迷子のマリア   作:naow

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全てを自分の意思で選んでいる、そう思っているのでしょう。可愛らしいですね。


侵食

 ニナを残してきたのは、当然私たちの行動に大変な危険が伴うからだ。

 

 私の背後には、既に廃墟どころか残骸と化した街と、そこを護る兵士たち、そして街の基盤を支えていた民間人達の肉片が焼け焦げ散らばっている。

 

「マリア、それにエマ。お前たち、魔力はまだ大丈夫か?」

 

 カーラが珍しく、冷ややかな声で私たちに問う。

 本来的には人間、と言うか人類の側に立つカーラだが、彼女を造ったドクター・フリードマンは迫害され、故郷を追われた経緯を持つ。

 それでもヒトを恨むことの無かった彼は、流浪の果てに得た小さな、誰も居ない土地で静かに研究を重ね、その生涯を終えたと言う。

 そんな創造者を持つカーラだからこそ、私たちとは人類に対する態度はだいぶ違う。

 

 だが、その性格形成の根底に創造者の影が有るからこそ。

 加えるなら、そんな土地を聖教国に荒らされ奪われた経験も合わさって。

 

 多数で、暴力を以て少数を追い立てる、その様な行為を嫌悪する。

 その少数に非が無いのなら、尚のことだ。

 

「ええ。私ひとりなら或いはやりすぎたかも知れませんが、貴女(あなた)たちが居りましたから。頼もしいことですね」

 

 私の唇から漏れるのもまた、言葉の内容に比べると随分と冷たい色をしていただろう。

 目的遂行の為に、良心などという邪魔な物は廃するべきなのだ。

 

 子どもを庇い、その身を盾にした母親らしきを諸共に叩き潰した感触を忘れる事は無さそうだが、自己嫌悪なり反省なりは後ですれば良い。

 

「戦えるヒトが少なかったから、つまんないけど魔法もあんまり使わなかったかなぁ? 全然余裕だよぉ」

 

 エマは私たちと対比のように、朗らかな、状況に合わない笑顔を浮かべている。

 その最初から「人間を殺せ」と命じられ、その命令は半ば蔑ろにしているエマ。

 だからと言って、人間含む人類全てに友好的である、等と言うことはない。

 

 むしろ彼女は創造主の軛から半ば抜け出し、自分の敵は自分で定めている。

 

 彼女が友と認めたエリスの安全を護る為、また、自身の抱える殺害欲求及び破壊衝動を開放する為、エマは今、アイセスブルト皇国を敵と見定めたのだ。

 

「ふむ、ならば良いな。この先、街が幾つで村が幾つだったか忘れたが……その先に、壁とやらが有るのだろう? まったく、壁で囲うのが好きな国だな?」

 

 遥か遠くを見据えるカーラの視線を追うが、当然、壁らしきものが見えたりはしない。

「まったくですね……。その壁、出来れば門を吹き飛ばしてやりたいのですが、途中の街や村はどうするべきか。どう思いますか?」

 カーラの台詞に乗りつつ、私は一歩踏み出す。

 尋ねる風を装っているが、私自身の心は決まっている。

 

 そして、仲間たちもまた、私と同様なのだろう。

 

「今更、無辜の民だからと見逃す心算(つもり)も無いのだろう? この先には穀倉地帯も有るとか? 気は進まんが、全て灰にしてやろうか」

 

 カーラが同じ様に進み出て私に並び、感情の籠もっていない声で答える。

 

「全部壊すし、みんな殺すよぉ? 今回は、ダメって言わないよねぇ?」

 

 弾む声を隠す様子もなく、エマが私に飛び付く。

 

 気が逸るのは理解(わか)るが、不意に飛び付くのはやめて欲しい。

 微妙に力の加減が出来ていないので、私はたたらを踏んでしまう。

 

「落ち着きなさい、止めませんとも。むしろ、私やカーラとの競争ですからね? 後で文句を言わないように、精一杯暴れて下さい」

 

 顔を向けて言葉を掛ければ、エマの顔がみるみる明るく輝くようだ。

 嬉しいのは理解(わか)ったから、まずは私を開放して欲しい。

 

 敵に倒される前に、エマの腕の中で圧壊してしまう。

 

「やれやれ、競争となると私が著しく不利だな。エマ、手加減してくれよ?」

「ダメだよぉ! 遊ぶなら、ちゃんと遊ばないとぉ!」

 

 私の腰辺りにしがみついたエマとカーラが何やら言い合っているようだが、私が解放される様子はない。

 

 うんざりしながら、私は視線を前へ、遥か続く目標への道を探るように目を凝らすのだった。

 

 

 

 カーラの遠隔視(リモートビューイング)により、思った以上に畑が広がっていることが判明した。

 走りながら視線を交わしあった私たちは、無言で散開する。

 

 小麦を初めとする畑に対しては、カーラよりは私のほうが向いている。

 エマでも出来ると思うが、彼女の性格上、ただの畑を焼き払うよりは動く的を追い回したい所だろう。

 

 走りながら私は予め魔法式化(パッケージング)してある熱線の魔法を、自分の周囲に8門展開する。

 手かざしの方が精密照射や薙ぎ払いなどがやり易いが、あくまでそれだけである。

 

 私は仲間が充分離れたことを確認すると、全ての魔法を起動する。

 

 放たれた8本の熱線は私の前方に放たれ、大地に牙を立てる。

 すぐにそれぞれは私の意識に沿ってあちこちを薙ぎ払い、作物も雑草も等しく炎に飲み込んでいく。

 たまたま居た、農作業を行っていた者たちを巻き込みながら、私は熱線を放ち続ける。

 

 少しすると、遠く目的地方向で巨大な爆炎が巻き起こる。

 

 うかうかしていては、エマに先を越されてしまう。

 現在展開している魔法とは別の魔法を幾つかセットしながら、私は探知魔法の識別対象を変更する。

 そのまま進行方向を変えて走りつつ、アイセスブルトの食料庫への攻撃を加速させていくのだった。

 

 

 

 遠くから、連続で爆音が響く。

 ここまで聞こえてくるという事は、少し前に炸裂したものだろう。

 エマにしては珍しい、そう想って顔を上げると、音がした方向はカーラが赴いているエリアであった。

 

 まあ、エマなら魔法よりも近接戦闘を主体にするか、と、私は軽く流してから、周囲を見渡す。

 

 すっかりと焼け野原となった田畑の跡地は、見渡す限り果てなく続く。

 走り始めてからは魔法毒による土壌汚染も平行して行ったので、この広大な土地が命を芽吹くことは、半世紀は無いだろう。

 炎熱にも負けずしっかりと効果を発揮する、魔法による毒というものは素晴らしくて恐ろしい。

 

 所々にあった施設やら、平和に慣れすぎたのか対応がいちいち遅い兵士らしき者、普通に農作業に出ていた者、それらは全て焼き払った。

 それでも、トータルのスコアではエマやカーラに劣っているだろう。

 とは言え、もはや周辺の目標は灰になり毒の土に変わっている。

 

 巻き返そうにも、手頃な獲物が居ないのでは仕方がない。

 

 エマは勿論、珍しくやる気になっているカーラも、横から手を出されては良い気もすまい。

 諦めて次のステージでの挽回を誓い、猛毒の荒野の中、歩みを進める。

 

 進む先からはもう聞こえる音も無く、同行者たちの狩りが終わりを告げたであろう事が、その静かさから伝わってくる。

 

 目標の「門」まではまだ距離が有り、私たちの侵攻は序盤に差し掛かった所、という有り様だった。




勝ちたいなら、もっと貪欲になった方が良いと思います。
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