「さァてさて、どうしてくれようかねェ?」
すっかりと修復と改良を済ませたサラが、きっちりと――着ているんだか居ないんだか
アリスもカーラも、なんとも言えない可哀想なものを見る目を私に向けては居るが、助けてくれる様子はない。
ニナは震え上がっているが、まさか彼女に縋るわけにも行くまい。
私は正座しながら、怒れる人形と頼りない仲間たち、そして巻き込まれた一般人を見上げるしか無い。
「んでェ? なん
サラはエマの逆で、怒ると口調が少し間延びするのか。
呑気に考える私だが、実はそれほどのんびりと構えて居られる状況ではない。
どうやら私のおちょくりが過ぎた所為で、サラが随分とお冠である。
うん、これはちょっと反省が必要かも知れない。
「そんでェ? だァれが……年増だってェ?」
サラの半眼が、怒りで底光りしている。
端的に言って、超怖い。
女性相手に年齢弄りをする場合は、色々と覚悟が必要らしい。
その後振り下ろされた拳骨は、私も人形故に痛みを感じることは無かったが、頚椎に異常を感じるほどの打撃力であった。
「……それでは、次の砦の破壊はお任せします。それを終わらせたら、取り敢えず今日の作業は終了で良いでしょう。今晩にはエマも回復しているでしょうし、私も同様です」
どうやら入れ替わりでメンテナンスポッドを使用しなければならないらしい私は、軽く首に手を添えながら言う。
各所に生じていた僅かな歪を修復し、更には3シリーズの
……いや、単なる怒りの一撃であったのだが。
当然のようにサラの型番はZa-204t3と変化しており、エマやキャロルと同様である。
ついでのようにレベルは848だったのが912となっており、アリスと同じになった。
私は908なので、私より強いということになる。
格下の、それも妹を本気で殴るとか、おとなげない姉だ。
「へえへえ、まあ適当にボチボチやるよ。なんだか調子が良いし」
その非道い姉は、頭を掻きながらどうでも良さそうに返してくる。
レベルも上がった上に
当人はまだ、その理由に気付いた様子は無いが。
「砦ひとつくらいなら、我々でどうにでもなるだろう。お前は……自業自得では有るが、負傷もしているのだ。さっさとポッドに入れ」
上がった声の方に顔を向ければ、物凄く残念そうな顔のカーラが私を見ていた。
……言いたいことが有るのなら、ハッキリと言えば良かろうに。
「モノの言い方以前に、そもそも言わなくても良いことってモンがなあ……。あれは庇えないよ。反省しながら、ニナを手伝って晩御飯の用意でもしてて」
アリスもまた、同様に残念なものを目にした表情で溜息を
まあ、私も自分が悪いのは
首の調子もなんだかおかしいし。
「それでは、我々は出る。……養生しながら、色々と反省してくれ」
カーラは最後まで表情を崩さず、しかし目を伏せて私に背を向けた。
「んじゃ、行ってくるわ。マリア、まだ許してないからな?」
「あー、許さなくて良いと思うぞ? コイツが反省するなんて、とても思えないし」
対して、すこぶる笑顔のサラはなんだか恐ろしいことを口にし、アリスはそれを煽るようなことを返して、それぞれ私に背を向ける。
複雑な胸中の私は、3体が部屋を出ていくのを、黙って見送ることしか出来ない。
「……マリアさん、みんなが帰ってきたら、いっぱい謝りましょうね?」
傍らのニナが、困った顔で私を見上げていた。
どう返したものか悩んだ私は、取り敢えず、その頭を優しく撫でるのだった。
することもなくなり、マリアが素直にメンテナンスポッドに横たわった頃。
カーラを先頭に、3体プラス6体の操り人形は荒野となった無人の地を走り抜け、途切れた国境線代わりの防護壁へと辿り着いていた。
カーラが先頭なのは、彼女の足が一番遅いので合わせている事と、索敵能力が最も高いという事情もある。
「次の砦ってのは、どれくらい離れてるんだ? マリアのアレはもうご免だけど、ちんたら走るのも時間が掛かりそうだね」
「いんや、アレはアレで、慣れたら楽で良いんじゃね? 問題は、全然慣れそうに無いってトコで」
「だとしたら、問題しか無いではないか」
走りながら、彼女たちに緊張感は無い。
彼女たちの目的は軍事拠点の破壊だと言うのに、そのための戦力の40%――操り人形まで含めれば、およそ30%――が減少しているというのに、まるで気に留めた様子もない。
「次の目標は少し遠いな。まだ探知にすら引っ掛からんし、
6体の操り人形を並走させながら、カーラは前方の索敵を強化させる。
しかし、その魔力視には目標の建物は捉えられず、探知魔法も同様であった。
「砦は見えんが、8キロ先に歩哨だ。数は12。どちらかと言えば、エマの爆発の振動でも伝わったのか、爆発光でも観測したのか……いずれにせよ、調査も兼ねているのだろう。今までに比べれば数は多いが、問題になる相手ではないな。どうする? このままぶつかるか?」
目標物は発見出来なかったが、ついでで見えたものを音声に変えて報告する。
特に隊列を変える必要も無く、カーラの操る人形か、なんならカーラ本人が暴れても圧勝できる、そういうレベルの数と相手である。
にも関わらず、わざわざ後方の2体に意見を求めたのは、暴れるのが嫌だ、とか、そういう事ではない。
「はっはぁん? 道は掃除しとかなきゃ、一般の皆さんが困っちゃうだろうねえ」
「……こんなトコ通る一般人は居ないんだよ、ってのは野暮かい?」
後ろの狂戦士たちが軽口を叩いているが、どうやらやる気のようだ。
積極的に暴れてくれそうなのが居るのだから、自慢の操り人形を率先して汚す必要も無い。
「では、頼めるか?」
カーラの確認の声に、返事代わりにアリスとサラはそれぞれ追い越しざまにカーラの肩を叩き、そして急加速するその背中はあっという間に小さくなった。
「……なんともまあ、うん、素直なのは良い事なのだがな?」
流石にもう届かない声を漏らしながら、カーラはペースを落とさず走る。
アレらがやるのは掃除というよりも、ゴミを撒き散らす方だろうに。
そう思ったカーラだが、今更そんな事を言葉に変えた所で意味も無い。
楽しそうに駆けて行った2体が、不必要に道を汚していなければ良いのだが。
血溜まりやら肉片やらを踏みたくないカーラはふと、別の事が気に掛かった。
――今夜はトマトソース系の料理は避けて欲しい。
今更とも思える願いを込めて見上げた空はどこまでも青く、呑気なカーラの望みを受け止めているのか居ないのか不明である。
だが、カーラはその希望を「霊廟」の中にいる
普段なら問題なくそのささやかな願いは叶うのだろうが、今日に限っては「
ニナからそんな話を聞いたら、マリアは嬉々としてトマトと挽き肉をふんだんに使った料理を作らせるだろう。
アレはそういう女だ。
見上げていても愚痴か溜息しか出ないと悟り、カーラは前方に視線を戻す。
「ニナがマリアに毒されなければ良いのだがな……」
今晩の食事よりも深刻な心配を抱え、カーラは思わず溜息を漏らすのだった。
マリア、晩御飯のリクエストですよ。