迷子のマリア   作:naow

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マリアが考えれば考えるほど、駄目な気がします。


適材適所

 私は間違っていた。

 

 エマに伝言役など、まともに出来る筈がなかった。

 せめてアリスかサラに頼むべき……いや、サラは無いな。

 

 具体的に何が有ったかと言えば、エマに「ご飯作ってぇ!」と言われたニナは、いつもの食事の心算(つもり)で作業に取り掛かった。

 そんな所に、私たちがドワーフを20名以上連れてゾロゾロと食堂に押し入ったのだ。

 

 それは呆気にとられるであろう。

 

 とは言え、そこは見習いとは言え、現場で鳴らしてきたニナである。

 気を取り直したニナは――私やカーラから現状を聞き出して把握すると――すぐに動き始めた。

 

 全員疲弊しているので、無駄に凝った食事は逆に体調悪化を引き起こしかねない。

 やや薄味のスープとパンで、取り敢えずの栄養補給を行えれば良い、と言うことで、急遽私たちもニナの作業を手伝うことになった。

 

 と言うか、手伝わずに任せっきりというのは流石にニナが気の毒だ。

 

 エマは「私ちゃんと言ったのにぃ」とかむくれているが、あんな一言で全部の事情を察することが出来たら、それは神かなにかだ。

 私は必要な連絡事項をエマに申し添えたと言うのに、重要な部分をまるまるすっ飛ばしては伝わるものも伝わるまい。

 

「エマの言い分は聞き流すとしてさ。アリス、お前さんならどう伝えた?」

 

 食べやすいようにと、野菜をなるべく小さく刻みながら、サラがアリスに顔を向ける。

 手元で刃物を扱っている時には、集中して欲しいのだが。

 

 あと、問われても困るのは事実だが、真っ先に私ではなくアリスにその疑問をぶつけた理由はどこに有るのだろう。

 

「あん? あー……エマちゃんには難しかっただろうねえ。私だったら、短いなりに段階を踏むかな?」

 同じ様に作業しながら、しかしアリスは手元を見たままで答える。

 サラは作業を中断せずに疑問はアリスに向けたままの顔に疑問の色を浮かべる。

 

 良いから、手元に集中しろ。

 

「段階?」

「そうだね。まずは話を聞いて貰う下地を作って、それから現状、必要な量、と。今回はこれくらい伝えたら良いかな」

 対するアリスは作業態度にも問題は無く、そつない様子でサラに返す。

 サラの疑問も尤もだが、アリスの作業姿勢を見ているのなら、まずはそれを真似てみるのはどうだろうか?

 

 そんな2名に、少し離れて同じ作業をしていたカーラが声を向ける。

 

「下地を作るとは、どういう事だ? そもそもニナは、面と向かって話せばきちんと聞いてくれるだろう?」

 

 アリス同様、何故か随分手慣れた様子で包丁を振るいながら、カーラは声だけがアリスに向いている。

 カーラのビビ……慎重な性格を考えれば、なんだか納得である。

「そりゃ、何にも無ければ良いだろうけどさ。ニナちゃんだって、キッチンや食堂の掃除したり、私たちに出すメニューを考えたりとか、色々してる訳だろう? 場合によっちゃ、時間の掛かる料理の下ごしらえしてたりね」

 鍋に指定量の水を張り、コンロに火を掛けながら、私は少し感心していた。

 アリスのクセに、意外と考えているではないか。

「そんな所に、いきなり話を振ったってさ。半分とは言わないけど、話のはじめの方なんか特に、頭に入りにくいだろ? だからまずは、これから話すから、ちゃんと聞いてね? って意味でも、下地は欲しいかなって」

 重そうに鍋を抱えるニナに代わって鍋を抱えながら、私の耳は大半がアリスの声に集中している。

 何となく納得しそうになる話だが、そこに下地は本当に必要なのか?

 そもそも、その下地とやらはなんだ?

 

「別に普段通りの世間話でも良いんだ。こっちに興味を向けて貰うのが目的なんだから」

 

 アリスは私の頭の中を覗ける筈も無いし、そもそも私を見ても居ないのだが、まるで私の疑問を見透かしたように話を続ける。

 

「で、今回だったら、そうだなあ。緊急性も高いし、ちょっとインパクトが欲しいから、私が切り出すなら……そうだね、まずは食事が大量に、大至急必要なんだって言うかな。いつもとは違うんだよ、って意味で」

 

 その続いた言葉には、私はなんと言って良いのか判断に困った。

 結果、エマのおねだりに毛が生えたモノでしか無い。

 カーラも私と同じ様な感想を持ったらしく、思わずその手を止めてアリスの方へと顔を向ける。

 

 私はニナの指示に従って、抱えた鍋をコンロに乗せる。

 

「待て待て。それでは、エマと大差が無いではないか」

 呆れたようなカーラの反応に、アリスも少し手を止めて、そしていたずらっぽく笑う。

 

「ほら。お前でも、どういう理由であれ反応しただろ? てことは興味が向いたワケだから、後は事情を話すだけさ。ドワーフが24人居て、皆疲れて参ってる。そういう連中に、取り敢えず食事を出したいんだ、ってさ」

 

 半分呆れていた私も、アリスの流れるような説明に、思わず顔を向けてしまう。

 それは、同じ様に作業していたニナも同様だった。

 カーラもまた、何やら唸りながら感心している。

 

 当のアリスは野菜のみじん切りに夢中で、周囲の様子に気づいた様子は無い。

 何やら驚いた様子のサラはともかく、エマの興味を引くことは出来なかったが。

 

「……確かに、そういう風に言って貰えたら、私も細かい事情はともかく……急ぎで、栄養があって疲れている人でも食べれそうなモノをたくさん作らなきゃ、って、その場で思えたかもですね」

 

 感心した声を押し出してから、少しだけ残念そうな顔を、ニナはエマに向ける。

 しかし、みじん切り班のエマは、アリスの言葉にもニナの視線にも、気にする様子も気付いた気配も無い。

 今の話はエマにこそちゃんと聞いて、色々と考えて欲しい内容だったのだが。

 

 お友達が大事なら、もっと気を使ったほうが良いと思う。

 

 言い分が正しいのかは知らないが、何となくアリスの話に感心したりしながら、私たちは作業を進めていくのだった。

 

 

 

 ニナの焼いたパンと栄養たっぷり野菜多めのスープを、ドワーフたちは静かに、幾人かは涙を零しながら口に運ぶ。

 その様子を眺めながら私たちは食堂の隅で固まって立ち、ドワーフたちに無駄な威圧を与えないように気配を消している。

 

「……んで? こいつらの移住のお手伝いってか? 随分と危険な人形サマだねえ?」

「……しつこいですね。相手が弱って居ますし、そんなのを襲って何が満たされると言うのですか。それに、彼らは追われる者たち。敵の敵は味方、などと気楽なことは言いませんが、少なくとも彼らを助けることは、アイセスブルトへの嫌がらせになるでしょう」

 

 早速絡んでくるサラに、私は顔も向けずに声だけで返す。

 

「はあん? 随分とご機嫌じゃないか。妹が元気で、私は嬉しいよ」

 

 サラの嫌味がブレンドされた軽口を聞き流しながら、私はドワーフたちから目を離す事はない。

 彼らを送り届ける先、彼らには特に目指す場所もアテも無い。

 では、私たちにアテがあるかと言えば、そんな物は無いのだが……強いて言うのなら。

 

「エリスの村は駄目でしょうね。いかに職人集団とは言え、訳アリのドワーフを24名。受け入れも大変でしょうし、余計な火種はあの村には持ち込みたく有りませんし」

 

 つい、私の口からは考えが零れ出る。

「それは同感だな。いっそ、あのハイペリオの砦はどうだ? お前の話では、話の分かる男が居たと言うではないか」

 そんな呟きに、カーラが反応を示す。

 なるほど、あの砦はアイセスブルトと睨み合っている要衝で、ドワーフたちは保護すべき民間人と言える。

 迎え入れる名分は、無くもない、か。

 

「……良い考えとも思えますが、しかしあの砦はハイペリオ側の最前線でしょう。今まさにアイセスブルトの軍が動いて要塞再建に動いているのを、ここぞとばかりに邪魔している最中なのでは?」

 

 しかし、私は小さく頭を振る。

「そんな最中、民間人を受け入れて保護する余裕が、有りますかね……?」

 正直、預けることさえ出来れば、後は知ったことではない。

 最低限生きていける環境で有るならば。

 

 しかし条件はともかく、忙しいからと断られてしまえば、私たちも無責任に放りだしてくる訳にも行かない。

 そうであるのなら、最初からある程度安全で、かつ、余裕の有る場所に届けるのが確実だ。

 

 で、あるならば……。

 

「……クアラスに戻るか? あの街は交易地だし、ドワーフって言ったら職人だからな。仕事だって有るんじゃないか?」

 

 私がぼんやりと思い浮かべた地名を、アリスが口に出した。

 私たちがこの大陸で、最初に訪れた街。

 交易港を抱える、都市と言っても過言ではないあの街なら、確かにアリスの言う通りかも知れない。

 

 ひとつだけ、どうしても看過できない懸念が有るのだが。

 

「……ヒューゴは、まだあの街に居ると思いますか?」

 

 私の思い詰めた暗い声を聞いたアリスとカーラは、途端に吹き出した。

 失礼な連中である。

「流石にもう居ないんじゃないか? お前、ホントにアイツが嫌いなんだな?」

「あれで一応、密命を帯びた工作兵なのだろう? 本業に戻って居るだろうさ。そもそもあの街は広い。会いたくとも、会える訳でも有るまいよ」

 そしてその口から漏れ出す、どうでも良いと言わんばかりの慰めの言葉。

 他人事(ひとごと)だと思って、気楽なものである。

 

「アレを好きになれる理由がひとつも有りませんが? ……ともあれ、私の手持ちの情報では、クアラスが最も適しているでしょうか。戻るだけなら、私ひとりで全力で走れば良いだけですし」

 

 溜息を吐き散らかしたい気持ちを押し殺し、私はなるべく淡々と答える。

 そんな私の心の動きなど気にした様子もなく、ひとしきり笑ってから、アリスが口を開いた。

 

「何なら交代しながらでも良いし。むしろ、私のほうが人目に付きにくいんじゃないか?」

 

 言われて、私はアリスに目を向ける。

 

 半袖の厚手のシャツの上に金属製の胸当てを纏い、厚手のジーンズに似たパンツに、金属製の脛当てを当てている。

 今は外しているが、腕にはガントレットを付けるその姿は、旅の冒険者に見えるのだろう。

 ……以前は革製の胸当てとレガースにガントレットだったと思うのだが、いつの間にそんなものを入手したのか。

 

 カーラを疑うのは、流石に穿ち過ぎか。

 

「場合によっては、アリスにお願いするのも有りでしょうね。まあ、それは追々です。今は彼らを休ませる事と、彼らが妙なことをしない様、目を光らせる事です。食事を終えたらそれぞれ適当に部屋に案内しますが、その後の彼らの()()()を、アリスとサラにお願いしたいのです」

 

 カーラが金属類を勝手に使用した疑惑についての追求は後に回すことにして、私は今後の事について考えを戻す。

 

「はあ? いや、言ってることは理解(わか)るし別に構わないけど……お前の方が向いてるんじゃないのか? お前が霊廟(なか)で、私が外の方が良くないか?」

「私、そもそもここの事、全然詳しくないんだけど?」

 

 私が発言するとアリスとサラは私に顔を向けて、それぞれが異議らしきを申し立ててくる。

 2体(ふたり)の反応は良く理解(わか)るが、私はドワーフたちを送り届ける、それだけを見据えている訳にはいかない。

 

「簡単に、彼らの行動をそれとなく監視してくれればそれで良いのです。ニナの安全を最優先に」

 

 私は努めて、感情を出さないように唇を開く。

 有無をも言わせない、そんな心算(つもり)は無い。

 だが聞いている方は、或いはそう受け取ったかも知れない。

 

「カーラとエマは、私の手伝いをお願いします」

 

 言葉を続けると、もう、誰も私に意見をぶつけては来なかった。

 ただ、カーラとエマがそれぞれの表情で頷いただけだ。

 

 クアラスへ向けて移動をするのは構わないが、その前に、やることが有る。

 

 私は少しだけ……ほんの少しだけ、覚悟を決めるのだった。




サブタイトルの意味を、本当に理解出来ているのでしょうか。
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