皆で食事を楽しみ、次の団体行動は明朝と決め、それぞれが思い思いに行動を開始した。
要するに解散した訳だが、私は少しばかり思う所があってカーラに声を掛け、修練室へと足を向けていた。
「で? 相談が有る、等と言っていたが。お前が私に相談となると、魔法関連か? それとも、面白おかしい装備でも思い付いたか?」
修練室で私と対峙しつつ、カーラは静かに口を開く。
流石にそこそこの付き合いだ、私の相談事にある程度はアタリが付いていたらしい。
カーラは当てずっぽうか二択まで絞った
「話が早くて助かります。私は、魔法の
同じ様に静かに口を開けば、カーラは腕組みしながら受け止め、そして目を閉じて黙考する。
幸いなことに、私が返答を待つ時間は思ったよりも短かった。
「……お前という存在が良く
カーラの言葉を、私は静かに聞いている。
「お前が求めるのは、魔法を……他者の放つ魔法をも扱うことの出来る、文字通りの射出装置なのだろう? だからこそ、最悪は誰でも使用できる『現物』をも視野に居れている訳だ。……それは、エマのあの魔法を安全に使用するために、だな?」
背筋が寒気と衝撃で震える。
「
怖気を抑えて冷静を装い私が言葉を放てば、カーラは成る程と腕組みを軽く解き、右手の指先をそのほっそりとした顎先に添える。
魔法に習熟している事は知っているし、その
だが、私が取っ掛かりの
どうやらこの「霊廟」の新しい主には、私が思っているよりも相応しい者が就いたらしい。
「結論から言えば、どれであっても可能だな。
楽しそうに、カーラの顔が歪み、くつくつと笑いが漏れる。
「複数人でひとつの攻撃魔法を完成させる……魔法の有り様としては、何世代か退化している感は有りますが、ね。極端な話、エマが全魔力を込めた一撃を、私が、或いはカーラが発射台となって放つ事が目的になるのはその通りです。……エマの全力を一時的にとは言え受け止めるのに、どれほどの魔力が必要になるのか不明ですが」
「ふん、結果的に魔法が発動するのであれば、それで良いのさ。むしろ現在の魔法は戦略クラスならともかく、大前提個人で使うことが重要視されているからな。射出から弾速、果ては目標補足や追尾等を加味すれば、それだけで魔力はだいぶ喰われる。そのうえで威力を上げるとなれば、威力増加を加えて尚、個々人の魔力そのものに左右される。使い勝手と火力のトレードオフと言えば聞こえは良いが、これは果たして進化と言って良いのかな?」
私はただただ静かに、答える。
カーラは尚も楽しそうに笑い、
私自身の魔法の発射装置としての使用、という、もうひとつにして本当の目的にも、或いは気が付いているのかも知れない。
「なあに、真正面から受け止めて防ごう、と言う訳ではないのだ。正直エマの全力の威力なぞ想像出来んししたくも無いが、長距離であれば転移で良かろうし、爆発魔法であれば、どちらかと言えばある程度の上空で炸裂させたほうが威力も出せよう。……国攻めとなれば、実に有用だな?」
普段どれほど常識的に振る舞おうとも、人間含む他者に対して特に害意を持たないと言っても。
カーラの本質は、魔導士であり魔導技士なのだ。
そして支える精神性は、人間とは違う、人形のそれだ。
出来るとなれば、実現するために全力を注ぐ。
実行出来るとなれば、躊躇うこと無く実行する。
そこにヒトの倫理など無い。
「では、早速取り掛かろうか。たまに面白い事を言い出すお前は、やはり好きだぞ?」
常のカーラからは想像出来ない、若干の狂気を孕んだ笑みはまるで物語の魔王のようだ。
気付くと私は頼もしくも恐ろしいその微笑に一歩引き、両腕を抱くような格好で立ち尽くすのだった。
射出する方向、狙撃に要する座標、射出速度。
或いは転移させる際の目標点の設定。
それらは後付でどうとでも調整出来る。
それは、私とカーラの共通認識だった。
何よりもまず、大威力の魔法を受け入れて射出位置に収める……いわば弾倉及びチャンバーの設定だ。
単発ならば弾倉の必要は薄いのだが、エマのアレは5発だったし、この先どこで多数の魔法弾を撃つ必要があるとも限らない。
粗雑な設定ではいざ使用するとなった際に同時発射、となればまだ良い方で……最悪は手元で暴発してしまう。
それを防ぐには、どうするべきか?
「お前は空間魔法と時間魔法が使えたな? ならばそれを応用してしまうのが良いだろうな。喜べ、どちらかと言えば
カーラは気楽に笑うが、その時点で難易度がどれほど高いのか。
私は露骨に溜息を
なぜ
私が空間魔法及び時間魔法を覚えたのはあの小生意気な魔女、イリスが編纂した魔導書に依ってで、それがいか理解しやすい物であったと言っても、難易度はかなり高い。
確かに魔法弾の威力の減退や、時間経過による暴発を防ぐ意味でもそれらの技術は必要だろうが、軽く言われて出来るものではない。
「気軽に言ってくれますが、容易い作業では無いのですよ? 私にも使えるとは言っても、神経を使う作業であることに変わりは有りませんが?」
「なに、神経を使うのは作る過程の話だ。パッケージングしてしまえば、少なくとも時間魔法の初歩と空間魔法を使えるなら問題は無いさ」
私の愚痴を、カーラは颯爽といなす。
軽く言ってくれるが、その時点で、少なくとも魔法として使えるのは私とカーラに限定されてしまう。
エマもアリスも、空間魔法も時間魔法も扱えない。
サラは不明だが、扱えると考えるのは楽観が過ぎるだろう。
パッケージングさえ出来、それを応用して現物に転写してしまえば……我々のみならず、誰にでも使用できる魔法銃の完成だが。
「……まずは、構造を考えましょう。弾倉の方は、魔法弾の取り込み口とチャンバーへ送る出口の設定も必要ですし、チャンバーにも受け取り口と射出口が必要です。どちらも、それほど大きい必要は無いでしょう」
「そうだな……いや待て。大威力魔法は魔法式が単純、とは限らん。ある程度の容量は必要かも知れん。どのみち時間は停めてしまうのだから、チャンバーへ送り込む為の筋道を立てる式も必要だ。これはそのまま、チャンバーの方でも応用出来よう」
私とカーラは頭を突き合わせて、基本構造を組み上げて行く。
モデルを組みながら、しかし見えないのでは把握も難しいので簡易的に障壁を応用して簡単な箱型の構造を作り上げ、それらを組み合わせる。
「器用なものだな。障壁の扱いとしては間違っているとも思うが」
「まあ、これでも『墓守』として与えられた基本能力のうちですからね。この程度はお手の物です」
カーラの褒めているのか今ひとつ微妙な感想に、私もまたどうでも良い風に答える。
言われるまでもなく障壁の使用法としては間違っているとは思うが、そんなモノは今更である。
潜水艇やら装甲車やらを造るのに比べれば、まだしも……いや、あまり変わりはしないか。
弾倉とチャンバーの接続を見直したり組み直したり、そこに組み込む空間魔法やらを仕込み、それから時間停止の魔法を施す。
空間魔法を併用して範囲をきっちりと定めなければ、時間魔法は正しく組み込めない。
より正確に言うのなら、空間を閉鎖して限定的な、効果を指定できる範囲を明確にしなければ、時間魔法は「世界」に対して発動してしまう。
世界の時間を止めるなど、魔力がいくら有っても足りない。
そんなものを発動してしまえば、魔法は発動しないのに使用者の魔力は根こそぎ奪われ、身も蓋もなく言えば即死してしまうだろう。
私でさえ、魔力炉が一瞬で空になって機能停止に陥り、人工精霊代わりの魂を留め活性化するための魔力も失われるのだから、やはり死んでしまう。
時間魔法は発動範囲を限定して使うこと、これは魔法学の基本で、それこそが使用者を選ぶ理由なのだ。
時間の巻き戻しや加速も同様で、結局「世界」に干渉してしまえば生命に関わる。
私だって実験で死ぬのは御免なので、だからこそ、カーラの手を借りているのだ。
「うむ。空間閉鎖は完璧だ。給弾口も装弾口も問題無し。心配ならば、それらをまとめて別の空間魔法で完全に閉ざして、それから時間停止を掛けると良い」
「……成る程、事故防止ですね」
指示通りに組み上げると、チェックしつつアドバイスをくれる。
普段は呑気なビビリのクセに、こういう場面では頼れる存在である。
「……こうしてみると、やはり魔法化よりも現物が有ったほうが良さそうだな? 式が完成して安全に発動できるとなっても、時間魔法で消費する魔力が桁違いだ」
私が魔法式を組み上げているのを眺めながら、カーラは考え込むクセで顎先に指を添える。
「そうとなれば、どうしても時間が足りなさそうですね。明日の実作業には間に合いそうに有りません」
私は時間停止魔法が無事に空間魔法内で発動したことを確認しながら、息を
やはり魔力消費が膨大で、使用毎にこれほどの魔力を持っていかれては障壁どころか、いざという時の行動にすら支障が出兼ねない。
カーラではないが、やはり
「なに、ガワくらいなら一晩有れば事足りる。鍛冶師程堅牢には出来まいが、やっつけ程度なら私でも出来るさ」
弱気になった私に対して、カーラは余裕の笑みだ。
私は一段落終えた魔法の出来を確認しつつ、カーラに半眼を向ける。
「……今回は私からの頼みですから見逃しますが……金属類の備蓄状況はきちんと把握しているのですよね? 特に
もののついでで勝手に金属類を使用していることを突かれたカーラは、当たり前の様にあらぬ方を向き、決して私と目を合わせようとはしないのだった。
……路銀にもかなりの余裕が有る様子ですし、金属が必要なのであれば、また買えば良いのでは?