迷子のマリア   作:naow

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マリアに、意思とか考えとか、そんなモノが有るのでしょうか?


マリアの意思

 夜を徹して行われた、私とカーラの物騒極まる工作会。

 結論を言えば、それは完成しなかった。

 

 何故かと問われれば――。

 

 

 

「高速射出です。可能な限りの速度でまっすぐに飛ばす、これ以外には有りえません」

「いや駄目だな。先にも言った通り、炸裂系の魔法はその効果範囲が大きければ大きいほど、それぞれの規模に合わせて上空で炸裂させるほうが効果が大きい。何よりも、下手に高速で打ち出すと、それこそ目の前で炸裂しかねん。転移魔法と空間魔法等との組み合わせで運用するのが望ましい」

「射出体の保護を組み込めば良いのです。と言うか、そもそも炸裂系に特化してどうするのですか。アロー系、ボルト系、ジャベリン系、ブレット系等、そもそも飛翔する前提の魔法も有るでしょう。それらをより遠くへ、より早く撃ち出す事は、効率云々以前に、大いなる浪漫なのですよ?」

「浪漫と言うが、飛翔体であれば迎撃魔法を警戒する必要があろう。転移なら、それらを無視して攻撃出来るのだぞ?」

「迎撃魔法が追いつかない速度で連射出来れば問題無いでしょう。防御用の障壁であれば、飽和攻撃でも仕掛けて割ってしまえば良いのです」

「連射前提とか、どれほど魔力を使う気だ。無用な魔力消費を抑えることこそ肝要だろうが。無闇に魔力を浪費して死に掛けた事、忘れてはおらんだろうな?」

「あらかじめ脱着式、かつ大容量の弾倉を用意すれば良いのです。それだけで、どれほどの魔力消費を抑えられるか」

「準備に要する時間と魔力が馬鹿にならんだろうが。無駄に数を撃ち込むより、一撃で決められるならそれに越したことは有るまい」

「圧倒的手数による面制圧は、敵への心理的圧迫効果も有るでしょう。場合によっては、最初のひと当てで敵の戦意を折ることだって可能かも知れませんよ?」

「それこそ、敵のど真ん中でも鼻っ柱でも、いきなり転移してくる炸裂魔法の方が脅威だろう。私の魔法でも、そこらの兵士レベルならどれほど薙ぎ倒せるか。私自身の安全を考慮しなくても良いのなら、エマ程とは言わんが、それなりの破壊規模は作り出せるぞ?」

 

 途中までは仲良く? あれこれ言い合いながら組み上げていたのだが、射出部分を造る、となった際にいきなり衝突が発生したのだ。

 派手に魔法弾をぶっ放したい私と、堅実かつノーマーシーに炸裂魔法をお見舞いしたいカーラ。

 言い合いは同じ話題を幾度も繰り返し、つまりはどちらも譲らず。

 

 気が付くと夜が明けていた。

 

「……今からでは、どちらにせよ間に合わんな。ニナがそろそろ朝食を用意してくれているだろう。続きは今夜か?」

 

 深く息を吐き出し、カーラはどっかりと椅子に腰を下ろす。

 

「……そうですね。まあ、行動開始時点では魔導銃……魔法発射体の構想は有りませんでしたから、現状のままでも問題は有りません。……キッチンへ向かいますか」

 

 カーラの言葉に修練室の窓に目を向け、それが光量を上げていていることに気付き、私は不意に疲労感に襲われる。

 いったい何時間、不毛な口論を繰り広げていたのか。

 

 私もカーラも睡眠を必要としない、しかし趣味で惰眠を貪る同士なので、期せずして、私たちは窓を見詰めて溜息を落とした。

 遠くキッチンから、ニナが食事を準備している音が微かに聞こえる。

 

 他の仲間たちは、どいつも早朝に起き出すような生活習慣を持っていない。

 ……ニナ以外は、私と同じく人形の筈なのだが。

 

「……どうせ意見も纏まらん事だし、ニナの手伝いでもするか」

 カーラが投げ遣りに建設的なことを言う、そんな離れ業を見せつけてくる。

「……そうですね。お互い構想でも練りながら、ニナの助手を務めましょう」

 私もまたどうでも良い気分で、立ち上がる。

 

 まさかそんな不貞腐れの果ての手伝いが来るとは露ほども思っていなかったのだろう。

 ニナは私とカーラの来訪に驚き、その素直な感性は私たちにとっての一服の清涼剤となった。

 

 一方で私たちは、まさかのサラがニナを手伝っている様子に驚くことになったのだった。

 

 

 

 朝食を終えた私たちは、アイセスブルト国内の外れであろう草原に立っていた。

 危険なのでニナは当然「霊廟」内に残し、私とエマ、アリス、サラ、そしてカーラと6体の操り人形。

 

 総勢11体と気付けば大所帯、と言いたい所だが、半数以上はカーラお手製のお人形である。

 

「では、行きましょうか。運良く軍事施設でも有れば良いのですが、まあ、それ程上手く事は運ばないでしょうね」

 

 遠くを眺め、私が率先して口を開く。

 この先に有るのは、私たちにとっては敵とは言え、ただこの国に暮らしているだけの人々の街であろう。

 

 この国の上層部には思う所どころか、ハッキリと敵意は有る。

 だが、この国で生きている普通の人々には、むしろ同情の念さえ抱いている。

 

 周辺国に見境なく戦争を吹っ掛けるようなイカれた国で、公然とその姿勢を批判したりすればどのような目に遭うか。

 教育機関が有ったとして、またそこにはどれ程の層の人間が入学出来たとして、そこで行われる教育にはどのようなバイアスが掛かっているのか。

 

 私程度でも、真っ当であればあるほど生きにくい国であろう、程度は想像できる。

 

「……あんまり、普通に暮らしてる人たちには攻撃したくないんだよな。軍事拠点とか、そういったモノがあちこちに有る事を願ってるよ」

 

 アリスが暗い顔で私の隣に立つ。

 

「同感だね。向かってこないヤツを殺すのは、正直良い気分じゃない」

 

 爽やかな笑顔のサラが、アリスとは逆側に立つ。

 ……何故、私を挟んだのか。

 

 そんな私たちの前に出て、エマがくるりと振り返る。

 

「どうしたのぉ? この国の人たちが、エリスちゃんたちにちょっかい掛けてるんだよねぇ? だったら、この国は敵でしょぉ?」

 

 エマの理屈は理解(わか)りやすい。

 シンプルであるが故に、おいそれとは共感出来ないのだ、そんな私たちの様子に気付いた風もない。

 

「エマの言う通りだな。そも、この国が嫌なら逃げれば良かったのだ。残って生活し、この国の基盤を支えている、その時点でこの国に加担している事になる。手を緩める理由にはならんな」

 

 背後から、カーラがエマの意見に同調の声を上げる。

 

 様々な事情があって、逃げたくとも逃げられない。

 逃げたとして、行く宛もない。

 そんな事情を抱えている人が居るだろう、そんな事にすら、どちらも想像が及んでいないらしい。

 私は吐き出しそうになった溜息を飲み込む。

 

 アリスやサラの意見を理解し共感しながら、エマやカーラの考えに同調して行動出来る。

 自分の事が、心底嫌いになりそうだ。

 

「……全員、何を勘違いしているのです? 私たちはただの殺戮人形です。行く先に丁度良い標的を見つけたら、ただ蹂躙すれば良いのです。良いも悪いも知った事では有りません」

 

 だというのに、無感情で、私はこんな事を言えてしまう。

 全員の視線が、私に集まった。

「おい。偽悪ぶるにしても、そいつはあんまりじゃないか? 今までだって、そんな事したこと無かっただろうが」

 咎めるような目つきのアリスが、誰より早く口を開いた。

 彼女であれば、或いはサラも、私を咎めたくもなるだろう。

 

「今まで無かったという事実は、これからも無いという保証にはなりませんよ」

 

 しかし私は揺るがない。

 私はエリスを、エリスの平穏を護ると誓ったのだ。

 

 下手なことをすれば自国民が不必要に失われるのだ、と、身を持って知って貰う事も含めて。

 国力の低下を狙うことも含めて。

 これからの行動に、私が悩む理由はない。

 

 一瞬は呆気にとられたアリスだったが、気を取り直して私に意見をぶつけようとした、その時。

 

「待て。妙な反応が近づいてくるぞ。……数は24だな」

 

 カーラが遮り私たちの前に出て、取り出した例のバイザーを付ける。

 私は無表情で、アリスは憮然としたまま、何となくお互いに目を背けてカーラの方を向く。

 

「……ふむ、どうやらドワーフの集団らしいが、簡単な武装を纏っているようだな。他は日用品や、鍛冶道具の入った荷物を持っているだけか。兵士とは思えんが」

 

 一度は遠く遥かを見やった全員の視線が再び、私に集まる。

 ……いや、此処はカーラに集めるべきだろう。

 

「……どうする?」

 

 たった今、この国に居る人間に容赦する必要無し、そう言った私だったが、この状況には流石に判断に窮した。

 カーラの声に私は即答出来ず、頭を回転させる。

 

 間の悪い闖入者の集団が、せめて敵である事を祈らずには居られなかった。




……考えなしが格好つけるものだから、早速自分の発言のツケが回ってきたようですよ?
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