに、エマの全力魔法相手だと11倍も必要だとか。余力が完全に無くなります。味方の攻撃を防いで瀕死とか、笑えないのですが?」
「お前ホント、良くエマちゃんに勝てたな……?」
100枚も障壁を割られては張り、という情景を想像して、私は溜息を漏らす。
アリスの反応に関しては毎度の事ながら、完全に同意するしか無い。
3シリーズ化とレベルアップで強くなったとは言え、エマの強化度合いは少しおかしいのでは無いだろうか?
「なあに、障壁魔法の構築法の見直しと、更なる最適化をすれば良い。爆砕障壁と同様に、最初からある程度の枚数を纏めてしまうとか、な。単純に50枚纏めて2層展開すれば、生き残れる計算だぞ?」
「爆砕障壁ですらかなりの魔力消費なのですが? 全力障壁を100枚同時展開なんて、今の私では不可能なんですが? 理解出来てますか? 昆虫には難しいですか?」
今の私では、全力で展開させても良いところ20枚と少し、30枚すら届かないだろう。
やったことはないが、今日の13枚展開だって余力の有る範囲とは言え、割りと危なかったのだ。
……言われて考えてみれば、割りと早い段階で魔力を大量に消費していた事が判明してしまった。
「誰が昆虫だ! 折角お前の為に考えてやっていると言うのに!」
私の言葉に全力で反抗してくるカーラだが、それに対して余計な世話だ、と返すのは容易い。
だが、魔法の知識の深いカーラの協力を得られるのは正直有り難い。
罵声を返すのも素直に礼を言うのも憚られた私は、結局は苦い顔で黙り込む。
「その、ちゃんと聞いたことが無かったのですが、マリアさんはエマちゃんと戦った事があるんですか?」
そんな私とカーラの楽しい会話に、何故か一緒にサラの修復を待つニナが小さく右手を挙げた。
質問の意思表示として判り易いが、それはこの世界でも流行っているのだろうか?
私は日本人特有の行動かと勝手に思っていたのだが。
「ええ、有りますよ。信じ難いことに、私が勝利しました。もちろん理由は有るのですが……私も成長しているとは言え、エマもまた、当時よりもだいぶ強くなったのです」
そんな事はさておいて、私は素直にニナの質問に答える。
理由については詳しく言ってもアレなので、当時のエマは今より弱かったから、で済ませた。
当初は驚いた顔だったニナは、何やら考え込むような仕草を取ってから、私に向かって口を開く。
「人形も、成長するんですね?」
私はニナの眼差しを受け止めながら、その言葉に潜むオカルト感に脱力しそうになる。
カーラは何やらしきりに頷いているが、アリスは私と似たような感想らしい。
当然ニナは私が思っているような意味で質問しているのでは無いのだろうし、何よりもその目は真剣だ。
「はい。経験を積み、己の糧とし、成長する。それは、私たちも同じです」
だから、私は真面目に答えた。
見た目は一切成長しないだとか、生物で言う成長とは意味合いが異なるとか、そういう事は言っても特に意味も無いだろう。
意味も無い事ではあるが、ふと、気になることが出てきた。
ニナは私を「さん」付けで呼び、一方でエマは「ちゃん」付けである。
「……ただし、見た目は手を入れない限り、変わることは有りません。例えば私とエマ、それにサラは姉妹ですが、誰が一番年上で誰が一番若いか、判りますか?」
私の質問に、ニナは腕組みして考える。
基本的に頑張り屋さんな元気娘だが、その上でとても真面目な彼女らしくて微笑ましい。
アリスやカーラもそんなニナの様子が興味深いのか、黙って見守っている。
「ええと、マリアさんがいちばんお姉さんで、サラさん、エマちゃんの順番ですか?」
真面目で素直なニナは、理想的に間違えた。
もう、それすらも可愛らしい。
見守る私たちはほっこりである。
「残念ですが、実は私が一番若いのです。サラが一番上で、エマはその次ですね」
ロールアウト順だと実はエマが一番の年上なのだが、型番で言えばサラの方が上だ。
ややこしい説明を避けて、
「なので、胸が小さいくせにあんな露出狂寸前な格好をしているサラが、私たち姉妹の中では一番の年増と言う事になるのですが、可哀想なので触れないであげて下さいね?」
エマと違って意識は有る、つまり私たちの会話が聞こえているが動けないサラを、私は此処ぞとおちょくる。
付き合わされているニナは、なんとも言えない気まずい表情で苦笑いし、私から目を逸らした。
背後では、水槽の水面が僅かに揺れたような気配が、したような気がしなくもない。
アリスとカーラは一転、ドン引きの様相である。
「あ、あー、それで言うなら、私はマリアより若いんだよな?」
「ええっ?」
サラが哀れになったのか、それともニナへの助け舟か。
アリスが微妙な半笑いで口を開くと、ニナは驚いた様子でアリスへと顔を向けた。
まあ確かに、見た目で言えば私と同じくらい、つまりはエマより年上に見えるだろう。
「ちなみに、私が最も年上だな。意外であろう?」
「あ、それはなんとなく判ります」
続いてカーラが、何故か自信満々に胸を叩く。
だがニナはあっさりと受け流してしまい、途端にその表情は情けなく曇った。
「……何故だ」
悲しそうなカーラだが、私は何も言葉を掛けないし、アリスもこれはフォローが難しそうだ。
身長はもうどうしようもないから、せめて口調を変えるとか、若く見える服装に変えるとか、改善案は出なくもないがそれを告げる訳も無い。
エマの目覚めとサラの修復……調整完了を待つ私たちは、和気藹々と時間を過ごすのだった。
エマの時も年齢弄りをして、逆鱗に触れていませんでしたか?