エマの本気魔法……本人曰く「
それが装填された魔法弾、都合5発。
その魔法を用意した本人は、魔力を使い果たしてへたり込んでいる。
エマが初めてこの魔法を使った時は、少なくとも立てていたし防御の方にもかなりの魔力を回していたらしいのだが、今回は威力の方に全振りしたらしい。
……あの、それってつまり、前回よりも威力が上がっていると言う事では?
カーラの提案に従って門まで3キロの地点にまで近づいたのだが、これ、もっと離れたほうが良い気がしてきた。
「カーラ? エマが本気も本気で魔力を込めた魔法、前回より威力が有りそうなのですが? 離れたほうが良くありませんか?」
なので、思った事をそのまま言葉にしてカーラの方を見てみれば、真っ青な顔のカーラが私……ではなく、魔法弾を凝視していた。
お前もか。
「そそそ、そうだな? だっ、大体の敵の数は知れたし、うむ、さ、さっきの所まで戻ろうか」
回らない口で言葉を何箇所か噛みながら、カーラは平静を取り繕おうとして見事に失敗している。
まず、顔色の時点でダメだったのだが。
そんな訳でカーラがエマを背負い、移動を開始した。
魔法弾はいっそ
まとめて取り出して、うっかり魔法弾同士が触れ合ったらそれだけで爆散障壁が反応し、その場で炸裂してしまう。
一発ずつ取り出そうにも、ちょっとでも気を緩めたら先に取り出したほうが触れ合ったりして炸裂、とかいう事故が起きないとも限らない。
仕方が無いので私は5発全てを維持したまま、先行するカーラを追う形になってしまった。
攻撃目標まで近づこうと言ったカーラが悪いのか、考えなしに魔力を込めたエマが悪いのか。
他責に舵を切りたい私は、どちらの提案も行動も止めなかった私がいちばん悪いと言う事実から、そっと目を背けるのだった。
結局、ちゃんと見張っているのが最も安全だった訳で。
周囲警戒はカーラに一任し、ただひたすらに魔法弾の維持と保持に全力を傾けた私は、どうにか元の位置……よりもなんだか遠くまでの移動に成功した。
私が思っていたよりも、カーラは恐怖を感じていたらしい。
「こ、ここからなら、安全に攻撃できるだろう。……距離があるからそれなりの勢いで撃ち出す事になるが、風圧で起爆したりしないだろうな?」
青い顔なりに虚勢を取り戻したカーラが、腰に腕を当てて胸を張っている。
そのスカートの中で彼女の膝が大爆笑しているであろう事は、その身体がガクガクと揺れていることから容易に想像出来るが、そこを突付いても意味は無いので私は見なかったことにする。
「魔法弾それぞれを、もう一枚、薄めの障壁で覆います。着弾すればその衝撃で割れるか、或いは中の魔法弾が内側からぶつかる事で破損するでしょうから起爆の妨げにもならないでしょう」
カーラの懸念は、実は最初から有ったものなので、私はその対策を告げる。
私なりに、色々と考えているのである。
……その障壁コーティングを先にしておけば、
私は静かに目を閉じ、湧き出た雑念を追いやる。
「よ、良し。では、早速準備に掛かるぞ。方向はともかく、攻撃する目標を確認出来ただけでも、近寄った甲斐は有るだろう」
カーラも気を取り直し終わったのか、魔法式を展開し始めたらしい。
「ここからあの門まで、おおよそ6キロ。まっすぐ、全力で叩き込んでくれる」
不遜さまで戻ってきて、ああ、この鬱陶しさがカーラだなと、しみじみしてしまう。
しばらくはガクガク震えて、おとなしくしてくれていても良かったのだが。
「カーラ。弾道計算と、風の影響をお忘れなく。水平に飛ばしては、目標までは……」
言い掛ける私を、カーラが右手で制する。
「マリア、お前はこの世界で生まれた魂では無かったな? だからか、お前は時々、この世界での当たり前を忘れるな?」
振り返って私を見るその片面ドヤ顔が鬱陶しい。
「風の力を借り、大地に反発を呼ぶ。目標点まで導くのも、お前の言う魔法弾に回転を与えるのも風だ。この世界では……魔法を制すれば、大抵のことは出来る」
ドヤ顔の背に張り付いているエマが、何やら感心するようにカーラの横顔を見ている。
……下ろした所で動けないのだから仕方ないが、しかしなんとも緊張感を削ぐ絵面だ。
「何をしている? さっさとこちらに来て、魔法弾を構えろ。魔法式自体は出来ているぞ?」
そして、渾身のキメ顔で、カーラは笑う。
なんなんだ、コイツは。
「……私は最初から、ここで魔法弾を保持していたのですが? なんでそれを無視して関係ない場所で魔法式を構築するんですか。移動するなら、
格好つけてドヤ顔で魔法講義を開始する前に、私の様子を見て欲しいものだ。
先程まではエマの魔法弾に込められた魔力に慄いていたクセに、安全が確保された途端にいつもの有り様である。
「ん? なんだ、そうだったのか? まったく、そういう事は早めに言って欲しいのだがな?」
いや、ことが魔法関係となると、カーラの鬱陶しさには磨きが掛かる。
何やら偉そうに口を開くとのんびりと振り返り、そして私の後ろへと回った。
「魔法式の方は準備出来ている。魔法弾の方は、問題無いか?」
自信に満ちた声がとても気に触る。
「問題有りません。エマの魔法は完全に停止中、砲弾の炸裂障壁は2枚、保護障壁も2枚。方向も間違い有りません」
私の報告の間にも、カーラから放たれる魔力が、各砲弾を包んでいく。
エマが火薬部分を、私が砲弾を形造り、カーラが砲身となって撃ち出す。
良く言えば合体魔法かも知れないが、これはただの作業分担だと思う。
そんな事を思っていると、魔法弾の感覚が私の中から消える。
ちらりと目を向ければ、各砲弾は特に動いたりはしていない。
ただ、カーラがそれらの操作権を乗っ取っただけだ。
私よりも遥かにレベルの低い筈のカーラが、容易くそれをやってのけた。
元々深い魔法知識を持ち、それを深緑の魔王や小憎らしい双子の悪魔との出会いで深め、旅路の中で磨いてきたのだろう。
それは、私が決めつけてきたこの世界のあり方、レベルで全てが決まる、という思い込みを嘲笑うかのようだ。
「疾く行け、汝は祈り」
もはや苛立ちすら忘れてしまった私の耳に、その声はするりと流れ込んでくる。
「我らの祈り、其は過たず降り注がん」
カーラの声ではない。
暖かささえ感じる、真摯な祈りの声。
それが詠唱であると言う事に、私はすぐには気付けなかった。
「遍く隔たり無く、汝は願い」
カーラの声が、エマの祈りに重なる。
祈り……これは、本当に魔法の詠唱なのだろうか?
私を、いや、魔法弾を中心として、カーラの魔力が高まっていく。
「我らの願い、其は慈しみの腕をもって、全て包まん」
私は、目を閉ざす。
目を閉ざしているのに、私の周囲を、まるで踊る光の粒子のように、魔力が舞っている。
黄金と、白と、そして赤。
それらを追うように、周囲からか細い魔力の光が加わる。
その光たちは胸を突かれるような、行き場のない怒りを含むような、そんな物悲しさを纏っているように見えた。
立ち上るその元を見れば、何の事はない、それは足元の地脈から立ち上る……この土地の、いや、この国の記憶。
怨嗟、憤怒、様々な負の感情の欠片が、温かな祈りに呼び寄せられるように、じんわりと大地から染み出して居るのだ。
色とりどりに光を放ち、冷たく美しく。
その光の粒たちが、急速に5点に集っていく。
「疾く行け、汝は願い祈る流れ星!」
エマとカーラの声に、5点に集まった魔力の光が弾かれるように光を放ち、駆けて行く。
螺旋を描くように魔力の残滓を置き去りに、それらは、まさに流星の如く。
私は目を開ける。
当たり前のように、私の上にはもう魔法弾など無い。
陽光降り注ぐ草原で、魔力の残滓など見えはしない。
あれはただの幻視だったのだろう。
余韻に浸ろうとした私の目に、遠くで恐ろしく巨大な光の玉が5つ、重なり合うように拡がる。
それはあっという間に、眼の前にまで迫る勢いで。
私はそれを美しいと。
そして、哀しいと思い、何も出来ずにただ、見上げてしまった。
「爆殺」エマの祈りは、何を運んだのでしょう……。