巨大な、巨大な光球。
白く輝くそれが、途轍も無い破壊を秘めているとは、俄には信じられない。
その、神秘すら感じる光は一瞬で。
自分でもいつ展開したか判らない障壁が暴風を防いでいたことに、吹き戻しの暴風が周囲の粉塵を巻き上げたキノコ雲を見上げるまで、私は気付かないのだった。
やや時間を開けて、私たちは申し訳程度に瓦礫が散乱した、惨劇の跡地に立っていた。
遠目からでも確認出来たのだが、何となく……である。
そこには、もう瓦礫以外には何も無い。
死体すら、一見してそうと分かるものは無い。
よく見れば腕とかが転がっているが、これは多分、離れた所で吹き飛ばされた死体が吹き戻しでここまで運ばれてきたのだろう。
この付近に居た兵士は、死体を残すことすら出来なかっただろうから。
「エマの魔法の威力というものは、凄まじいな。これなら……あの双子すら、倒せたのではないか?」
降り出した雨の中、ガラス化して小さくひび割れた地面を軽く爪先で蹴りながら、カーラが何でもない事のように呟く。
目を向けると、カーラは相変わらずエマを背負ったままずぶ濡れで、地面から興味を失くすとあちこちに視線を向けている。
……エマはさっきマジックポーションを飲んだし、もう動ける筈なのだが……。
「無理だと思うよぉ? 魔力すごく使うってことは、ちょっと集中しなきゃってことだからぁ。そんな隙、見逃してくれるかなぁ?」
そのエマが、カーラの呟きを拾って答える。
カーラは自分の零した言葉をもう忘れているように、ぽかんと口を開けて視線をうろうろと彷徨わせたままだ。
「それに、仮に発動したとして……あの双子なら、耐えて見せる気がしますね。癪に障りますが、彼女たちは私以上の障壁程度、容易く展開出来そうですから」
私もまた、エマに続いて追撃の言葉を口にする。
それまで観光客よろしくあちこち見ていたカーラが、ようやく私の方へと顔を向ける。
「お前たちの言い分も
視線を遠くに向けるカーラに釣られて、私もそちらへと目を向ける。
「今回は少しばかり魔法弾同士の間隔が狭かったが、それでもこの有り様だ。門付近に着弾した1発で周囲、半径で言えばおよそ4キロは吹き飛んだ。それを追った2発がそれに巻き込まれて起爆、更に被害範囲を広げた。遅れて発射した残り2発はその爆発の余韻をある程度突き破り、結果として」
そちらは、何も無い地平線が広がって見える。
カーラに言われて、その先に皇都とやらが有るのだと、私はようやく思い出した。
「ご覧の有り様だ。向こうはここからおおよそ8キロ程度、ただの更地に変わっているぞ」
あの時、全て同時に打ち込んだと思い込んでいたが、ここで初めて、カーラが時差を付けて打ち出していたと知る。
まるで同時に炸裂したように見えたが、実際にはそのように爆発は起こっていたのだ。
横一線に並ぶ光球を想像していたのに何か違うなあ、そんな違和感や謎が解消された気分だ。
「1発でこの威力と規模だ。たとえあの双子であっても、無事で済むとは思えん。……まあ、止めを刺せねば、怒り狂ってこちらに向かってくるのであろうが」
惨劇の痕、と言うには申し訳程度に瓦礫が落ちている惨状に、却って寒々しい思いをしていた私だったが、カーラの言葉で嫌な想像を膨らませてしまい、げんなりと肩を落とす。
あの双子が怒って本気を出してくるなど、想像もしたくない。
「それに、お前の障壁があの2人に劣っているとも思えん」
なので、カーラの言葉は初め、すんなりとは頭に入って来なかった。
「普段から魔力を無駄に消費するし、その上馬鹿なことに浪費するし、そもそも集中力が疎かだから無闇に持ち上げることも出来んが。お前が本気で耐えようと思えば、あの魔法の前でも半壊程度で済むであろうよ。その後は知らんが、な」
珍しくカーラが自分を褒めたらしい、そう認識する頃には、カーラの暴言が私の耳に届いている。
文字通りに複雑な気分で、私はすぐに何かを返す事は出来ない。
「……起こり得ぬ事をあれこれ考えても無意味だな。今更お前とエマが本気で対峙することは有るまいし、あの双子はそもそも別の大陸だ。問題が有るとすれば」
振り返ったカーラは、ひと仕事終えた様な、晴れやかな笑顔だ。
「ザガン人形がこの国を襲い、甚大な被害を齎した、と言う事実だな。どこで誰がどんな手段で見ていたとも限らんし、証拠は無くとも、ハイペリオの軍人はザガン人形がアイセスブルトの砦を破壊したことは知っている。自分たちに矛先が向くくらいなら、素直に知っていることを盾に自国を守ろうとするだろう」
カーラに対して言いたいことが、カーラの言葉で押し流される。
私の顔はうんざりを通り越して、きっと疲弊していただろう。
「おめでとう、きっと我々は、少なくともアイセスブルトからはお尋ね者だ。他の国も、どちらにも積極的に関わりたいとは思わんだろうよ」
平和主義の人形の悪辣な笑みに、殺戮人形の1体は疲れ切った顔で溜め息を零す。
「私は静かに、のんびりと旅をしたかっただけなのですが」
ようやく出てきた言葉も、疲労にまみれて萎れている。
そんな私を見て、カーラと、その背中のエマが笑う。
「はっはっはっ、なかなか良い冗談ではないか。お前にしては上等だ」
「マリアちゃん、面白いこと言うよねぇ。のんびりしたいヒトは、こういうコトしないよねぇ」
こいつらは、なんでこういう時には特に仲が良いのか。
揃って笑顔なのが、本当に腹が立つ。
「だが、私も思う所は有ったのだ。良い気晴らしになったぞ?」
満面の笑みにどこか寂しそうな、悲しそうな色を差して、カーラが言う。
「うんうん。これでエリスちゃんも大丈夫だよねぇ? 楽しかったし、これで良いんだよぉ」
どこまでも晴れやかに、狂戦士が笑う。
私はただただ、溜め息を量産するのみだ。
「……言いたい事も有りますし思う所も結構ですが、取り敢えず戻りましょう。ここでは落ち着きませんから、私は適当に場所を探します。お
こんな爆心地でのうのうと拠点に戻る度胸はない。
のんびり寝起きにノコノコ出てきた所で、調査に訪れたアイセスブルトの軍と鉢合わせなどしたら、面倒なことこの上ないのだ。
いつもの白いドアを
少なくとも丸一日人目につかない、そんな場所を見つけたら、とっとと戻って私も食事を楽しみたい。
微妙な疲れを感じながら、私はそれだけを目標に走るのだった。
常に食事か睡眠か、どちらかしか考えていないと思っていました。