迷子のマリア   作:naow

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とても人形らしくて、良いですね。


愚問

 すっかり静かになったな、そう思いながら歩く私だったが、突然上がった爆発と爆音に思わず顔を向ける。

 何事かと思ったのだが、その方向はエマが担当していたエリアだ。

 

 アレが遅れを取ったとかで無ければ、多分、死体の処理が面倒になったとかその辺りだろう。

 

 ギリギリ届きそうだったので探知を飛ばしてみれば、反応はエマだけだしそれも特に派手な動きは無い。

 私は安堵しつつ、足をそちらに向ける。

 

 探知の範囲内には、のんびり走っているらしいカーラの反応も入り込んでいた。

 

 

 

2体(ふたり)とも、魔力は大丈夫ですか? 私は先程マジックポーションを飲みましたが、必要ですか?」

 

 楽しそうなエマと硬い表情のカーラ、両名と合流を果たした私は特にそれぞれと感想を交わすこともなく、次の標的を探して走っていた。

 特に障壁や力場を派手に使った覚えは無いのだが、攻撃系魔法を張り切って使った自覚は有った。

 だから手早く回復を図った私は、珍しく仲間に気を使った訳だが。

 

「問題無い、私もポーションは服用した」

 

 カーラの返答は、その表情同様に硬い。

 

「大丈夫だよぉ? ()()()()()()()()()しぃ? あんまり魔法使わなかったしぃ!」

 

 エマの返事には、こちらがどう返すべきか迷う。

 エマなりに魔力補給を考えた結果なのか、それとも趣味嗜好の範疇なのか。

 あと、結構な頻度で爆発が起こっていた気がするが、あれであんまり使ってない判定なのか。

 

 魔法戦仕様と言う物は、こういうモノなのだろうか?

 

「……探知範囲には、ドワーフらしき反応は無いな。生き残りでも見掛けたなら、保護したいと思っていたのだが」

 

 6体の操り人形を従えるカーラが、私に顔を向ける様子も無く、ポツリと呟く。

 

「こちらに逃げてきた者は居ないのでしょう。最初に襲ったあの街で晒されていた死体が、あの街で最後まで抗っていたドワーフたちなのでしょうね」

 

 言いながら、私はその無惨な死体たちを思い起こす。

 苛立ちの捌け口にでもされたのか、ボロ雑巾の方がまだ仕事が出来ると言う有り様で、彼らは広場に打ち捨てられていた。

 

 首を落とされた、で済んでいる遺体はひとつとして無い。

 

 ……私はまだ、少なくともこの魂だけは人間なのだと再確認する。

 同じ人間のしでかした事だと言うのに、こんなにも気分が悪い。

 

「……ならば、それは有る意味で僥倖かも知れんな。この先に、攻撃を躊躇する何者も存在しない、そう言う事だろう?」

 

 カーラの声に、私はすぐに返事を返すことも、目を向けることも出来ない。

 

 私たちの行く手に存在するのは、野盗のアジトではなく、軍事拠点だけ、と言うものでもない。

 その大多数は、一般人とも言うべき者たちだ。

 

 今更手を緩める心算(つもり)もない。

 

 だが、迷いが無いと言い切れる程、私は強くも無いらしい。

 つい先程、田畑と共に焼いた農夫の断末魔が耳に焼き付いている。

 

「……そう言う事ですね。気分が良いとは嘘でも言いたくありませんが、この国の首脳陣なり皇帝サマには思い知って頂きたいので、手を緩める事はしませんよ」

 

 少し先を走るエマがちらりと振り返って私を見るが、言葉は何も無い。

 

「そうだな。自国の民の生命が奪われる痛みを、知って貰う必要が有る」

 

 カーラの声は、相変わらず硬い。

 彼女も、思い至っているのだろう。

 

 自国の民とやらを大事に出来る様なモノなら、不必要な戦火を周囲に振りまく様な真似はしないだろう。

 更には国ひとつ隔てた先にちょっかいを掛けるような真似など論外だ。

 

 つまりは……私たちのこの行動が彼らの考えを変える切っ掛けにはなり得まい。

 

 私たちは走る。

 相手の考えを変えられる、そんな甘い幻想をうっすらと見ながら、本質的には国力へダメージ与えることを目的として。

 国力とは、極論人と食料と資金で支えられるものだと思う。

 そのうち2つに打撃を与えれば、残るひとつにもしわ寄せは出る。

 

 街を3つ……4つと、村を4つ。

 そして、食料庫とも言える穀倉地帯を一部とは言え失えば、現在行っている戦争の方にも影響は出るだろう。

 嫌がらせじみたノヴァック……エリスが居る国へのちょっかいも、一時的とは言え止めることが出来るだろう。

 

 その間に、あの街に防壁が完備され、衛兵が配備されれば良いのだ。

 

 エマはもう、私を見ていない。

 カーラは初めから、私に視線を向けていない。

 私もまた2体(ふたり)に目を向けることをせず、探知を周囲に振り撒きながら走る。

 

「……反応が有ったぞ。まだ街か村かは判らんが、人間大の反応が複数」

 

 私よりも探知範囲の広いカーラが、ボソリと言う。

 特に返事を期待しても居ないのだろう、続く言葉も無く、こちらの反応を伺う様子も無い。

 

 私もエマも言葉を返すことも無く、カーラが僅かに変えた進路に従って走る。

 

「私の方でも捉えました。……エマ、このまま真っ直ぐですが、先行しますか?」

 

 遅れて私の探知が捉えたそれを、私たちに合わせて速度を落としているエマに伝える。

 疑問形を装っているが、返答など理解(わか)り切っている。

 

 振り返るエマの笑顔が、既に答えだ。

 

「良いのぉ? 全部、私がヤっちゃうよぉ?」

 

 流石にカーラも反応するが、その眼を私に向けるだけで、特に言葉は無い。

 私はそれに対して頷きを返し、エマへと顔を向ける。

 

「構いませんが、その先どちらへ向かうかは決まっていません。終わったら待っていて下さい」

「わかったぁ!」

 

 私が言い終わる前には、エマは速度を増して私たちを引き離していた。

 ……何処ぞへ走り去ったりしないだろうな、この小娘。

 

 苦言をくれてやろうにも、既に豆粒程度にしか見えない距離に居る。

 そんな事を思っていたら、見えなくなってしまった。

 

「どんな状況でも、元気なものだ。見習わねば、な」

 

 おどけた心算(つもり)なのか、肩を竦めるカーラの声は変わらず硬い。

 迫害されし者たちに同情以上の感情を持つであろうカーラだが、流石にただの虐殺は負担が大きかったか。

 私は彼女を「霊廟」に戻すべきか、迷う。

 

「……今更、私に引っ込めとは言わんだろうな? 私とて、友を守りたい気持ちは変わらん。時には……黒い感情を暴力として吐き出すのも悪くなかろう?」

 

 そんな私の迷いに気付いたのか、カーラは顔を向けることもせず、固く乾いた声を寄越す。

 私は、すぐには言葉が出ない。

 

 気弱で荒事には消極的、そんなカーラに、私はそんな事を言わせてしまっているのではないか?

 

 自分の中に湧いた罪悪感に、小さく驚く。

 それこそ今更で、「霊廟」の中で声を掛けた時から、理解(わか)っていた事ではないか。

 

「何を言うのです。今更帰りたいと言われても困りますよ。滅多に見せない貴女(あなた)の暴力性とやらを、この機会に存分に奮って下さい」

 

 そしてカーラは何も答えず、私もそれ以上は無く。

 行く手遥かで上がった爆炎に向かって、ただ走るのだった。




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