迷子のマリア   作:naow

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暇を持て余すと碌な事をしない、でお馴染みのマリアです。


優しさは罪

 メンテナンスポッドから出てみれば、エマよりも早かった。

 エマの損傷の深さに改めてゾッとしながら、私は自分の状態の確認を行う。

 

 レベルに変化がなく思わず舌打ちしてしまうが、私は悪くはあるまい。

 

 細かい部分のチェックを行ってみれば、まるで抗議文のように直近で損傷を受けた場所とそれに対する対処、そして修復完了の文字が並んでいた。

 悪いのは暴力を振るったサラであって、文句はそちらに届けて欲しいのだが……まあ、無理な注文か。

 

 数値やら何やらを見るに、首周りが若干強化されたようで結構なことである。

 何が理由で、そんな事になったのやら。

 

 ……サラの拳は無事だったのか、なんだか心配になってきた。

 

「あっ、マリアさん! もう大丈夫なんですか?」

 

 自分のステータスを眺めながらどうでも良いことを考えていたら、いつの間にか食堂に着いていた。

 元気な声に顔を向ければ、ニナがキッチンから顔を出している。

 

「はい、問題は有りません。ニナは、お食事の準備中でしたか?」

 

 ステータス群の数字やらを視界の端に追いやりながら、私は健気な元気娘へ声を掛ける。

 

 そう言えば少し前から、何故かニナを見ているとこう、妙な罪悪感に苛まれていた。

 この気持ちの正体は、一体なんだろうか?

 

 ニナの向こう側に、こう、背伸びして頑張る少女の姿が見え隠れしているのだが……私に何か縁のあるモノなのだろうか。

 ……いつかイリーナに出会うことがあったら、素直に謝罪することにしよう、色々と。

 

「ええと、晩御飯はどうしようかなって考えてたんです」

 

 ニナの言葉が、私を現実に立ち返らせてくれた。

 エマを回収し、サラを怒らせたりしたのが昼過ぎだったか。

 それから私がメンテナンスポッドに入っていた時間を考えても、まだ夕刻までは時間が有る。

 ニナはいつも、こんな風に私たちの食事について考えてくれていたのか。

 私など、食事時になって適当に考えていた。

 

 これがプロとの差なのか、単に私がズボラなだけなのか、いまひとつ判断がつかない。

 

「ふむ……そうですね」

 

 ニナの負担を減らす役に立つかは微妙だが、私も顎先に指を添え、少し考える。

 カーラ以外は肉を出しておけば文句は無いだろう。

 そのカーラだって、別に肉が嫌いな訳では無い。

 殊の外、野菜が好きだと言うだけで。

 

 では、それをニナに伝えるだけで良いのか?

 

 私は心のなかで頭を振る。

 肉料理と一口に言っても、多岐に渡り過ぎる。

 煮る、焼く、蒸す。

 それぞれが更に枝分かれするように料理は広がる。

 

 私が小難しく考えた所で、良案など出る訳がない。

 

 では、単純に私が食べたい物を、と考え口を開きかけた所で、ぴこんと、頭の中で何かが瞬いた。

 

「……そうですね、エマも夕食までには目を覚ますでしょうし、外の3人はもっと早く戻るでしょう。皆、今日は頑張りましたので、彼女たちを労う料理が良いでしょうね」

 

 ニナに見せる顔だけは、優しく見えるように苦心する。

 

「それは良いですね! 賛成です!」

 

 ニナの笑顔が輝く。

 素直で、とても良い子だ。

 

「トマトを使った肉料理、何か思いつきますか? 肉は少し細かくても良いかも知れませんが、特にこう、というイメージが私には無いもので」

 

 血のようなスープに浮かぶ肉片、的なイメージを、出来る限りやんわりと伝える。

 作り手に罪悪感を持たせてはいけない。

 

「トマトですか? さっぱりした感じが良いでしょうか?」

「いえ、彼女たちは運動している訳ですし、濃厚な方が喜ばれるでしょう」

 

 考えて私を見上げるニナの思考を、私は直接的かつ強引に誘導する。

 ドロリとしている方が、血液っぽいではないか。

 

「うーん、そうなると……お肉を軽く炒めてから、トマトで煮込んでみましょうか? 味付けは、少し濃い目くらいが良いですかね?」

 

 考え込んだニナが、とても理想的な方向に行き着いた。

 私はガッツポーズをキメたい衝動を抑え、にこやかさを崩さずに頷く。

 

「そうですね、少し濃い目の味付けで、サラダと、今日はバゲットも用意しましょう。なんだかんだで皆良く食べるでしょうから、多めに用意しても良いかもしれません。私も、何かお手伝いしますね」

「本当ですか? すみません、本当は私がひとりで準備しなきゃなのに」

 

 私が手伝うと伝えると、笑顔を輝かせてすぐ、申し訳無さそうにしゅんとしてしまう。

 頑張りやさんらしい健気さだが、少なくとも今日は、私に気を使う必要は皆無である。

 

「お気になさらず。私もニナと同じで、皆に美味しい料理を食べて欲しいのです」

 

 私が頭を撫でると、ニナは嬉しそうに微笑んだ。

 

 私が主犯でやらかしたらカーラやアリスに散々文句を言われるだろうが、ニナが自発的に作った料理なら文句も言えまい。

 エマやサラは、そもそもそんな細かな事を気にすることは無いだろ……いや、サラはちょっと怪しいか?

 

 まあ、私の思惑というか予想というか、どうせカーラ辺りは「今日は血を連想させる料理は勘弁だが、霊廟(なか)には私も居るし、変なことを言って刺激したらマズい」位のことは考えているだろう。

 

 きっとアレだ、「押すなよ?」とか言う、あのアレ。

 折角なので、その望みを叶えて差し上げようと言う、小粋な計らいである。

 

 私の優しさとニナの純粋さに、ゲンナリと料理を楽しんで欲しいものだ。

 

 

 

 ニナを手伝い、食材を備蓄庫から出したり洗ったり切ったり、2人でキャッキャすること1時間程度。

 まずはエマが目を覚ました。

 

 すぐにステータスのチェックを行いたかったのだが、私たちが料理の準備やらをしているのを見て自分も、と騒ぐので落ち着いてのチェックは出来ない。

 盗み見ようにも、エマのレベルは私より高いのでさっぱり()えない。

 

 私はこの先、エマのレベルに追いつくことは無いのであろう。

 

 そうしてバタバタきゃあきゃあと3人……ひとりと2体で料理に取り掛かった所で、外に出ていた3体が帰ってきた。

 まだ夕刻までは間が有るが、まあ、こんなものであろう。

 

 3体とも血の汚れよりも何故か煤の汚れが目立ち、衣服や装備のあちこちに破れや綻びがある。

 しかし、肉体的に深刻なダメージは、見た限りでは無さそうだ。

「……強敵でも居たのですか?」

 気になって問い掛けてみれば、3体はそれぞれ目を向けあった。

 

「敵は問題無かったよ、敵は、ね」

「むしろ身内に敵が居た、みたいな?」

「それはお前のことだろう。考えなしに投げおって。我々とて被害者なのだぞ」

 

 何やらぶつぶつと言い合っているが、まあ、きっと楽しかったのだろう。

 おおよそ何が有ったかの察しは付くが、私は優しいのでスルーである。

 

理解(わか)りましたから、3体(さんにん)とも、とりあえずポッドに入って下さい。その様子だと、そこそこダメージを負ったようですからね」

 

 私が言うと、3体はギスギスした視線を向け合うのを辞め、素直にメディカルルームへと向かったようだ。

 

 ……予想だが、アリスはカーラの指示通りに例の爆弾を使ったのだろう。

 だが、サラが至近距離で炸裂させたとか、そんなところでは無かろうか。

 

 まあ、勝手な想像でしかないし何の根拠も無いのだが、とりあえず、私は食堂を出るカーラの背中に、小さく「引率ご苦労さま」と声を掛ける。

 振り返ったカーラの疲れ切った顔が、とても印象的だ。

 

 心優しいと界隈で評判(であろう)私は、疲労の極みに有る仲間たちの為に、腕を奮ってご馳走を提供しよう、そう心に決める。

 実作業の殆どはニナだとか、そんな事はどうでも良い。

 

 出来上がった料理を見た仲間たちの反応が、今からとても楽しみだった。




……本当に、碌な事をしませんね……。
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