私たちは正義がどうとか感情がどうとか、そんな事とは無関係に人を殺すのだ――。
的なことをドヤ顔で、仲間たちの及び腰を是正しようと嘯いた私だったが、その直後にカーラの探知魔法に引っ掛かったのはドワーフの集団だった。
もの凄くタイミングが悪い。
カーラが重ねて探査魔法を試みてみれば、どうやら簡単ながら武装はしているらしいが、とても兵士とは思えないらしい。
アイセスブルト兵だったりすれば問答無用でこちらから先制攻撃も出来るのだが、その様子ではなんだか気が引けてしまうではないか。
自分にも向けての演説だったというのに、まったく締まらない事である。
「偽装の可能性は有りますか?」
私ではまだ探知が届かないので、カーラに聞くしか無いのだが……何となくだが、それは無いような気がした。
「どうやら、本当に職人の集団のようだぞ? 種族特性かレベルも20代となかなかだ。私たちには及ばないにしても、そこらの兵士となら互角に渡り合えるだろうな……得物がまともなら」
バイザーを付けて腕組みしながら、カーラは黒髪を風に遊ばせたままで、私の予感を補強してくれた。
答え合わせが出来たのはありがたいが、そのバイザーはゴシックなドレスと相まって、怪しさが凄い。
「……取り敢えず」
「殺すなよ? 事情なり何なり聞かなきゃだろ? 逃げて来たとか、色々考えられるからな?」
気を取り直した私の台詞を、アリスが遮る。
先の台詞の直後だから仕方がないとは思うが、それでも腹が立つ。
私だって、情報の重要性はそれなりに知っている
それに、色々考えられる中には、本当はアイセスブルトの工作兵とかそういう可能性も含まれるのだが、そこに気が付いているのだろうか?
そういう事も含めて確認をせねばならないと思った矢先に、このガサツ系冒険者崩れが。
私は露骨に半眼を向けながら、溜息を落とす。
「……どうあれ確認はしなければなりませんね。どうするかはそれから決めましょう」
私の視線を跳ね返しながら、アリスは黙って頷いて見せる。
なんだかその訳知り顔にも苛つきが湧いてくるが、努めて冷静を装いながら、私は視線を遥か前方に向ける。
まだ私の探知魔法には、それらしき反応は現れなかった。
数分待たずに私の探知範囲にも反応が現れる。
確認しようにも何の変哲もない白反応、探知の魔法を反応のひとつに何回か重ねてみれば、カーラの言う通り。
酷く疲労している様子で、気になると言えば気になる集団である。
歩みは遅く、ここで突っ立っていたら、どれほど待つことになるやら。
「……こちらから出向きましょう」
「心配し過ぎだろ。偽悪趣味のメッキが剥がれんの、早過ぎだぞ」
秒で待つのに飽きた私に、アリスがジト目で文句をぶつけてくる。
本人が気にしていることを突付いて来るんじゃない。
それ以前に、私たちには目的が有るのだ。
時間を惜しむのは当たり前だろうが。
「待っている時間が惜しいのです。疲労もしている様子ですし、さっさと話を聞いて、開放するなり殺すなり判断すべきでしょう」
「斜に構えんのも疲れるだろうに。まあ、どうせ殺さないんだろ? 行くんだったらさっさと行こうぜ」
アリスの方に向き直って口を開けば、今度はサラがケラケラと笑いながらチャチャを入れてくる。
こいつらは実は双子かなにかなのだろうか?
最早言葉を尽くすのも面倒になった私は何度目かの溜息を落とし、無言で歩き始める。
「急ぐのなら、本当に急いだほうが良いぞ。ひとりが死に掛けている。それに……追っ手だ」
怪しげなバイザーを付けたゴシック長身人形が、遠くを見ながら歩き出した私の背中に声を投げてきた。
堪えきれず、私は舌打ちをしてしまう。
今日という日は、本当に良い事が無い。
すっかりとささくれた気分になってしまった私の視界の端に、チョロチョロと走り回ている暴虐の影が映る。
ストレスも無さそうで結構なことだ、そう思った時に、閃いた。
ストレスを感じたのなら、発散すれば良いのだ。
「エマ。私と競争しましょう。その追っ手とやらを、多く殺したほうが勝ちです」
両手持ちのメイスを引っ張り出しながら、私は最も長く旅を共にしている相棒に声を掛ける。
右腕で持ち上げたメイスを肩に引っ掛けつつ振り返れば、
喜びの感情表現が物騒だし、こういう事に関してのみ理解が早くて結構ではあるが、なんというかこう……いや、人形相手に多くを求めるのも無粋か。
「やろうやろう! ドワーフのヒトを殺すのぉ?」
「……なんで此処までの話の流れでそうなるのですか。ドワーフを追っているらしき者たちを、です。どうせ大した数でも無いでしょうから、早いもの勝ちです」
目を輝かせながら、早速物騒かつブッ飛んだことを言い出す相棒に、覚える筈もない頭痛を感じる。
折角色々とお話が聞けそうな相手を、殺してどうする
「わかったぁ! それじゃあ行くねぇ!」
挙げ句、方角も良く判っていないのに、エマは走り出した。
いやまあ、そちらの方角を見ながら話していたし、私が実際にそっちに向かって足を踏み出したのだから方角程度は
エマの探知能力ではまだ相手を補足出来ていないだろうし、相手までの距離も不明だろうに。
「くれぐれも、ドワーフには手を出さないように!」
「わかったぁ!」
行き掛けの駄賃、とばかりに、無駄な犠牲を出されても堪らない。
そんな心配を抱える私の声に、遠ざかる脳天気な返事を返しながら、エマは走っていく。
エマの背を追うように走り出した私の背後で、他の仲間たちもそれぞれ私たちを追うように走り出したのが、気配で伝わってくる。
なんとも座りの悪い心持ちで、私は得物を片手に苛々を募らせるのだった。
いつまで経っても、人形に成り切れない、困ったマリアです。