走って、魔法を打ち込んで、走って、メイスで殴って、走って。
街は4つで話通りだったが、村は6つあって穀倉帯や放牧場も有って、採掘場まで存在した。
可能な限りの破壊を尽くし、虐殺に関しては徹底的に行なって。
もうじき夕刻、という所で、皇都を護る3重の壁、その一番外側……その門まで、あと5キロの地点で、私たちは立っている。
「マリアちゃん、もうポーション飲みたくないよぉ。お腹がタプタプだよぉ」
とっても楽しそうに調子に乗ってバカスカ爆裂させまくっていたエマが、もの凄く嫌そうにマジックポーションを飲んでいる。
気持ちは
と言うか、胃も腸も無いのだから、タプタプになる筈がないだろうに。
その隣では、やはり嫌そうな様子で、カーラも魔力回復に励んでいる。
うむ、2体の気持ちはとても良く
私もまた、本日何本目か数えるのも億劫なマジックポーションを、無理矢理喉に流し込むのだった。
「えーっ? もうすぐそこなんでしょぉ? なんで攻め込まないのぉ?」
突撃を掛けたくてウズウズしている相棒を押し留め、私はその相棒に引っ掴まれてぐわんぐわんと振り回されている。
なんで攻め込まないのか。
その説明をしたくとも、この有り様ではまともに喋れないだろうが。
「ま、まあ待てエマ。マリアを破壊しても、どうしようも無いぞ? 一旦落ち着け」
エマの剣幕か私の有り様、どちらに戦いているのか、カーラが引き気味の様相でエマに声を掛ける。
実力行使ではとてもエマには敵わないだろうし仕方がないのは理解出来るし、何なら巻き込まれる前にもっと離れたほうが良いと思う。
「だってぇ!」
「エマ、エマ。離してくれないと、きちんと説明出来ません。お願いですから話を聞いて下さい」
カーラに反応して勢いが少し弱まったのを見計らい、私はようやく声を上げる。
それでようやく、私は解放されることになった。
本気で、バラバラにされるかと思った。
好き放題暴れられたのが余程楽しかったのか、エマは力加減がすっかり馬鹿になっている。
私は冷えた肝を落ち着けるように特に意味もない深呼吸を行い、振り回されて乱れた衣服を整える。
「エマ、直接攻め込んで暴れるのも良いのですが、問題は壁と門です。ここからでは良く見えませんが、もう少し進むだけで見えてくるでしょう。それ程巨大な壁と、そこに掛かる門です。うっかりと近づいてしまっては、破壊する為の魔法に私たちも巻き込まれかねないのです」
衣服を整えてから、また暴れ出しては怖いので、私は少し身を屈めるようにして、エマと視線の高さを合わせる。
「むう? 別に、配備されている兵なり何なりを殲滅してから、安全な所まで離れて破壊すれば良いではないか」
そんな私の言葉に、眼の前のエマではなく、横で聞いていたカーラが反応する。
私とエマは少し見つめ合ってから揃って溜息を零し、揃ってカーラに顔を向ける。
「暴れてテンションの上がったエマが、そんな悠長な事に付き合うと思いますか?」
「思ってるのぉ!?」
「……」
有る意味で息ぴったりの私たちに、なんとも言えない顔のカーラは言葉も無い。
「どれほどの兵力が配されているか、私の探知では未だ届かないのでなんとも言えませんが……。最低限、各砦と同数程度は居るでしょう。私たちも居るとは言え、エマが暴れてテンションが上った挙げ句、あの本気の魔法とやらを使われたら。下手をすれば、私たちまで巻き込まれてしまいます」
「撃つね! 私はきっと撃っちゃうね!」
「……なるほど? 確かに危険だな?」
既にテンションがおかしなことになっているエマに、カーラの頬が引き攣る。
「私だって、そんな事は御免です。しかし……いっその事、ここからエマのあの魔法を打ち込んでしまえば、何もかも破壊出来てしまうのでは? と、私は考えました」
右手の人差し指を立てる私に、今度は2体とも何か言うでもなく、揃ってぽかんと口を開けて私を見る。
2体とも、特にエマが忙しい事だな、そんな風に考えていると、そのエマがまずはハッとしたような顔で言葉を発した。
「私の本気の魔法って、
実に不思議そうな顔のエマに、私は驚いた顔を向けてしまう。
驚いたのはエマがきちんと飛距離を把握している事でも、あの破壊規模の魔法が案外近場にしか使えなさそう、という事でもない。
エマのくせに、魔法名を付けている、という事実だ。
しかもなにその、え? 何でそんな陰鬱かつ物騒な響きの名前なの? エマのキャラに合ってなくない?
表銘と真銘が違いすぎるけど、え? この世界の魔法ってこんななの?
火球で「ファイアボール」とか、そんなのが普通だと思ってたけど?
小さな混乱に呑まれてもの凄く久しぶりに素の私が顔を出してしまったが、これは私の落ち度だろうか?
「ふむ、確かに威力的には充分どころか過剰なくらいだが、だからこそと言うか……魔法式が威力に偏っているのだろうな。あの魔法の飛行速度では、臨界に達して炸裂するまでに、充分な距離を稼げないだろうな」
私が間抜けに口を開けている間に、カーラが顎先にその指を添え、考え込む素振りで口を開く。
そのカーラに向ける私の顔にはゲンナリとした色が浮かぶが、これもまた、カーラに向けたものでは無い。
あの威力を実現するために色々と制御に必要な魔法を排除した結果なのだろうが、結果出来上がったのは自爆魔法ではないか。
エマらしいと言えば、これ以上無くエマらしいのだが。
「……エマ、あの魔法……今まで使ったことは有ったのですか?」
完全な横道だと理解出来ているのに、私の口は疑問を止められない。
「えぇ? 無いよぉ? あの時、初めて使ったんだぁ」
受け止めたエマの答えは有る意味想像通りで、それだけに私は溜息を禁じ得ない。
本人が思い切り巻き込まれ、私たちも危うく死に掛けたその魔法は、その名の通り、敵味方分け隔てる分別など無かったのだ。
私は敢えて少しだけ目を閉じ、咳払いで気を持ち直そうと努める。
「……なるほど、良く
言いながら、私は2層の爆砕障壁で作り上げた、砲弾……と言うよりも、巨大な銃弾を模した円筒を5つ、作り上げる。
円筒の片側には半球型のドーム状に、反対側にはカーラと実験していた時に編み出した魔法を取り込むための魔法式を書き込む。
出来上がりの炸裂障壁弾にはそれぞれ、内部に時間停止の魔法を仕込んである。
炸裂障壁が爆砕して解除されれば、時間停止の魔法も解除される仕組みだ。
エマはいまひとつ理解が及んでいない顔でそれらを見ているが、カーラは私の意図にすぐに気が付いたらしい。
「ふむ。では、さしずめ私は、エマの魔法を封じたその障壁弾に推力を与え、射出する、と言った所か?」
私を見るカーラは、口元は不敵に笑っているが、目元は静謐だ。
そんなカーラを見上げ、そしてエマも気が付いたらしく、その眼を輝かせる。
「はい。エマが破壊に全力を注ぎ、私がその時間を止めつつ封じる砲弾を用意し、それをカーラの制御で撃ち出す。急造の合体魔法ですが、これで遠距離砲撃も可能な筈です」
「お前がやりたかった事の、有る意味で簡易版だな? だからこその、このメンツだったのか」
カーラは溜め息混じりに目を閉じ、そして小さく頭を振る。
カーラの深読み、と言いたい所だが、実際それも理由のひとつでは有る。
アリスとサラは無辜の民を虐殺するような真似に抵抗が有りそうだったし、下手に駆り出せば現場で私たちの前に立ちはだかり兼ねない。
そんな邪魔者を排除したかったのと、そしてこの合体魔法もどきの実地試験。
主にこの2つが理由である。
エマの納得を得られるかはともかく、半径2キロと言う馬鹿げた破壊範囲を誇る魔法を遠距離から撃ち込むことが出来るなら、これほど手っ取り早い事はない。
携帯式の魔法発射装置の開発には頓挫してしまったが、障壁を用いて簡単な魔法弾もどきを作るだけなら、現場でも可能なのである。
……カーラさえ居れば。
カーラの眼差しが冷たいのは、そんなことの為にポーションがぶ飲みを強要されたことにか。
それとも、別の何かに対してなのか。
「……まあ、問題は無いな。しかし流石に距離が有りすぎる。もう少し近づくか? 3キロ程度までなら、向こうの探知魔法に掛からず近寄れると思うぞ?」
しかし、少なくともこの実地試験に関しては、特に反対では無いらしい。
私は安堵を顔に出さないようにしながらも、カーラの提案に関して少しだけ考える。
「……カーラが言うのであれば、問題は無さそうですね。後は、山なりの弾道をイメージするとか、或いは撃ち出す際に、砲弾に回転を加えるとかすれば良いかも知れませんね」
私は彼女の提案に乗る事を告げ、ついでに撃ち出す際の工夫点を口の端に乗せてみる。
ライフリングと言っても伝わらないだろうし、発射地点までの移動中にも意見の交換は出来るだろう。
「回転? ……ああ、飛翔体の安定化か。適当に組んで見るから、お前も確認してくれ。……まあ、まずは目標点に着いてから、だな」
カーラは私の断片過ぎる発言から、意図を正確に捉えて見せた。
時々は頼りになりすぎて、むしろ恐ろしくも有る。
「じゃあ、私の魔法はまだ用意しなくて良いんだよねぇ?」
私とカーラの遣り取りを眺めていたエマが、声を上げる。
「はい、まだ大丈夫です。取り急ぎ、発射地点まで移動しましょう」
口を挟んで来たという事は、待つのに飽きてきた、と言う事だろう。
何度目かカーラと顔を見合わせ、どちらともなく苦笑を漏らし、そして私たちは揃って駆け出す。
「私たちの合体魔法かぁ。なんだか、ワクワクするねぇ!」
先頭を走りながら、エマの声が弾む。
直接暴れられない事に不満を持っていた筈だが、何処かに置き忘れてしまったらしい。
「まあ確かに、合体魔法、では有るな」
カーラのくつくつという笑いが、走る勢いで後方に流れていく。
その言い方には何か含む所が有りそうだが、私は敢えて無視する。
「それじゃあ、頑張って『
エマの口から楽しそうに溢れるその言葉に、私はすぐには反応出来ない。
振り返るエマに笑顔を返してから、ようやくそれが、エマの考えた魔法名なのだと悟る。
……だから、字面と読みのギャップよ。
これはエマのセンスなのか、それともマスター・ザガンの趣味なのか。
確認するのもなんだか嫌だが聞き流すには気になり過ぎる、そんな疑問を抱え、私はエマの背中を眺めるのだった。
マリアは気になるようですが、エマの魔法名……何かおかしいのでしょうか?